第36話 炊き出し
お久しぶりです。更新に時間がかかってしまってすみません。
イベントも終盤の九日目、私が何をしているのかと言えば……
「メル姉焼きあがったゾ」
「ありがとうスー」
スリーピンこと、スーと一緒に廃都の広場で炊き出しの真似事をしていた。
「次ハこれダナ」
そう言って、私が作ったパイを窯へと入れるスー。
まったく、どうしてこうなったんだろうか。私達が焼いたパイを食べるプレイヤー達を眺めて少し辟易とする。
他にも炊き出しをしているプレイヤーもいるんだけど、いかんせん供給する側のプレイヤーと供給される側のプレイヤーの数が違い過ぎる。
その為、作っても作っても足りず、他の炊き出しプレイヤー達の顔も若干引き吊っている。
さてと、話を戻すと何故私達がこんな事をしているのかと言えば、今日の早朝4時頃まで遡る。
リズの抱擁を受けつつも比較的快適な睡眠をしていた私は、突然の地震と盛大な騒音に叩き起こされ急ぎ外に出ると、ジ○リ作品に出てきた動く城みたいな関節をしたmob達が街を襲撃しているところだった。
もう少し眠れたのに叩き起こされた私達は、八つ当たり気味に戦い駆逐し終わったのが朝6時頃、その後に出てきたinformationで先のmobがクエストmobだと発表され、緊急クエストの攻略の為に集まれたトッププレイヤー達が合同会議をしている。
多くのプレイヤー達の協力がないとクリアできないかもしれないと、ブレイブとシェスカ二人に頼まれたから、私はこうして炊き出しの真似事をかれこれ四時間程しているといった訳だ。スーは私一人じゃ大変だろうって手伝ってくれている。
リズや他のメンバーも手伝ってくれようとしたんだけど、ね。色々とお察しである。
「Wクエスト、か」
「どうしたんダメル姉?」
思わず呟いた言葉に、スーが首を傾げる。ちなみに私の呼び方が変わってるのは、結局私の方が折れて、舎弟じゃなく、妹分として認める代わりに姉御とは呼ばないでと言った結果、この呼び方に落ち着いたのだ。
スーの事を渾名で呼ぶようになったのもこの時からである。
「うーん。皆クエスト、クエストってやる気だなって思ってね」
戦闘をするプレイヤーは英気を養うように食べ休憩して、生産をするプレイヤーは戦闘プレイヤーの補助を出来る限りしようと頑張っている。
「メル姉ハあまり乗り気じゃねえノカ?」
「どうだろう? ブレイブやリズ達が乗り気だから手伝ってはいるけど、そこまでクエストをクリアしようって躍起にはなれないかな……」
今こうしているのもブレイブ達に頼まれたからだし。
もしもこれが私の知り合いの住人の人達を巻き込んだり、ブレイブ達が危ないなら全身全霊で蹴散らすけど、そうでないなら勝っても負けても楽しければそれでいい。
「そんなもんカ」
「そんなもんだよ」
焼けたパイを等分に切って紙皿にのせ、待っていたプレイヤーに手渡す。
「スーはどうなの?」
「やるからニハ勝たなくちゃナと思うゾ」
「勝ち負けが基準?」
「負けれバ悔しイからナ、メル姉ハそうじゃないノカ?」
勝てば嬉しい、負ければ悔しい。そう言った感情、か。思えばそんな事を考えた事もなかった。
普段は目立たないように色々と抑えていたし、体術や他の技術を叩き込まれた時だって、殆ど挫折というものを知らなかった。それに出来ないといけなかったから……
「……ごめん分からない。今は違うけど、私は一番になるのが当たり前だったから……」
とても傲慢な答えだとは思うけど、昔の私にとっては一番になることが手段であって目的じゃなかった。ただ、喜んで欲しかった。褒めて欲しかった。それだけだから……
「……メル姉」
「ぅんだとコラァ!!」
なんとも言えない微妙な空気になっていたのを書き消すような、怒号が響く。
そちらに目を向けると、ボロボロの装備を着けた数人の男達がまだ小学校高学年くらいの少女に怒鳴っている。
「っ、で、ですから、他の方達も並んでいるので、横から割り込みをしないでください」
数人の男達に囲まれ、脚が震えていても気丈に言い返す。
それにしても、あの叫んでる男の仲間とおぼしき一人に何故か見覚えがあるような……
「あぁ? 俺達をギルド【ラグナロク】って知って言ってんのか!?」
ああ、道理で見た覚えがある筈だ。シェスカにビビって逃げた連中の中にいた奴だ。
それにしても、小さな子に怒鳴るなんてどうかしてるだろうに、シェスカの件といい【ラグナロク】はバカなんだろうか?
