第15話 防衛戦
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ふぅ、洗濯やお掃除、お風呂洗い、昼食を摂って夕食の下準備とかしていたら1時を過ぎていた。そこから再度ログインをすると、見慣れた工房の天井が目に入る。
やけに外が騒がしい、街中でPVP(プレイヤー同士の戦いの事)でもやっているんだろうか?
ううん、戦闘音に混じって人の悲鳴とかも聴こえてくる。事はそんなに単純じゃないのかもしれない。とりあえず外に出て街を見てみると私はその光景に思わず唖然としてしまった。
街の西側各所から煙上がっていた。何コレ? 何で街が燃えてるの?
ログアウトする前は街の雰囲気は普通だったのに、あ、西、がわ? 師匠やゼペットさんの工房は街の西側近くあったよね?
次の瞬間には私は駆け出していた。叔母さんから仕込まれたパルクールを駆使して、屋根の上を飛び移って最短距離を駆け抜ける。
途中でmobに襲われている住人の人達を助け戦っている師匠とゼペットさんを見付けた。
インベントリから得物を取り出して、師匠達に襲いかかろうとしてる後続を蹴散らす為に飛び出す。
「ど、っかーん!!」
一番前のオークを真っ二つにして、斧で着地、深々と刺さった長柄斧を手放して、次のゴブリンを後ろ回し蹴りで吹き飛ばし、もう一匹のゴブリンの頭を拳で打ち付け叩き割った。
「師匠、ゼペットさん大丈夫!?」
「お、おう、ありがとうよメル」
「助かったよメル」
見たところ二人に怪我は無さそうで一安心だ。レーゼさんも一緒にいるし、他の住人さん達にも怪我をしてる様子はない。
「師匠、これはいったいどういう事?」
「ん、ああ、魔物達が進行してきやがったんだよ」
えっと、何それ? そんな事が起きるの?
「進行して来たって、前もって分からなかったの?」
見たところけっこうな数のプレイヤー達もいた。それなのに街が壊されてるって事は、それだけ数が多かったって事になる。
それなのに誰も気付かないなんて有り得るんだろうか?
「ああ、普段なら前もって分かってるんだが、今回の進行は何故か魔物達が街の前にいきなり現れたらしいんだ」
「それでこの有り様さ」
「そうだったんだ……」
これはイベント? なら告知とか無かったのか調べる為に過去のログを調べると、それらしきものが見つかった。
その内容を見て、思わず私は固まってしまう。
私の目にはある一文、いや、一単語しか写っていなかった。
不可逆━━
つまり、街の人達が死んだら、そのままって事? 師匠やゼペットさん、今私の前にいる人達全員、街が壊滅したらお仕舞いって事?
そんなの嫌だ。
なら、どうすればいいのかなんて、決まっている。
プレイヤーが沢山いるから、目立ってしまうかもしれないけど、でも何も出来ないで後悔なんて、もうしたくないから……だから!!
