第16話 決着
ブレイブの視点で話を区切ろうかと思ったんですが、1話にまとめました。
誤字脱字を修正しました。
剛単眼鬼の魔石を→単眼鬼将の魔石に変更してます。
「たっく、何度切り刻めば死んでくれるんだろうな?」
強力な回復力を持った死なない相手を前にもう何度目になるか分からない愚痴を吐く。
「さて、既に二十数回程は殺してる筈なんですがね……」
「二十って、どこぞの聖〇戦争の狂戦〇よりも酷いよね」
「あれはオートレイズの筈なので、このサイクロップスとは違うのでは?」
こうして軽口を叩いてはいるけども、三人の顔には疲労の色が濃い。実際に俺も少し疲れた。
圧倒的巨躯から放たれる致死の一撃を紙一重で躱して、鋼のような皮膚を切りつけ、傷付けてもその側から回復されれば、心も折れようものだ。
問題なのは連撃の効果がカンストしてもサイクロップスの事を切り捨てる事が出来ないと言う事、その時点でゴーレムよりも堅いのが明白で、魔法でチマチマ攻撃をしてもすぐに回復されてしまう。
正直打つ手がない状態だ。いや、切り札を切れば或いはいけるかもしれないけど、間違いなく武器を失う事になるので、出来ればその賭けには出たくない。
「他のプレイヤー達も当てにならないし、な!」
振り下ろされた棍棒を躱し、横目で他のプレイヤー達を確認すると、多数いるゴーレムやオークエリートどもに手こずっていて、こちらにはこれそうにもない。
これが世界イベントのチュートリアルって運営頭がおかしいんじゃないか?
12時になるとmob達が西門の前に転位してきた。それに狼狽したプレイヤー達が真っ先に狩られ、最後に転位してきたサイクロップスが親玉だと思ったプレイヤー達が突攻を仕掛けるも、大半の攻撃が弾かれ、体勢を崩した彼等は棍棒の一薙ぎでその姿を挽き肉へと変えた。
他にも物量に押し負けたプレイヤー達が消えていき戻ってこず、街中にmobを通してしまった。
俺達はこのサイクロップスだけは街中に入れてはいけないと、ずっと足止めしていた訳ども、いかんせん敵の耐久力が切れるか、俺達の体力、武器の耐久値が先に切れるかのチキンレース状態になっているのが現状だ。
「しかし、確実にmobの数は減って、います!!」
「おりゃ~!!」
「支援いきます!」
クラウドが敵の攻撃を引き付け、リリウムがサイクロップスの膝を目掛けて戦鎚を叩き込む寸前にテッタがリリウムへアタック強化のエンチャントを掛ける。
俺達も余裕がある訳じゃないけど、なんとか戦えている状況、何があればこの膠着は崩れてしまうだろう。
そして、不運にもそれは起きてしまった。
リリウムの攻撃が届く寸前でサイクロップスがリリウムに蹴りを放ったのだ。
「ぅぷ!?」
リリウムが街中の空き缶のように宙を飛んだ。
「リリウム、ぐぁ!!」
「リリウムさん、クラウドさん!!」
一瞬リリウムへと意識がいった隙をつかれクラウドが、棍棒の餌食となる。何とか半身を逸らして、即死は免れたがパーティーからしばらく二人が脱落するのは間違いない。
覚悟を決めるしかない、か。
「テッタ、二人の回復を頼む」
「分かりました!!」
さて、やるとするか。
二人を戦闘不能にしたからか、更に激しさをました攻撃を避け、躱し、捌き、逸らす。
一撃一撃が致死、そんな緊張感のある攻撃を逃れ続け、不意に好機がやってきた。
俺に当たらない事に焦れたサイクロップスが大振りの攻撃をしてきたのだ。
横薙ぎされた棍棒を転がって躱し、足を踏み台にしてサイクロップスの巨躯を駆け上がる。
「刺され!!」
人で言うところの鎖骨の辺りから剣を突き刺し、すかさずアーツを発動させる。
「OMA【フレイムバースト】!!」
鎖骨から刺し込んだ刀身が燃え盛り、サイクロップスを身体の内側から焼いていく。
サイクロップスが絶叫をあげ、狂乱したように棍棒をあちらこちらへと振り回す。それもそうだろう。身体の内側から焼かれる事になれば誰だってこうなるに違いない。
「燃え尽きろぉぉお!!」
内側から焼かれ、傷口や口から煙を吐いているサイクロップス、もしかしたらこのままいけるかと思ったけど、そうはいかなかった。
ここで倒しきる為、必死にしがみついている俺を放そうと、腕を伸ばしてくるのを察知して、少し惜しいが握り潰される前に退散する。
「ちっ、これでも駄目なのか!!」
剣を抜いた途端みるみると傷口が回復していくのを見て、思わず悪態をつかずにはいられない。いや、本当に難易度が高過ぎ、クリアさせる気があるのか?
