第30話 悪魔の斧
ここ最近、遅くなってすみません。
エタらないようにはします。
人によっては少々重い話があるかもしれません。
あの部屋を出たすぐ傍に、透明な筒状のエレベーターが稼働していたので、それに乗って一番下の階層まで下りている最中、私達は無言で装備のチェックをしていた。
ここにくるまで、一度も戦闘をしていないどころか、罠すらなかったのだ。
仮にもここの運営が用意した隠しクエストなら、こんな簡単な訳がないだろう。
まず間違いなくボス戦があるだろうし、ここから先は敵性mobが多数いるかもしれない。
リアルでエレベーターが鳴らすのと同じ音を鳴らして扉が開く。
エレベーターから出ると、真正面に大きな扉が見える。
そして、その扉を守るように二つの大きな騎士像が鎮座している。
左の騎士像は大楯、右の騎士像は大剣を持っている。
その像を見て、私達全員の意見は一致した。
「これは」
「あれ、であるな」
「ですわね」
「だと思います」
「ですね」
「もしかしなくても、ボスだよね」
ガーゴイル、もしくは……
最下層の中央まで歩くと、機械的な声が響く。
『警告、警告、貴方方はこの先に進む権利を持っていません。速やかにこのフロアから退去してください。繰り返します。貴方方はこの先に進む権利を持っていません。速やかにこのフロアから退去してください』
お決まりと言えば、お決まりの警告、これを無視したら、あの像が動き出すといったところだろう。
『なお、この警告に従わない場合、敵対勢力と見なし、強制的に排除します』
「なんて言うか、お約束だね」
「である」
元々、戦うつもりでいるんだから、こんな警告に従う訳もない。更に進むと、警報まで鳴り始めた。
『対象六名を敵対勢力と判断、永久の焔防衛の為、第二級戦闘モードへと移行します。周囲にいる非戦闘員は急ぎ避難してください。繰り返します。対象六名を敵対勢力と判断、永久の焔防衛の為、第二級戦闘モードへと移行します。周囲にいる非戦闘員は急ぎ避難してください。魔導人形グレイシア、ベイオウルフ起動』
二体の騎士が動き出す。
ゆっくりとした動作で、方膝立ちから立ち上り得物を構えた。
「さて、どうしようか?」
「即席パーティーで連携もくそもないのである」
「お互いにフォローしあえば問題ありませんわ」
「それじゃあ、やろうか」
特に方針等決めずに戦闘が始まる。私は長柄斧を手に向かって右側の大剣を持った方、個体名グレイシアへと駆け出した。
「OM【オールエリア・リィンフォース】防御力アップのマギアです。気を付けて!!」
その最中に淡い燐光が私を包む、テッタの支援魔法か、助かる。
三メートル半はある巨躯の下へと潜り込もうとする私を迎撃するべく、手にした大剣を持ち上げ振り下ろしてくるグレイシア、その動作は立ち上がる時よりも速く、そして鋭かった。
袈裟に振るわれた大剣を長柄斧で迎撃する。
「どっかーん!!」
真正面から衝突した二つの金属塊は甲高い音を起て、その少し後にお互いに弾かれる。
弾かれた拍子に後ろへと飛び後退、その最中にインベントリから片手剣を三本取り出して、某不良神父よろしく、指に挟んで投げる。
片手剣は狙いを違わずグレイシアへと飛んでいったが、大楯を持った方、ベイオウルフに阻まれてしまう。
「うおりゃー!!」
「ふん!!」
私の片手剣を防いだ隙を逃さないようにゴードンとリズの二人が両サイドからグレイシアを狙って大剣と戦鎚を振るう。
だけども、その攻撃はグレイシアの大剣に、ベイオウルフの蹴りに阻まれてしまう。
「うわ、ヒヤッとしたぁー」
「危なかったのである」
すんでのところで反撃を防いだ二人はすぐに態勢を立て直した直後。
「OM【アルタノヴァ】」
「OM【フリーズランサー】」
「OM【プラズマボム】」
シェスカ、アルカ、テッタの声が聞こえ、二体の騎士は三つの魔法に飲み込まれた。
威力が高かったのか、土煙が巻き上がり二体の様子を隠している為正確な事はわからないけど、これで終わるようなら、くたばれ運営とは言われないだろう。
土煙が晴れて姿を確認すると、まったくの無傷の状態の二体がいた。強いて謂うなら、少しばかり汚れが付いたくらいである。
「これは、長丁場になりそうですわね」
「だね」
「魔導人形なら、頭部か胸部に核がある筈だから、それを壊して」
「了解である」
弱点は伝えたけど、私達には決め手が欠けていて、ズルズルと戦闘時間だけが長引いていく。
どうする? かれこれ二時間くらいは戦っている。
周りの様子見てもアルカとテッタの顔に疲れが見える。リズとゴードンはまだ平気そうだけど、このままだともつかわからない。
切り札を切るべきか……
だけど……
「きゃ!!」
「テッタさん!?」
そんな私の逡巡を嘲笑うかのようなタイミングで、テッタが足を縺れさせた。