周りの非難を向ける視線に気付いてないのか、それとも自分に酔っているだけなのか、男は続ける。
「俺達【ラグナロク】がクエストクリアしてやるんだから、サポートするのが当たり前だろうが!!」
バカ確定だ。その上自信過剰とか、可哀想過ぎて目も当てられない。
第一にボロボロになった装備でどう戦うつもりなのだろう。
「い、意味がわかりません」
「なん、だとぉ!?」
「それに、どんな理由があっても割り込んでいい理由には、ならないと思います!」
推定二十歳近くの男が少女に道徳を説かれるとか、これからの社会が不安になる。むしろ哀れだ。
若干怯えながらも毅然とし正しい事を言う少女と、あまり快く思われてないギルドの構成員で不遜な態度をとり少女を恫喝する男、周囲の反応なんてわかりきっている事で、【ラグナロク】の面々に野次が飛び始める。
年下の少女に嗜められた挙げ句、周りからの野次に男の顔は赤黒く染まる。
あ、マズイ。
「五月蝿いんだよぉ!! ガキが大人に知った風な口をきくんじゃねぇええ!!」
インベントリから取り出した剣を少女へと振り下ろす男。
周りの野次馬達は突然の凶行に驚き戸惑い反応が遅れている。
あるスキルを使用して駆け出し、インベントリからディアボロッソを取り出し、下から掬い上げるように振るう。
幸いにも男が凶行に走る前に駆け出したおかげでディアボロッソは振り下ろされた剣へと当たり、甲高い音と共に真っ二つした。切れた剣先がクルクルと回り宙を舞う。
「なぁ!? ぐぼぁ!!」
武器が壊された事に呆けた男の無防備な腹部へ掌底を叩き込む。踏ん張れずに地面を転がった男。
少女を守るように立ち【ラグナロク】の連中を睨み付ける。
「年下の、それも女の子に武器を向けるなんて正気?」
「げほぉ、げほぉ、っ、て、テメェなにしやがる」
仲間の手を借りて立ち上がる男だが、武器が壊れた事を思い出したのか、どうしてくれるんだ、お前の武器を寄越せ等と、私の問いを無視してピーチクパーチクと囀ずっている。
さて、どうしようか。目の前の奴等を血祭りにあげるだけなら簡単だ。けど後ろにいる女の子や辺りには子供の姿がちらほらと見える。
そんな中で男達を血祭りにあげるのは情操教育上よろしくないような、あ、でもこの連中の方があらゆる意味で教育によろしくない気もする。それならいっそうのこと反面教師として、バカな事をすると痛い目を見ると教えてあげる機会として、蹴散らすのもいいかもしれない。
「か、華月さん」
「んだよ!?」
「あ、赤ゴスに戦斧って、ぼ、暴虐姫なんじゃ……」
聞く耳を持たない私の態度へ熱くなってる男に、私の正体に気付いた仲間の一人が止めようとする。
だけど遅い。やると決めた私は詰め寄ってきてた男の股座を爪先で蹴り上げる。
「★◆〇!?!」
無防備だった男は声にならない悲鳴をあげて股を抑え蹲る。
突然の事で唖然としていた隣の男へ肘打ち、腹部を抑えた拍子に落ちてきた頭へ踵下ろしを叩き込む。
そこまでいって、ようやく事態を飲み込んだ【ラグナロク】の連中は戦闘態勢へと移行。マギアを発動しようとして悲鳴をあげた。
「ありがとうスー」
スーが御札を投げて掩護してくれたのだ。
さてトドメと一歩踏み込んだところでよく知る声が待ったを掛けた。
「そこまでにしとけ」
クエストの為に会議をしていた筈のブレイブと数人のプレイヤーが此方へと向かってくる。
どうやら騒ぎが大きくなりすぎたらしい。会議を中断して様子を見に来たんだろう。
「これはいったいなんの騒ぎだぁ?」
「メルさん怪我はありませんか?」
「うん、特にないよ」
あの程度の連中に遅れをとるつもりはないけれど、心配されるのはどうにもこそばゆくなる。
スーやテッタ、リリウム、知り合いが集まって来て、事情を説明していると、不意に左の袖が引かれる。
そちらを見ると、先ほど助けた少女がいて、可愛らしくこちらを見てはそらして、見てはそらしてを繰り返し、意を決したのか口を開く。
「あ、ありがとう。お姉ちゃん」
「うん。怪我がなくて良かった」
うんっと、少女は満面の笑みをむけてくれる。
「あー、取り込み中のところ悪いんだが、今いいか?」
そんな中、先ほど聞こえた男の声が掛けられた。
「取り込み中だとわかっているなら後にしてくださいませ」
その男の声に答えたのは私ではなく、キツい声音をしたシェスカだった。
「そうしたいのは山々なんだけどな? そうも言ってられないだろうマイシスター」
……はい?
マイシスター?
私の、妹?
妹って事は、兄って事。
つまり目の前の男とシェスカが兄妹?
改めて男を見るけど、似ても似つかない。
銀髪をオールバックにした長身の筋肉達磨もといマッチョ男、私が言えた義理じゃないけど、ファンタジーな世界観を壊すようなジーンズと素肌に革ジャン一枚の露出狂とも見れる男がシェスカと兄妹、だと……
私と同じく衝撃を受けたのかスー達も面を喰らっている。
そんな私達を他所にシェスカとその兄は言い争いを繰り広げている。
「第一、そのような半裸状態で私のお友達の前に立たないでくださいます。ザックさん?」
「おいおい、どんな格好をしようと俺の勝手だろうが、そも俺の筋肉に見られて恥ずかしい箇所などねぇ!!」
「そういう問題ではありませんわ。半裸の露出狂手前の人が私の兄だと思われるのが我慢出来ませんと何度も申し上げてますわ」
「露出狂手前だとぉ? それはボディビルダーをしてる俺にとって最も屈辱的な言葉だぞ!!」
「はん。筋肉を愛でる事しか脳がないから、彼女にもフラれるのですわ」
「おまっ!! いいだろう。そこまで言うなら……」
「よろしいですわ。ここまで言ってもわからないのでしたら……」
「戦争だ!!」
「戦争ですわ!!」
こうして、観客をおいてけぼりにして、仁義なき兄妹喧嘩が始まろうとしていた。
ザックのイメージは、某史上最強の弟子の喧嘩百段の人をイメージしてもらえると早いと思います。




