第52話 想い
お待たせしました。遅くなってすみません。
人型の魔導人形作りの教授は拍子抜けする程、あっという間に終わってしまった。時間にして三日で卒業を言い渡された。
だからと言ってゼペットさんが手を抜いたと言う訳ではない。元より私は魔導人形作りの大部分を教わってたし、今回は失敗したくないから人型の作り方の事細かな部分を教わりにいったのだ。
「さて、始めようか」
そして、今日からリズの魔導人形の作成を始めるところだった。
っと言っても、材料等は既に作ってあるから、組み立てをするだけなんだけども、その組み立てが一番重要なんだから気が抜けない。
「【極集中】」
先ずはベースとなる基礎フレームを取り出す。
今回選んだ基礎フレームの材料はミスリルと黒鉄の合金、私達は黒ミスリルと呼んでいる。(リズ命名)
黒ミスリルは対比にもよるけども、黒鉄よりは柔いけど黒鉄より重くなく、ミスリルより硬いけどミスリルよりは重い性質がある。
そんな黒ミスリル製のフレームは人の骨より数は少ないけども、アルデバランを作った時よりは多めだ。
それぞれ大きさの違うフレームを人の形に置いて、心臓のある部分に黒鉄で作ったコアケースを取り付ける。
コアは文字通り魔導人形心臓だ。だからそのコアを守るコアケースは多少重くなっても、現最高の硬度をもつ黒鉄を採用。
そのコアケースに導魔線の上位素材の高魔導線を取り付けて、各フレームに張り巡らしていく。
一通り終わったら今度は魔造筋肉を取り付ける番、魔造筋肉の上位素材中級魔造筋肉を使う予定だったけど、どうにか一手間掛けられないかと考えた。
そこで魔造筋肉を細く切り分け縒って綱状にして、その綱状のを編んでみた。
完成したのが、魔造筋肉繊維、魔造筋肉そのままを使うより同じ量で倍近い出力を出す事ができる代物だ。
重量を削減するため少し少なめに張り付けていく。ここは医学書とかを参考にして、実際の人の筋肉の付き方通りに作る。
胸の部分はスライムゼリーをベースに合成したスライムシリコンを使って、形が崩れないよう上から魔造筋肉繊維を少量付ける。
これで躯部分の基礎は終わり、次に顔か……
「【極集中】解除、ふぅ」
流石にここまで休憩なしでやってたから疲れた。
UIを開いて時間を確認すれば、作り初めてから十二時間が経過してる。
「今日の作業はここまでかな」
先ずはリズの魔導人形を作り終えたら、私の新しい魔導人形を作って、ドゥーガとアルデバランの調整と強化、ギルドハウスができたら皆の装備を新調、やる事はまだまだ沢山あるけど、一つ一つ片付けていかなきゃ、やる事……か。
フレンドリストを開いて、ブレイブの名前を見る。
やっぱり名前はグレーアウトしていて、今はログインしていない。
いや、”今は”はおかしい。ここ最近ずっとグレーアウトのままなんだから。
「勇気どうして……」
◆
きっかけはなんだったのかと問われれば、母親同士が仲良かったからだ。
俺の母親、剱崎夕凪と響の母親、遥調は幼馴染で凄く仲が良かった。
おおよそ同じ時期に結婚して、おおよそ同じ時期に妊娠、響が二日前に産まれて、俺が二日後に産まれた。
気付けば響が隣にいるのは当たり前で、これからもずっと続いていくんだろうと思える日々だった。
だけど、それは勘違いだと思い知らされる。
現実は酷く残酷なものだと突き付けられ、俺の、俺達の日々は突然に終わりを告げた。
今でも頭から離れない無数の記憶。
深紅に染まるアスファルト。
その深紅を流す、叔父さんと叔母さんに真音の変わり果てた姿。
喚き、響の事を化け物と謗る男。
倒れる響。
病室で痩せていく響の姿。
必死に語りかけ、それでも届かず荒れる母親。
それを支えた父親。
響の家族の葬儀。
そして、何もできなかった自分。
失い欠けて初めて気付く、当たり前なんて無かったんだと、このままだと、響の事を失うと……
だから、約束した。
だから、手を握った。
それでも時々頭を過る。
──ホントウハタダノエゴナンジャナイノカト。
「はぁ、はぁ、はぁ」
家には小さいとは言え、道場というより修練場がある。
この間からゲーム内で不調な俺は、ここしばらく此処で身体を動かしていた。
無心にやっているつもりでも、どうしても雑念が混ざる。それを振り払おうとするも、余計に意識してしまい動きは乱れ、無駄な体力ばかりが消費されている。
原因はわかってる。あの日、イベント最終日に言われた言葉が原因だ。
──いつまで見て見ぬ振りをするつもりだ?
煩い。
──いつまでも時間があると思ってるのか?