近くにはグレイシアがいる。当然動きの止まったテッタを狙う訳で。
考える間もなく、私は駆け出す。
横薙ぎの斬撃がテッタを襲う。
「あ……」
すんでのところでテッタの事を突き飛ばす。
驚いた様子で私を見るテッタに笑い掛けると、すでに回避不可能な大剣へと向き直って気休めだけど長柄斧でガードする。
まず腕に衝撃が伝わる、次に長柄斧が真っ二つになるのを知覚して、全身がバラバラになりそうな衝撃が身体を打ち、足が地面から離れて盛大に吹き飛ばされ、しばらくの浮遊感を味わうと、壁に激突したようで、今度は背中に衝撃が広がる。
壁に激突した私はそのまま地面に倒れこむ。
「メルさん!!」
「メルちゃん!!」
テッタとリズの悲痛な叫びが聞こえるけど、声が出せない。私の意識はそこで途切れた。
きっかけはなんだったのかと問われれば、今でもハッキリと答えられる。
母さんが喜んでくれたからだ。
母さんが褒めてくれたからだ。
私は学んだ。
私ができなかった事ができたり、良い子にしていれば、母さんが喜ぶと。
だから私は頑張った。
すると、今度は父さんが褒めてくれた。嬉しそうに私の頭を撫でてくれた。
私は学んだ。
私が頑張れば母さんだけじゃなくて、父さんも喜ぶんだと。
だから私はもっと頑張った。
そしたら今度は近所の人達が、響ちゃんは凄いわねっと言い出した。
私はどうとも思わなかったけど、父さんと母さんは満更では無さそうだった。
私は学んだ。
私が頑張れば母さんや父さんの評価にもなるんだと。
だから私はもっともっと頑張った。
そしたら弟の真音が、私の自慢をし始めた。
私は凄いんだと友達に言っていた。
私は決めた。
真音が誇れるような姉であろうと。
だから私はもっともっともっと頑張った。
頑張って、頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って、頑張った。
そして…………
そして私は全てを失った。
どれくらい気を失ってた?
それよりも即死しなかったのは驚きだ。てっきり死んだと思ったんだけど……
リズのお蔭かな。
腹部に走る激痛に顔を歪めながらも、まだ続いている戦闘を確認するべく顔をあげる。
良かったまだ誰も死んでないみたい。だけど、明らかに圧されている。このままじゃジリ貧だ。
どうする?
切り札を切る?
嫌だ怖い。
勇気がいない。怖い。
助けて━━
「怖い。助けて、たすけてよゆうきぃ」
情けないとは思う。でも怖いのだ。
本気を見せた時の皆の顔がわからない。
それが、とても怖い。
あの日から、全てを失ったあの日から、私は人の妬みとかが怖くてしょうがない。
だから頑張らない。本気を出さない。テストでもわざと八十点以上とらないように調整してるし、体育や家庭科等でも無難に済ましている。
視界が滲む。頬を伝って涙が床を濡らしていく。
かろうじて声をあげて泣くのを我慢しているような状態だ。
でも、このままなにもしないのも嫌だ。
ワガママだとは思うけど、本気を出すのと同じくらい、大切な存在が死ぬのを見るのは怖い。
あれ? 私、リズ達に死んで欲しくない?
ゲームでしか会った事のないのに?
アルカとはあまり話した事ないからわからないけど、リズ、シェスカ、テッタに私は死んで欲しくないんだ。
いつの間にか大切な友達だと思っていた……
そんな人達を見捨てる?
あり得ない。
切り札を切る?
できれば切りたくない。
どうしよう。どっちを選んでも、私はきっと後悔する事になるんだと思う。
なら、自分が納得できる方、伯母さんや勇気に恥じない自分にいられるよう。真音が自慢した姉でいられる方。
軋む身体に鞭を打ち、倒れていた身体を壁に背を預けて座る態勢に変える。
見た感じ、テッタが一番危ない。インベントリから狼のエンブレムが印されている蒼玉取り出して投げる。
「テッタを守って」
蒼玉からドゥーガへと姿を変え、テッタの方へと駆けていく。
これでテッタは大丈夫。次はこの痛みをなんとかしないと。
インベントリからサンゴお手製のポーションを取り出して、封をしてるコルクを口で引っ張り抜いて吹き出し、中身をあおる。
初めて飲んだポーションはラムネの味がした。
スゥっと痛みが引いていく。そして私は使う気のなかった切り札その一を取り出す。
騎士のエンブレムが印された紅玉。奇しくもあの二体と似たような魔導人形。
少し手のひらで遊ばして、ドゥーガと同じように投げる。
「アルデバラン。盾持ちを抑えて!!」
紅玉はあの二体よりも一回り小さい騎士の姿へと変えて、私の命令を遂行しにいく。
突然、乱入したアルデバランにリズ達は驚くも、すぐに私の方を見て味方だと納得したみたい。
さて、私もこんなところで怠けてはいられないや。
やると決めたんだ。なら、やろう。
立ち上がって戦場へと戻る。
「ああ、メルちゃん!! 良かった」