「師匠達は避難してて」
「君はどうするつもりだい?」
「私は、私は敵を倒すよ。ほら、私は異邦人だから、死なないしね」
いきなりゴツンっといった衝撃が頭を貫いた。ステータスで強化されて頑丈になっている筈なのに、とても痛い。
「何が、死なないしねだ!! 死ななくても痛い思いはすんだろうが!!」
憤怒の形相をした師匠が私を叩いたのだ。
「メル、君達異邦人の力は確かに凄い、死んでも死なない加護もあるだろう。だからと言って、君が傷付いて悲しむ人がいる事を忘れてはいけない。私もテツも君から見ればとるに足らない力しかないだろう。だけどね」
「全てをお前らに丸投げするなんて出切る訳ねぇだろうが」
「君が私達の事を心配してくれているのは分かっている。だけど、それと同じくらい私達も君の事が心配なんだよ」
「師匠、ゼペットさん……」
私は異邦人で死なないのに、そっか、私は心配されてたんだ……
またmobが迫ってくる。ここであまり長話をしている暇はなさそう。
「俺達は逃げ遅れた奴等を探して、避難してる場所に連れていく。メル、お前さんには敵の始末を頼む事になるが、頼むから死んでもいいみたいな事は言うな」
「うん。師匠、ゼペットさんごめんなさい。それと、ありがとう」
師匠達に背を向けて長柄斧を肩に担ぐ。すると後ろから男の子の声が聞こえた。
「お姉ちゃーん、ありがとー、気を付けてねー」
「大丈夫、こう見えてお姉ちゃん強いんだから!!」
手を振る男の子を安心させるように笑みを浮かべて、手を振り返す。
さて、と、まずはフレンド通信をしなくちゃ、状況把握は大切だしね。
『はいはーい、リズだよ!! メルちゃんから連絡してくれるなんてあたし超嬉しい!!』
テンション高いなぁ。いったいどうしたんだろう。まぁ、いいや。
「ごめんリズ、今どこで何してる?」
『あぁ、あたしは仲間達と一緒に街の中で住人の人達の護衛とmobの駆除してる感じ』
「ブレイブは何処にいるか分かる?」
『ブレイブなら、たしか西門で戦ってるって書き込みがあったよ』
リズが護衛、ブレイブが戦闘をしているなら、私は目についた敵を殲滅しつつ、逃げ遅れた人達を助けよう。
「ありがとうリズ、切るね」
『あ、ちょっと待って!』
「何?」
『このイベントの間に死ぬと、普段とデスペナが違うみたい。普段はすぐに復活できるけど、このイベント中はイベントの間戦死扱いで専用の部屋で待機か、ログアウトしか出来ないみたい』
昔ブレイブが違うゲームで言っていたけど、ゾンビアタックとかの対処か……
『もう、結構なプレイヤーが死んでるから、メルちゃんも気を付けてね。くれぐれも無理はしないで』
本当に私の周りにいる人達は……
「ありがとう。リズも無理しちゃダメだよ」
フレンド通信を切って、残り僅かまで迫った敵を見据える。殆どがゴブリンで、少しオークが混ざった程度だ。
インベントリからドゥーガの蒼玉を取り出して呼び出す。私の隣に現れたドゥーガに跨がる。
「ドゥーガ、逃げ遅れた人達がいるから、敵を倒しつつ助けにいくよ。臭いで分かるよね?」
「ワォォォォォォン!!」
肯定と言わんばかりの咆哮だ。
「行って!!」
私の合図とともに駆けだしたドゥーガは、私へと迫っていたmob達をすり抜けて走る。擦れ違い様に長柄斧を振ってmobを殲滅する。
街中を疾風の如く駆け抜け、擦れ違ったmobを殲滅しつつ進むと、満身創痍のプレイヤーが数人と住人達が大量のmobに囲まれているところが遠目に見えた。
ゴブリンやオークが多いけど、その中にゴーレムやワイルドウルフが混ざっている。
「ドゥーガ突っ込んで!!」
「ウォン」
まっすぐに突き進み包囲の端へと到達、私は構わず長柄斧を振るう。
「新手!?」
「レイヴンこれ以上は持たない!!」
これだけ色々なmobがいる中、大きな狼が迷わずに突っ込んできてれば勘違いもするよね。取り敢えず、まずは誤解を解かなくちゃ。
「待って‼ 私は敵じゃない。危なそうだったから助太刀に来た!!」
手は休まず長柄斧を振って、ドゥーガは走り続ける。
「救援?」
「一人だけどありがたい」
どうやら誤解は解けたようだ。良かった、こんなところで同士討ちとかしてたら目も当てられない。
「私はこのまま、敵の数を減らすから街の人達をよろしく!!」
「ああ、任せてくれ」
「シャンファ、もう一踏ん張りといこうか」
「分かってるユウ、ルールーMPは平気?」