言われなくたってわかってる。
でも、だからって小康状態の響の事を余計な事をして悪化させる訳には……
「精が出るね」
思わず頭を掻きそうだった時、不意に声を掛けられ振り向くと父さん、剱崎秋一がいた。
「……父さん、どうしたの此処に来るなんて珍しいね」
「そうだね。勇気、たまには二人でお茶でもしないかい?」
手にしたお盆の上には急須と湯飲みが二つある。
柔和な笑みを浮かべているけど、そこには有無を言わせない圧力があった。
「……わかった」
父さんと縁側に並んで座り、湯飲みに入ったお茶を啜る。
住宅街故に響く人の声、車の行き交う音、鳥の鳴き声や風に揺られる葉音、そんな音が支配する中で、俺と父さんがいる縁側は静寂が支配していた。
互いに互いを見もせず、話し掛けもせず、ただただ茶を啜る音となんでもない日常風景を眺める。
それを先に崩したのは父さんだった。
「どうしたんだい?」
「……何が?」
「最近、随分と余裕がなさそうじゃないか」
「……そんなこと」
「ほら、今も僕と話してるのに、違う事を考えているね」
「っ!?」
「第一にここ一ヶ月、響ちゃんが毎日君の好物しか出してない時点で、何かあったと言っているものだよ」
本当に幼馴染と言うのは不便なものだ。隠し事さえ満足にできやしない。
それでいて何も訊いてこないのは、俺が響に訊かれたくないのを理解しているから、本当に幼馴染と言うのは便利で不便なものだ。
余計な心配を響に掛けて何をやってるんだ俺は──
「本当はもう少し放っておくつもりだったんだけどね。いい加減夕凪が痺れを切らしそうだったから先手を打ちにきたんだ」
なるほど、うちの母さんだったら、何をウジウジして私のヒビちゃんに心配掛けてるのよと叱りに来そうだ。いや来る。
むしろ一ヶ月近くも放置してくれたのは、父さんが執り成してくれたんだろう。
「……響の事で、さ」
「うん」
「このままでいいのかって……医者は良くなってるって言ってるけど、とてもそうは思えなくて」
イベントの時に見た未だ冷めやらぬ憎悪、母さんから使うなと言われている天拳の使用。リズ達から聞いた夜に魘されいる事等がやっぱり良くなってるのは表面上だけで、その本質はまだ変わってないんじゃと思わされる。
「子供の頃だったから言えた。響を守る。救うって、でも実際にはまだ救えてない。守れてもいない。約束を果たせてない」
子供の頃は良かった。ただ響の手を握って、守るんだと宣ってれば良かったんだから、でも大人に近づくにつれて気付く。俺がやっていたのは、ただの先伸ばし、時間稼ぎでしかないんじゃないかと。
「ただ、実際どうすればいいのかわからないんだ。徒に行動をしたら悪化させて、今度こそ響が壊れてしまうんじゃないかって」
結局のところ、俺が臆病なだけなのだ。ただ響を失いたくないだけじゃなく、”俺のせいで”響を失いたくないだけ。
なんとも嗤える話だ。
「知ってるかい?」
「何を?」
「君があのゲームを響ちゃんに送ってから、良く笑うようになったんだ」
「? いや、前から笑って」
「これは僕だけじゃなくて夕凪も同じ事を言っているんだよ。作りものみたいだった笑顔が、変わって本心で笑ってるてね」
「……母さんが」
「それは紛れもなく、勇気、君がやった事だよ。勿論君だけじゃない。ゲームの中で色んな人に出会って、色んな人に助けられた結果なのかも知れない。だけどね。その切っ掛けを作ったのは間違いなく勇気だ」
俺の目を真っ直ぐに見詰めて語る父さん。
「だからね。少し休んでもいいんじゃないかな? 前に進むのも大切だ。だけど、休まないで歩ける人間なんていない。それは僕でも勇気でも、体力お化けな夕凪でも変わらない。勿論響ちゃんだってね」
優しい声音で諭す父さんの言葉は不思議とストンと噛み合うような感覚を覚える。
「急ぎ焦ったって、良い事はないよ。そういう時に出した答えは大体が良くないものさ。だから休みがてら、立ち止まって周りを見てみると良い。君は一人かい? 違うだろう? 僕がいる。夕凪がいる。葵ちゃんがいる。ゲームの中の友達達がいる。そして何より、響ちゃんがいる。一人でできないなら、誰かに力を借りれば良い。ゲームの中の勇者だって、仲間の力を借りて魔王や神様を倒すんだからね」
「……そう、だね」
「さしあたって、君がやらなくちゃいけない事は、響ちゃんに心配を掛けない事と──」
「心配掛けてごめんと謝る事」
「──わかってるなら、これ以上は余計なお節介だね」
なら僕は夕凪の機嫌でもとってくるよと縁側から去っていこうとする父さんを呼び止める。
「父さん」
「何かな?」
「ありがとう」
「うん。頑張るんだよ?」
「ああ」
さて、修練場を雑巾掛けしてシャワーを浴びて、響への謝罪を考えるとしよう。
今は焦ったってしょうがないから、できる事をしよう。
──そう思っていたんだけどな……
◆
UIを開いて時間を確認すれば、もうそろそろリアルでも良い時間だ。
ログアウトして夕御飯の支度をしないといけない。