私が戻るなり、大剣を放り出したリズが私へと抱きついてくるけど、それを払うのも今は億劫だ。
「リズ、何か髪紐ない?」
「あるけど? 使う?」
「うん。ちょっと本気を出すのに髪が邪魔くさいから縛ろうかと思って」
「あ、なら私が結ったげる」
いや、結ったげるって戦場でなにを悠長な事を言っているんだろうか。
だけど、リズは私が呆れながら注意しようとした間に、驚く手際で私の髪を綺麗に結ってしまった
「できた。お姉さんの渾身のできね」
「もう、呆れて言葉もないわ。でもありがとう」
「いえいえ」
「それと、悪いけど、今から本気を出すから、盾持ちが邪魔にならないように盾持ちの方を相手してくれないかな?」
「……それは大剣のやつと一人で戦うって事?」
ベイオウルフの邪魔もそうだけど、全力の私と合わせる事ができるのは勇気や伯母さんくらいで、周りにいられても逆にやりにくい。言い方が悪いと足手まといだ。
「うん。全力で破壊しにいくから周りの事を気にしていられないと思う。だから、盾持ちの邪魔が入らないようにして欲しい」
リズは少し悩んだように俯いた。
だけど、すぐに顔をあげて頷いてくれる。
「わかった。シェスカや他の皆にも伝える」
そう言って走り出そうとするリズを引き留める。
「ありがとう。盾持ちは任せた」
「いいよ。任された!!」
彼女は笑ってそう言うと、今度こそ走り出していく。
さて、私もやるとしようか。
ゴードンに気をとられているグレイシアへと全力で駆け出して、ジャンプ、全力でドロップキックを叩き込み、壁まで蹴り飛ばす。
「まずは、さっきのお返し」
離れてしまったグレイシアを追いかけようとしたベイオウルフをアルデバランが止める。
その間にグレイシアへと向かって歩く。
インベントリから、切り札その二を取り出す。
深紅を基本として黒刃の長柄斧、私が私の為に作った私専用の武器。
銘を暴食斧ディアボロッソ。
「やるよ。ディアボロッソ」
態勢を立て直したグレイシアが私へと突撃、そのまま袈裟に大剣が振り下ろされた。
その大剣を最小限の動きで掻い潜る。傍目には大剣が私をすり抜けたかのように見えただろう。
「絶招之壱、洸」
グレイシアの懐へ潜り込み、アーツではなく伯母さん直伝の奥義の一つ目を放つ。
洸、簡単に言ってしまうとただの掌打三回、ただし全力で鳩尾、心臓、喉、急所三ヵ所を叩く技だ。
非生物で三メートルもあるグレイシアの心臓と喉を攻撃しても意味は少ないだろうから、その巨躯を支える両膝を真横から叩くようにアレンジはしている。
ミシっと音が鳴るが折れるまではいってないか。
そのまま、足の間を転がって相手の後ろへと回り込む。
グレイシアが振り向き様に横薙ぎ、それに合わせてディアボロッソを片手で振る。
先程私を吹き飛ばした大剣は、私に当たる事なく、明後日の方向へと飛んでいく。グレイシアの右手首と共に。
どんなに堅い甲冑を着ていようと、関節部はどうしても耐久性が落ちるものだ。
そこに私の全力と相手の力、ディアボロッソの切れ味があれば、この結果は当然の結果だ。
自身の右手首から先が無くなった事に困惑したグレイシアとは違い、私は片手でディアボロッソを振り抜いた状態から回転して両手に持ち直し高らかに言う。
「【食い散らかせ、ディアボロッソ】!!」
私の言葉に反応してディアボロッソがその姿を変えていく。
黒刃が二つに分かれて、その間からもう一つの刃が飛び出してくる。それと同時に私のMPが使用され始め、飛び出してきた刃が風を切り回転していく。
私のMPを動力源にしたチェンソーアックス、それがディアボロッソのもう一つの姿だ。
「はぁぁぁぁあ!!」
列泊の気合と共にディアボロッソをグレイシアの脚目掛けて振り抜く、人間で言う太腿辺りに当たると、削り切る音と火花、ほんの少しの抵抗と共に両脚を切断する。
ぐらりと後ろに倒れるグレイシア、私はそのままもう一回転して肩に担ぐようにディアボロッソを持つと止めの一撃を放つ。
「OA【ギガブレイク】」
威力特化の振り下ろし、言ってしまえばそれだけの技だ。
普通に放てば回避されてしまう可能性があるだろうけど、両脚を失った状態のグレイシアには避ける術がある筈もなく、ディアボロッソはグレイシアの胸へと吸い込まれていくように当たった。
「まっぷたつぅぅぅぅぅう!!」
そのまま地面に叩き付けて、グレイシアの胸部を砕き、その内側にあった動力源である核も破壊する。
だけど、被害はそれだけに止まらず、私の一撃は地面に大きな亀裂を走らせる。
「ふぅ、終わった」
動力源である核を砕かれたグレイシアは動く気配もなく、完全にスクラップとかした。
やっとこさ彼女が設計図を書いていた武器を登場させる事ができました。
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