完全に回復したサイクロップスは完全に敵意を俺に向けている。間違ってもテッタ達に意識がいかないようにしなくちゃいけないからな。倒せなくても最低限の勤めは果たせているようだ。
「GiAaaaaa!!」
雄叫びをあげて突っ込んでくるサイクロップスは懲りもせずに棍棒を真上から振り下ろしてくる。最低限の動きでそれを躱して反撃をしようとして、俺は吹き飛ばされ地面を転がった。
待て待て、今何が起きた? 絶対に棍棒は直撃してなかった筈だ、それなのに何故?
節々が痛む身体を起こすと、そこには俺に向かって、棍棒を振り下ろす寸前のサイクロップスの姿があった。
回避は無理、アーツで迎撃も押し負けるのは確実だろう。状況は既に詰んでいた。
これはどうすることも出来ない。ゲームである以上死に戻りすることはある。今回は悔しいけどしょうがない。俺は目を閉じてそう諦めた。
「諦めるな!! このバカ!!」
聞き慣れた声が響き、浮遊感がくる次に轟音がなる。
目を開けると俺がよく知る幼馴染の姿があった。
◆
レイヴン達と別れてから私達は西門を目指していた。騎乗したドゥーガは壊れた街の残骸や石畳が散乱する悪路を知らんと言わんばかりに疾走し、西門がすぐに見えてくる。
西門に近付くにつれてプレイヤーとmobが多くなっていき、誰かが討ち漏らしたmobが私達の方へと襲い掛かってくるが、それを長柄斧の一振りで倒し、西門の外へと突き進む。
無惨に壊れた西門を超え、目に写ったのは、少し離れた場所で棍棒を躱した筈なのに吹き飛ばされたブレイブの姿だった。
あのバカ!! 何が起きたのかわからなかったのだろう。意識を敵からそらしているのが分かる。
その間に敵、(単眼の鬼だからサイクロップスかな)サイクロップスはブレイブへと走って止めを刺そうとしてる。
「ドゥーガ、もっと速く、あのバカを助けて」
少しでも重量を減らす為長柄斧をインベントリにしまい、肌を打つ風を強く感じて、ブレイブのところへと一直線に進む。
ブレイブが追撃に気付いて、そして諦めた。ブレイブへと迫る棍棒、その威力はブレイブを即死させるだろう。死、し? 死ぬ? ブレイブが、死ぬ? 嫌だ。そんなのは嫌だ。絶対にイヤ!!
理性では分かっている。これはゲームであって、実際に死ぬ訳じゃないって、実際私の知らないところで何度も死んでるんだろう。
でも本能が納得しなかった。私の大切が目の前で死ぬ事を赦さなかった。また大切な存在を失うかもしれない恐怖、怒り、寂寥、全てが私を支配する。
酷く息は乱れるし、視界は涙で滲んでいる。でも私は抵抗する事すら諦めたバカを叱咤するように叫ぶ。
「諦めるな!! このバカ!!」
目を閉じて棍棒を受け入れようとしてるバカを既の所で助け、数瞬後には風と礫石が背中を打ち付ける。
少なからずドゥーガにも影響があったようで走る速度が遅くなっている。ドゥーガに適度な場所で止まるように指示をして、ブレイブを掴んでいた手を放し私もドゥーガから降りた。
サイクロップスはしつこく私、いや、ブレイブを狙おうとしているようでこちらに猛突進してくる。
「邪魔」
相手の勢いを使い、その巨躯を宙へと投げ飛ばし。
「しないで!!」
頭から落ちてきたところを全力で蹴り飛ばした。四メートルくらいの巨躯が空き缶のように飛び、地面を転がっていく。
蹴った時に首の骨が折れる音がしたから、もう立ち上がっては来ないだろう。そんなことよりも私にはやるべき事がある。
「……響?」
ブレイブがアホ面をして立っていた。それが更に私を煽る。
その憎たらしいアホ面を死なない程度に加減して殴り飛ばす。サイクロップスと同じように地面を転がり、仰向けになったブレイブに馬乗りになって殴り続ける。
「何諦めてるのよ!! らしくない!! おまけにポカンとしたアホ面下げて、リアルネームで呼ぶってどういった了見!?」
「痛い! 痛いから、や、やめて、おち、ついて、め、メル?」