「その前に作り終えて良かった」
目の前には台に横になる全裸の美女がいる。
そうは言っても、先程まで私が作っていた魔導人形なんだけども、だけど台に横たわる全裸の美女って映画やアニメ等のワンシーンでありそうと思えるくらいには私はこの時浮かれていた。
何せ、最高の出来だと自負できる出来栄えなんだから、それも当然だろう。
「さて、アイリス起動」
私の言葉と共に、今まで閉じられていた瞼が開かれる。
紫色の瞳で辺りを見渡した後、躯を起こして、台の上から下りた。
「初めまして創造主様、随分と良い躯体を頂けて、このアイリス感激の極みでございます」
え、喋った? ゼペットさんのレーゼは喋らなかったのに。
「あら? どうされました? 私に何か不備でもありましたでしょうか?」
自身の躯を確認するよう捻る度に、立派な物がユサユサと揺れる。
違う。私は変態じゃない。変態じゃない。変態じゃない。断じて違う。
「と、とりあえず、これを羽織ってくれる?」
白いシーツを手渡せば、何も言わずに指示に従うアイリス。
「羽織りました創造主」
「そ、そう」
あ、危なかった。危うく開けてはいけない扉が開かれるところだった。扉の向こうで待つリズの姿すら見えたんだから。相当重症だったに違いない。
「アイリス、貴女は喋れるんだね」
「ああ、その事ですか。そういえば私以外の人型の魔導人形と知り合いでしたね」
またおかしな事を言ってる。まるでコアの時から記憶があるような口振りだ。
「私はピノッキが作った特別なコア、黄道十三宮の一つですから、他のコアと一緒にされては困ります」
プンプンと憤慨するように頬を膨らませるアイリス。
だけど黄道十三宮ね。モデルは蛇使い座を含めた十三星座か。
「私達はコアとして作成されてからずっと記録がありますので、これは他の黄道十三宮や赤道十三辰も同様かと」
赤道十三辰、コアの詳細はわからないけど、普通に考えるなら赤道十二辰にオリジナルで一つを追加した感じかな。猫とか……安直過ぎるかな。
「なら、話が早いかな」
「はい。私のマスターとなる変態はどちらでしょうか?」
あれ、今イントネーションがおかしかった気が……気のせいだ。きっと気のせい。
「今呼ぶところ。ちょっと待ってて」
フレンドコールでリズを呼びだせばすぐに行くと返事が帰ってくる。
そうは言っても、少し狩りに出ていたみたいだからしばらく時間が掛かるだろう。
「少し時間がかかるかも」
「そうですか。では創造主、少し話し相手になってくださりますか?」
「いいよ」
「嬉しいです」
快諾すれば花のような笑顔が帰ってくる。
「創造主はこの後、私の妹達を作られるんですよね?」
「うん」
「後は、ドゥーガお兄様やアルデバランお兄様の改良ですよね?」
そこまで把握してるんだ。それよりお兄様って、いや、間違ってないのかも知れないけど、先にコアとして完成されてたアイリスとしては納得できるのかな。
「ドゥーガ達はお兄様なんだ」
「当然です。私達は同じ創造主から作り出された兄妹機ですから、コアとしては私の方が早く作られましたけど、躯体と名を与えられたのはお兄様方が先ですので、お兄様なんです」
まぁ、私だけマスターは違いますけど、些末な問題ですと、彼女は笑った。
「お願いです創造主、ドゥーガお兄様を調整する時、創造主が持つ宝石をコアに合成してあげてください」
「宝石、これの事?」
イベントの報酬の無垢な希望のクリスタルをインベントリから取り出して見せると、アイリスは無言で頷いた。
「ドゥーガお兄様のコアは普通のコアです。アルデバランお兄様もそうですが、元になった魔石の格が違います。なので……」
「うん。わかった」
「良いのですか?」
「うん。だって、アイリス必死だし、ドゥーガは私が一番最初に作った子だから、思い入れもあるからね。アイリスを信じるよ」
「ありがとうございます創造主!!」
感極まったのか私へと抱き付いてくるアイリス、だけど今回は少しばかり間が悪かった。
「メルちゃんお待たせ!!」
バンっと工房の扉を開けて入ってくるリズと目が合う。
見詰め合う事数秒、リズは一つ頷いて、いそいそと服を脱ぎ始めた。
「ちょっ、リズ服を脱がないで!?」
「良いではないか良いではないか」
下着姿でジリジリと寄ってくる変態。
私の事を離さないアイリス。
ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイ。色々とヤバイ。過去最高の危険が迫ってくる。
「メルちゃん」
「アイリス、離れて、いや助けて」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
いや、人の話を聞いて、お願いだから、いやー。
この後、何があったかは私の精神衛生状伏せさせてもらうけど、大事にはならなかったとだけ言っておく。
敵だったキャラが仲間になるのはどうしてこんなに胸が熱くなるんですかね。
FF4とか。




