第18話 理由
お昼の休みに投稿できそうにないので先駆けで投稿です。
二章の開始になります。
「はぁ」
リーザが看板娘をしている酒場、昼間はあまり繁盛してないけども喫茶店を営んでいる。今日も私達以外にお客のいない喫茶店の一角で、私は重たいため息を吐いていた。
先程から問い面に座るリズが頭を撫でてくるけど、それを払い除ける気さえ起きない。
「メルちゃん、死に戻りしたからって、そんなに気にする事無いよ」
私がここまで落ち込んでいる理由だけど、それは初めて死に戻りしたからと言った理由じゃない。
問題は死に方の問題で、話は数時間前迄に遡る。
世界イベントからリアルの時間で一週間弱が経過した今日から三日前、遂に第三の街が開放された。
第三の街が開放されたと言う事は新しい素材も開放されたと言う事で、私は鉱石を探して、連日第三の街周辺のフィールドを練り歩いた。
第三の街周辺のmobは今迄程ではないけども、しっかりと攻撃が通る為苦戦する事は無かったんだけど、今日私は知らずの内にフィールドボスの所に迷いこんで、仕方なく交戦、ボスの腕を切り落とすも、ボスから状態異常を受けてしまった。
受けた状態異常は【誘惑】と言う状態異常で、プレイヤーが自分が持つ負の願望や欲求に抗い辛くなるものだった。【誘惑】を受けた私は、迷う事なく斧の刃を首に押しあて、……自害した。
デスペナで無くなった経験値や、落とした素材、消費アイテムなんかよりも、私は自害に凹まざるをえない。あの時、私はやっと楽になれる、やっと……ると、死ぬ事を受け入れて、ううん歓喜していた。【誘惑】の状態異常は本人がやりたいと思っている事をやらせる。つまり、私は、まだ、心の何処かで死にたいって気持ちが残っているんだと、再認識させられた訳である。
凹まずにはいられない。何より叔母さんや叔父さんに申し訳がたたない。裏切りにも等しい。
「う~」
「あぁ、もう、凹んでるメルちゃんも超ラブリー、お姉さんを誘惑してるよぉ‼」
平常運転なフレンドは置いておいて、喫茶店でいじけているのにはまだ理由がある。
第三の街周辺のフィールドを探索して私は新しい鉱石を見付けている。ミスリル鉱石、おおよそのゲームでその名を知れ渡らせる鉱石であった。
もっと奥の方へいけば、違う鉱石もあるとは思うけど、現状はミスリルと上鉄以外の鉱石は発見できていない。そして、このミスリルの精練に、いやそれどころかインゴットにすら出来ていないのが現状で、色々と試してはみたものの、尽く失敗、ミスリルは溶けて無くなってしまうのだ。
鍛冶の不調と、今回の自害、この二つが今こうしている理由である。
「りずぅ、リズは生産上手くいってる?」
「あ、あはは、上手くいっていたら、今頃新しい服を持ってきてるよ?」
どうやらリズも上手くいっていないようだ。
「その様子だとメルちゃんも上手くいっていないみたいだね?」
「まぁね、スキルのレベルは足りていると思うんだけど……」
今のステータスを表示して確認する。
CN メロディア
MP 40/40
ST 130/130
筋力 16
体力 13
器用 16
精神 4
残り経験値 8008
残りSP 14
所持金 830,200ペロン
装備スキル
【戦斧Lv:10】【鈍器Lv:18】【豪腕Lv:5】【剛脚Lv:4】【服Lv:11】【行動制限解除━】【猛集中Lv:12】【中級鍛冶Lv:15】【合成Lv:28】【魔導人形作成Lv:20】
控えスキル
【採掘Lv:20】
五つのスキルを二次スキルへと成長させ、後はサイクロップスを倒してから【鈍器】のスキルを習得している。二次スキルへの成長には一律SPが2必要だった。
経験値は先程のデスペナで減ってしまったけど、まだあるのでプールしておこう。
「今扱ってる素材が炉に入れて暫くすると、溶けて跡形も無くなっちゃうんだよね」
まるで飴を熱したオーブンに入れたように溶けてしまう。
自分で採ってきた鉱石は全て使い切っているので、また挑戦するなら採掘から始めないといけないんだけど……どうにもそんな気分になれない。
「あー、私も同じような状態なんだよねぇ。皮は鞣せないし、織り機で織っても布に針が通らないから、どうしようも、ねぇ」
布に針が通らないって、確かにどうしようもないね。
素材があれば、タッチでポンっと作れる従来のMMOとは違うから作り方も工夫しないといけないんだよね。
そう言えば、針とかって作れないのかな?
