第9話
難産でした。なんちゃって鍛冶回再びです。
最後の辺りがしっくりと来ないので、もしかしたら変えるかもしれません。
初めてのボス戦でやらかした私は3日程、工房に籠っている。
ここをこうして━━
ギュ
ここをああして━━
ギュー
う~んやっぱり鋼じゃ耐久性に問題がありそう。
ツンツン
後は動かす為の動力源と動力を伝えるモノが必要だよね。
ツン
「ねぇ、リズ」
「なぁに?」
「疲れない?」
「全然」
「私は疲れるんだけど……」
「あたしはメルちゃんを抱き締められて元気一杯だね」
私は今新しい武器の構成を考えて設計図を書いているんだけど、何故かリズの膝の上に座らされた挙げ句、抱き締められて頬を突っつかれていた。
いや、リズが遊びに来たから、お茶とお菓子を振る舞ったまでは普通だった筈なのに、私が設計図を書き始めると、私を持ち上げて今の状態に移行したのだ。
脚が痺れないのか不思議だ。
「それ設計図だよね?」
「そうだよ。見てみる?」
「うわ、これはまた何て言うか、ロマンの塊だね」
設計図を見たリズは感嘆した様子で設計図を返してきた。
「まあね。問題点は沢山あるけど、何とかなると思うんだけどね」
今分かってる問題点だけでも、動力の問題、これは私が使わないMPを使用する予定で、次にその動力を伝える回路的なモノ、これは当てがないので手探り状態、最後に素材の耐久性の問題、これは第二の街周辺の鉱山を当たって見るつもり。
さしあたって一番問題なのは二番目の問題なんだけど、どうしたものか……
煮詰まってきてるし気分転換でもしよう。
「そういえば、大剣の使い心地はどう?」
「ああ、すこぶる良いよ。ただ、あたしとしては両刃だと肩に担ぎ難いから片刃の方が嬉しいかな」
よし、なら作るしかないよね。
「分かった。新しいの作るね」
「え、良いの? あ、ならこれ使って、その服だと鍛冶し難いでしょ?」
リズから送られてきた装備をインベントリから取り出す。送られてきたのは簡素な白いタンクトッブと灰色掛かった緑、柳煤竹のオーバーオール、同色の厚手の手袋、黒のブーツが出てくる。
全部☆6って……
「イヤー、後にも先にも☆9にできたのってそのドレスだけなんだよねぇ、ショボいがもしれないけど、良かったら使ってよ」
☆6をショボいって、他の生産者が聞いたら発狂するんじゃ……
「リズありがとう。着替えてくるね」
奥に行って着替えたんだけど、タンクトッブがピチピチな上に臍が出ちゃうんだけど、オーバーオールの着方も細かく指示されました。片方だけ肩に掛けて、もう片方は掛けないのが正しい着方とか何とか……
まぁいいや、気を取り直してリズの大剣を作るとしよう。
炉に火を着けて、温度が高くなるのを待つ間に、鋼のインゴットを十本持ってくる。
「そんなにインゴットを使うの?」
「そうだよ。これで大剣一本分かな。片手剣辺りなら三本から四本で足りるんだけどね」
重量系の武器はどうしても素材を多く使ってしまうのだ。
それよりも、リズはこのまま工房内にいるつもりなのかな? かなり暑くなるから二階に避難してた方がいいと思うんだけど……
「これからもっと暑くなるから、二階に避難してた方がいいよ」
「う~ん、メルちゃんの作業を見てたいかな。気が散る?」
「無問題」
炉の温度が上がるまでがいつも長く感じるんだよね。
戦闘じゃ使わないけど、火属性の魔法でも修得しようか迷う。魔法を炉に叩き込めば、一気に温度が上がると思うし。
そろそろいいかな。さて本気でやるよ。
「【集中】」
集中のスキルを使用する。このスキル、パッシブスキルなんだけどアクティブスキルの側面もある。装備してるだけでも集中力が高まりやすくなる、更にアクティブスキルとして使用するとSTを消費して強制的に普段よりも集中力を高める効果がある。
温度の高くなった炉に鋼のインゴットを入れ赤熱した頃にハシで取り出し、薄く延ばして割る。
全てのインゴットを割り終え悪い部分を除いて、芯鉄と皮鉄、片刃にするから棟鉄用に分け、割れた鋼をテコ棒の上に乗せて積み重ね、わら灰をまぶして、火耐性の強い紐で縛って泥汁を塗りたくってから炉の中に突っ込む。充分に熱してから取り出して金床の上に乗っけ固定、向う槌を振るう。
鋼が纏まるまで何度も繰り返して、纏まったら鍛練の開始、延ばし鏨を入れ折り曲げる、また延ばして今度は縦に鏨を入れて折り曲げ、それを十五回程繰り返して長い棒状にしてからテコ棒を切り放す。
芯鉄用の鋼以外を同じ状態にまでもっていって、下鍛えが終了っと。下鍛えの終わった鋼を積み重ねていき、わら灰と泥汁を掛けて炉の中に突っ込む。充分に熱してから取り出して金床の上に固定、また向う槌を振るう。下鍛えと同様にある程度延ばしたら鏨を入れて折り曲げ、また延ばして鏨を入れて折り曲げる。これを七回繰り返し上げ鍛えが終了。
次に芯鉄用の鋼を鍛えていく、
四回程折り返し鍛えて、芯鉄の出来上がり、造り込みの作業にはいる。作るのは大剣なので刃鉄を使わず、芯鉄を皮鉄でくるむ甲伏せでやる。刃のないほうに棟鉄をつけて、炉に入れ熱し、取り出して向う槌で叩き鍛接、各パーツをくっつけていく。
鍛接が終わったら素延べ、剣の形を作る作業へと、金床に水を掛けて濡らし、その上に焼けた刀身を置いて打つ、水蒸気が出て刀身に付いていたカスが取れていく。肉厚で反りのない片刃の大剣が出来上がっていく。
切先と刃、茎を作って、わら灰で油分を拭い、焼刃土を満遍なく塗って炉に入られてから、焼き入れと焼き戻しを行う。
後は研いで、歪んでいるところを微調整し作り置きしてあった柄を入れて炉の火を落とす。
「ふぅ、【集中】解除」
もう集中力が必要な行程はないから、発動しっぱなしだった集中を解除して、武器のスロット数を確認する。
スロット数8かぁ、どうしよっか。
「リズ、スキルだけど希望ある?」
「そうだねぇ。耐久性があると嬉しいね」
耐久性か、なら耐久値減少軽減のスキルと耐久値上昇とかかな、【耐久値減少軽減 Ⅱ】が3スロット、【耐久値上昇 Ⅰ】が2スロット、【腕力強化 Ⅰ】が2スロット、後1スロット余ってるから、どうしようか? 何かいいスキルないか、な?