ブレイブを叩いていた力が弱まっていくのが自分でも分かってる。だってしょうがないじゃない。安心しちゃったんだから……しょうがない、じゃない。
「……恐かった」
「……ごめん」
「……あんたがいなくなっちゃうかもって、凄く恐かった」
「…………」
無言で私の背に手を回してくるブレイブに逆らう事なくブレイブの胸に耳を当てると心臓の音が聞こえた。とても安心する音だ。
「…………どうしたら許してくれる?」
「やだ」
「メル」
優しく頭を撫でるブレイブ、そんな子供をあやすみたいに撫でるんじゃない。思わず許しそうになるじゃない……
「……今度買い物に付き合って」
「そんな事なら何時だって」
「今度のテストは勉強教えないから……」
「それは、教えて欲しいなぁ」
まったく、情けない声を出さないでよ。
苦笑を浮かべてブレイブの胸から顔をあげるのと同時に周囲から咳払いが聞こえた。
「ん、んん!!」
そちらを見ると、無表情のクラウドと興味津々といったリリウム、耳まで真赤にして指の隙間からこちらを見ているテッタの姿があった。他のプレイヤー達も戦いながらチラチラとこちらを見ている。
しまった。感情が高まり過ぎて周りに人がいることを忘れてた。
「ブレイブ、イチャイチャするのは構いませんが、もう少し時と場合を選んで欲しいですねぇ」
「は、俺が悪いのか?」
「マウントをとっていたメルを抱き寄せたのは貴方でしょう?」
ブレイブの上から退いて手を貸す、心なしかクラウドと周囲の威圧感が増した気がする。
テッタとリリウムは付き合ってる二人は違うとか言ってるけど、私達別に付き合ってないんだけど……
勘違いを正そうとしたところで、大きな雄叫びが耳をつんざく。
そちらの方を見ると、さっき蹴り飛ばしたサイクロップスが立ち上り咆哮をあげていた。
おかしいな、確かに全力で首を折った筈なんだけど、あれで死なないって、ブレイブ達が苦戦する訳だ。
「あの攻撃でも死なないとは……」
「何て言うか、ファンタスティック!?」
「それより倒せるんですか?」
どうだろう。手がない訳じゃないけど、それでも相手が生きていた場合、私役立たずになるしなぁ。
でも、深く考えている時間は無さそうだよね。既にサイクロップスは私達の方へと向かって走り出しているし。
しょうがない。やれるだけやってみようか。そう思ってインベントリから長柄斧を取り出すと、ブレイブからパーティー申請が来たのでパーティーに加入する。
「ブレイブ手伝って」
「どうする気だ?」
「今から特大のをあいつにブチ込むから、援護任せた」
「……勝算は?」
そんなの分かるわけない。だからこう言おう。
「あんたの好きな司令のセリフ、思い付きは?」
一歩前に出る。その時見たブレイブの顔は苦笑いを浮かべていた。
「数字じゃかたれねぇな。俺が援護する。ブチかませ!!」
「何寝言をほざいてるんですか?」
「俺がじゃないですよ」
「ボクたちが、だよね」
ブレイブの後に続いて不満気な三人が続く。まったく、私の周りと良い、ブレイブの周りといい、ありがたい事、なんだろうね。
「皆……頼りにしてる。ドゥーガ」
私の元へ駆けてくるドゥーガの背に跨がる。
「もうちょっとだけ頑張って」
「ウォン」
後少しでサイクロップスの間合いへと入る。その前にクラウドとリリウムが駆け出した。
クラウドがナイフを目に向けて投げ、リリウムは右の膝目掛けて戦鎚を振る。
「メルさんよろしくお願いします。OM【バーニングフォース】」
長柄斧が軽くなった所を見ると筋力を強化する魔法をテッタが掛けてくれた。
「ありがとうテッタ、いくよドゥーガ」
クラウドのナイフを片手で防いだけど、そちらに気をとられたサイクロップスはリリウムの攻撃をまともに食らう。関節が変な方向に曲がって体勢を崩した。
その隙を逃さないようにドゥーガを走らせると、先にいった二人が引き返してくる。
二人とすれ違い、折れた膝を回復させて立ち上がろうとしているサイクロップスの身体をドゥーガが駆け上がると、勢いよく空へと飛んだ。私はそこから更に高く飛び上がる。