「この状況で無理とは言えないね、ポーションと魔導薬をがぶ飲みすればなんとかいけるよ。私のお腹が悲惨な事になるけど、さ」
軽口を叩いてはいるみたいだけど、あの人達も余力はあまりないだろうし、早めに決着をつけよう。
「ドゥーガ、あっちで皆を守って!」
ドゥーガから飛び下りて、長柄斧を肩に担ぐ。
動きが止まった私を格好の的だと判断したのかゴブリンやオークどもが群がってくるけど、好都合だった。
長柄斧を真横に薙ぎ払い、前方の敵を両断、吹き飛ばし、後ろからの攻撃を横に跳んで避ける。着地と同時に長柄斧を下から掬い上げるように振る。
一振りごとに多数のmobを切り刻み、敵の攻撃を躱し、躱せないものは力を逸らして無力化する。
確かに数は多いけど、ただ、それだけ、動きにキレがないし、どれもこれも同じ動きをするので、やり易い。
「これで、ラスト!!」
ゴーレムを頭から真っ二つにして、長柄斧を肩に担ぐと役目の終わったドゥーガが私の方へとすり寄ってきた。
「ありがとうドゥーガ」
「ウォン」
頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。
「その、助かったよ」
またドゥーガに騎乗しようとしたところで、レイヴンと呼ばれていた黒衣の男性プレイヤーが、おっかなびっくりといった様子で礼をいってきた。
「いえ、住人の人達が無事で良かった」
「め、メルさーん」
そう叫んで私のダイブしてきたのは、私の行き付けのお店の看板娘であるリーザだった。
ザ街娘的の質素な服が似合う美人で、よくお昼のサンドイッチを買いに行く酒場の看板娘である。
「まさかリーザがいるなんて思わなかったけど、無事で良かった」
「は、はい。レイヴンさん達が私達を助けてくれたんです」
「そうだったんだ」
「話中すまない」
そう言って、割り込んできたのは、四人の中でもう一人の男性プレイヤーだった。
「俺の名前はユウ族、まずは助けてくれてありがとう」
ユウ族ってブレイブやリズが言っていたオンラインゲーム特有のネタネームと言うやつだろうか。
「私も住人の人達を助けるのが目的だから気にしないでいい」
「そうか、不躾ですまないが君が掲示板で書かれていたボスを一撃で倒したプレイヤーで間違いないかな?」
あ~確かブレイブからそんな事を聞いた気がする。掲示板って嫌いだからすっかりと忘れてた。
「もし、そうだったら?」
武器の事とか聞かれたらどうしようかと考えていると、ユウ族は想像と違った事を言ってきた。
「そうだったら、頼むから西門の奴等を助けに行ってやってくれないか、大分状況が悪いみたいなんだ」
西門ってブレイブ達がいるところだよね。アイツがいてそう簡単に抜かれるなんて思えないんだけど……
「敵の親玉もそこにいるみたいなの」
「このイベントは敵の親玉を倒さなきゃ終わらないんだ。君程の腕を持つプレイヤーならきっと助けになると思うんだ」
親玉を倒さなきゃ終わらないのなら、親玉を倒すのが街の人達の為にもなる、か。
ブレイブやクラウド達、他のプレイヤー達がいて、まだ倒せない親玉を相手に私に何が出切るのか分からないけど……
「……分かった。私は行くからリーザ達をよろしく」
「分かった」
「気を付けてね」
「メルさん。ありがとうございます。気を付けて」
ドゥーガに跨がって西門に行こうとしたところで、先程から黙っていたシャンファと呼ばれた女性に呼び止められる。
「ごめんね。どうしても気になってて」
凄く神妙な顔をしているけど、どうしたんだろうか、先程からずっと胸の辺りに視線を感じてはいたんだけど……
「貴女、その、幾つくらいなのかなって、身長と、その、きょ、胸部装甲で年が分かりづらいから……」
リアルの詮索は基本NG、それに今聞く事でもない筈なんだけど、妙に必死な相手の胸部装甲を見て、なんとなく彼女のコンプレックスを理解した。羨むような目で見てるけど、むしろ私の方が羨ましいんだけど……
「大学に行くなら受験生、頼むからそんな目で見ないで、これでも最大値まで減らしてるんだから……」
「な!!」
「マジ!?」
「合法、だと!?」
「ほう」
様々な反応がある中、一人だけ合法と言う言葉が聞こえたけど、今は無視しておく事にしよう。
「取り敢えず、私はもう行くから、ドゥーガお願い」
隣の芝生はなんとやらって言うけど、本当だよね。ドゥーガに揺られながら、私は何となくそう思った。
睡魔が強すぎて勝てないorz