これなんかいいんじゃないかな、どんな感じかな?
【振り下ろす無慈悲な重圧 Ⅰ】
必要スロット数 1
武器を真上から真下に振り下ろす時だけ、刀身に掛かる重力を1.25倍にする。
真下に振り下ろす時だけ威力が上がるって事だよね? リズに聞いてみるか。
「リズ、面白そうなスキルがあったんだけど、つけてもいい?」
「メルちゃんが大丈夫だと思うなら、つけてもらって平気だよ」
なら、つけてみよう。
後は武器の名前を決めて、終わり。
アイテム名 フライハイトシェーネフラウ
等級 ☆8
品質 普通
スロット 8
残りスロット 0
斬撃補正 46
打撃補正 46
刺突補正 10
耐久値 150/150
発動スキル
【耐久値減少軽減 Ⅱ】【耐久値上昇 Ⅰ】【腕力強化 Ⅰ】【振り下ろす無慈悲な重圧 Ⅰ】
評価
メロディアが作った片刃の大剣。その一撃はあらゆるものを砕く破砕者そのもの、ドイツ語で自由な美人と言う銘であるが、暴虐な美人、蹂躙する美人の間違いじゃないかと思う。メロディアが初めて固有銘を着けた作品でもある。
うん。評価が段々と容赦なくなって来てる気がする……
しかし、初めて☆8が出来たけど、9には届かなかったかぁ、ちょっと悔しい。☆9の装備を作ったリズに同じ☆9を渡したかったんだけどね、物語のように上手くはいかないや。
「出来た。はい装備してみて」
「お、ありがと、四つもスキルがついてるって凄いね」
「その分、一つの効果は小さいけどね」
リズの身の丈に合わせた大剣を片手で軽々と持ち上げ振り回すリズ。
「【振り下ろす無慈悲な重圧】これは確かに面白そうなスキルだ、ね!!」
両手で持って真上から真下に振り下ろす、風を切る音が今までと明らかに違った。
「凄くいい感じ。いくら?」
「いらない。元々、あの装備の分のお返しとして作ったから、強いて言うなら、大事に使ってくれると嬉しい、かな」
「ああ、もう、恥じらうメルちゃん超ラブリー!!」
抱き付いて来ようとしたリズを避ける。
「もう、恥ずかしがり屋なんだから」
何だろう。今凄くイラッとした。変態のスイッチが入ってない時はまともなのに……
「そう言えば、メルちゃんもスキルのアシスト使ってないんだね」
え? アシスト使ってないってどういう事?
「え、リズどういう事?」
「え、メルちゃんスキルのアシスト機能オンにしてないでしょ? 動きが全然違ったからすぐに分かったけど」
スキルを持ってれば勝手にアシストしてくれるんじゃないの? そのなんちゃら機能なんて見た事なんて、あ……
気になって鍛冶のスキルをタップしてみたら、一番下にアシスト設定って項目があった……そこを更にタップするとアシストオフの文字と、アシストを有効にしますか? と言った文字が出てきた。
…………今まで、アシスト機能があるから上手く作れてたんだなぁって思ってたんだけど、実は一切アシストされてなかった?
その後、リズにスキルについて一通りの説明を受けた結果、色々と分かった。
まず、各スキルを修得しただけではアシスト機能はオフになっているらしい、アシストが必要な場合、自分で機能をオンにする必要がある事、実際私のスキルは全てアシスト機能がオフになってた。
次に生産スキルのレベルはアシスト機能の強化と、扱える素材の増加、作った装備のスロット数とステータスが優遇されやすくなる。だけど一次スキルの時点だとレベル補正なんてあってないようなもので、メインはアシスト機能の向上と扱える素材の増加らしい。
後、レベルが30になるとスキルの進化、もしくは派生させる事が出来る事も分かった。
よく今までプレイしてこれたなぁ私……思わず黄昏ずにはいられない。
取り合えずアシスト機能はオフのまんまでいいや、今までやってこれたし、リズも邪魔なだけって言っていたからね。
「えっと、リズ、色々とありがとう」
「別に大丈夫だよ。ちょっと驚きはしたけど、お姉さんは楽しかったからね」
そろそろ暗くなってきたので帰るリズの見送りにでる。
ふと隣に建築中の家があることに気が付く。
「ああ、そうそう、あたしお店を持つ事にしたんだよ」
あれ、嫌な予感がヒシヒシとするよ。
「そうなんだ。おめでとう」
「ありがとう。お店が出来たらお隣さんだから、よろしくね」
そう言ったリズはいい笑顔をしていた。