確かそれっぽいスキルがあったような気がするんだけど……
「ねぇ、リズ」
「何?」
「針とかって作れないのかな、ほら、この【道具作成】のスキルとかで」
「うーん。どうだろうね。SPが限られている中で、こう言ったスキルを取ろうと考える人がいるかが怪しいと思うけど、ここの運営だからね、これが当たりの可能性もありそうなんだよね」
「あまり冒険はできないよね」
限られたSPの中、一律SP2を使う生産スキルなら尚の事躊躇ってしまうだろう。
何とも言えない空気の中、お互いにため息を吐くと、ブレイブ達が喫茶店へと入ってくる。
店内を見回すと、私達を見付けたらしい。此方へと来る。
「よぅ」
「何?」
「おいおい、随分と機嫌が悪いじゃないか」
はぁ、本当に幼馴染って不便。普通に接したつもりだったんだけど、普通に言い当てて来るからやりにくい。それと後ろで私とブレイブを見ながらヒソヒソと話してる二人は何を話してるんだろうか、口の動きからラブだ。とか言ってるみたいだけど……なんと言うか、やぶ蛇になりそうなので無視しておこう。
「…………ちょっと、ね。それで、私に何か用?」
「そっか、まぁ用だな」
ブレイブが一つのアイテムをテーブルの上に置く。
「ペロンは幾らでも払うから、この素材で全員分の装備を作って欲しいんだ」
テーブルの上に置かれたのは、絶賛行き詰まり中のミスリル鉱石だった。
…………なるほど、最初に店内を確認してたのは、この話をする為に人がいないかを確認する為か。
「装備って事は防具も?」
武器なら武器と言うだろうから、念の為確認するとその通りだった。
ふぅ、どうしようかな。まだインゴットにすら出来てないのに依頼を受けるのもなぁ。
「無理か?」
ブレイブの頼みに無理って言うのはなんか癪だ。となると受けるしか無いんだけど、必要になりそうな個数を計算して、後は何時までに欲しいのかによる。
「納期は?」
「明日第二陣が来るからな。噂だと第二陣が合流してから、しばらくして公式イベントをやるみたいだからそれまでには欲しい」
公式イベント、なるほど、確かにそれまでにはできる限り強化しておきたいよね。
ただ、第二陣が合流するのと同時にアップデートされてスキルの調整とオープン記念の時間の加速が無くなるから、時間的にはギリギリ、かな。
「ペロンはいらない。その代わり、この鉱石最低でも7スタックは持ってきて」
私は基本通貨を使わないから、今のところ必要性を感じない。
「はぁ? な、7スタックって随分な数を要求するなぁ」
「悪いけど、この素材、精練どころかインゴットにすら出来てないの、イベントまでに作るなら採掘している暇なんて無いんだけど?」
「い、いや、それでも7スタックは流石に」
たじろぐブレイブ、だけど失敗を考慮するとどうしてもこの数くらいは欲しい。勿論報酬として私やリズの装備の分も数にいれてるけど。それに━━
「あんたに渡す装備なんだから、完璧に仕上げたいのよ」
「ん? メルなんか言ったか?」
あ、何を口走ってんの私、良かった小声だったから、ブレイブには聞こえなかったみたい。
「何でもないから!! それでいいなら鉱石を採ってきて」
「おう。分かったそれで頼む、けど何か言ってたろ?」
っ、この男は……
「あぁ!? 四の五の言ってないでさっさといけ!!」
「マム、イエス、マム!!」
少し本気で怒鳴ったら、まるで叔母さんに言われたかのように敬礼をして、三人を置き去りに走り去って行った。
残された三人は唖然とする者が一人と、きゃーきゃー騒いでいるのが二人。
さてっと、バカは鉱石を掘りに行かしたから、後はリズにも話を通さないと、鎧とかは鍛冶の領分だけど、その下に着る服は裁縫の領分だからだ。
服と鎧を一つの防具にするには、裁縫師と共作するしかない。この辺も従来のMMOと違うと言われているところだとリズとサンゴが教えてくれた。
「リズ━━「いいよ」早いって、私まだ何も言ってないから……」
「鎧の下に着る服の話でしょ? 男物はあまり作らない主義だけど、メルちゃんと共作できるなら、お姉さん頑張っちゃう」
本当にリズはぶれないね。
「で、鎧が必要なのはブレイブとリリウムでいいの?」
「ええ、後、一応私も胸当てのような物をお願いしたいですね」
「ブレストアーマーね、後は小手と脛当は?」
「出来れば」
「了解、デザインは私とリズで決めるけど、要望とかはある?」
「特に無いですね」
「後は作った事の無い素材だから、何処までの物が出来るかわからないけど、それでいい?」
「現状生産者のトップ二人が作った装備でダメなら素直に諦めた方が良さそうですけどね」
別にトップとかはどうでもいいんだけどなぁ、まぁやる以上本気で作るけどね。
その後、もう少し話をつめて、クラウド達は喫茶店から出ていった。