高く飛び上がった私は重力に従って下へと落ちていく。私の下にはサイクロップスの頭があった。
身体を捻って空中で回転をする。私が出切ることはたった一つだけ、全力でアイツを両断する事だけだ。真っ二つにされても生きていたら、その時はその時で考えよう。
「OA【絶体絶命錐揉み大戦斧】」
導魔線を探している時に遊びで作った、威力重視のオリジナルアーツ、その威力は武器の耐久値を考えていないが絶大の一言しかない。
「まっ」
高速で回転してサイクロップスの頭目掛けて落ちていく私を迎撃しようと棍棒を振ろうとするサイクロップス、だけどそれはブレイブによって邪魔された。
「OMA【烈剣】!!」
炎と言うよりも、最早熱線に近い斬撃がサイクロップスの腕を棍棒ごと消滅させた。
「ぷたぁ」
腕が無くなった事で叫び声をあげる。ブレイブ達を痛め付けた罰だ。そしてこれは、私のトラウマを穿くり返そうとした事へのお礼だぁ!!
「つぅぅぅぅぅう!!」
吸い込まれるように私を見上げたサイクロップスの目へと長柄斧が当り、真っ二つ、ではなく跡形もなく消滅させた。だけでは止まらず地面に大きなクレーターを作り上げた。
まるで爆心地のようなクレーターに着地をする。それと同時にポーンっと何時もの無機質な音が響いた。
information──────────
統率者であるサイクロップスジェネラルが撃破されました。
それにより、今回の世界イベントはプレイヤー側の勝利となります。街の防衛お疲れ様でした。
次回以降の世界イベントは告知無しで始まります。また、イベントが防衛戦だけとは限りません。
イベント結果次第では大変な事になります。
この世界を救うのも滅ぼすのも貴殿方次第、引き続きこの無限の未開拓地を堪能してくださいませ。
貴殿方の行く末にどうか幸多からん事を私共四姫は祈っております。
報酬
参加報酬 SP2
個人貢献度7位報酬 SP2
パーティー貢献度1位報酬 10000経験値
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私イベントもパーティーも途中参加なんだけど良いのかなぁ。
貰えるならありがたく貰っておくけど、それよりも、やっちゃたなぁ。新しいの作らなきゃ。
軽くなった腕をを見ると長い間愛用していた長柄斧は柄の半ばから無くなっている。どうやら最後の一撃に耐えきれなかったようだ。
「まったく、またやらかしたな」
ブレイブがクレーターの中に下りてくるなり小言を言ってきた。
「私もあそこまで威力があるとは思わなかったよ、テッタの支援のお陰だね」
前に試した時は武器の耐久値が八割弱減って敵を爆散させただけなのだ。クレーターなんて断じて出来てない。そもそも、斧が地面に触れていないのに何故クレーターが出来るのか不思議でしょうがないんだけど……
「まぁ、いいや、それよりも、お前には色々と聞きたいことがあるんだが」
ブレイブの目線はいつの間にか私へと身を寄せるドゥーガへといっている。
どう説明しようかなぁ。当たり障りのない説明を考えつつドロップでも確認するとしよう。
インベントリの中を確認して、私は一つのアイテムで動きを止めた。
私の目は単眼鬼将の魔石と言うアイテムに釘付けになっていた。
急いで説明文を読み、歓喜にうち震える。これで新しい魔導人形の核が作れる。こうしちゃいられない。急いで工房に帰らなきゃ……
「ドゥーガ、工房へと帰るよ!!」
「ウォン」
「ちょ、メル!!」
ブレイブの静止の声が聞こえるけど、それどころじゃない。生産作業が私を呼んでいる。
私はドゥーガと共に少し壊れてしまったけど、なんとか守れた街へと帰っていく。
これで一章の本文は終了になります。
二話程、掲示板と運営サイドの話を入れてから二章にいきます。
一章が終わったので、少し手直しする可能性があります。