第8話 初めてのボス戦
昨日の夜書き上がった話です。
「ふぅ、終わったね」
第二の街の方に狩りに出てから何度目かの戦闘が終わった。
軽く長柄斧を振って刃に付いた血を払う。このゲームのイヤらしいところに近接武器は武器に付いた血を払わないと武器の耐久値が減少するというのがあるらしい。
初期武器は耐久値が∞になっていたから気付かなかった事で、初めて武器を変えたところ血振いをしないで納刀をしてしまい次に使った時には使えない程までに耐久値が減っていた事件があったそうだ。流石に懐紙で拭うまでしなくてもいいらしいけど。
でも、二十歳以下は倫理コードのグロを解除出来ないから、見た目的には水が付いているだけに見える。
そんな訳で、戦闘が終わったら必ず血振いをするのは近接アタッカーの常識になっている。
長柄斧を肩に担いで振り返ると、ブレイブ達も丁度血振いを終えたところだった。
「ああ、終わったな」
「しかし、メル貴女には驚かされてばかりですね」
眼鏡を直しながらクラウドが言った。
「何が?」
そんなに驚かしたつもりはないんだけどなぁ。
「私達よりステータスも戦闘系スキルのレベルも低いのに、私達と同じくらい強いじゃないですか」
ああ、その事か、テレビゲームならステータスやスキルレベルが重要なんだろうけど、このゲーム、いやこの世界においてプレイヤー自身のスキルも大切だと思う。
自分のステータスを出して確認してみる。
CN メロディア
MP 40/40
ST 100/100
筋力 13
体力 10
器用 13
精神 4
残り経験値 23
残りSP 5
所持金 1,000,900ペロン
装備スキル
【斧Lv:7】【腕力強化Lv:12】【脚力強化Lv:7】【服Lv:1】【行動制限解除━】【集中Lv:23】【鍛冶Lv:27】【】【】【】
控えスキル
無し
20日間、ずっと鍛冶をしていたせいで戦闘スキルが軒並み低い。
強化系のスキルは鍛冶でも多少は上がったけど、斧は戦闘しなきゃレベルが上がらないから、しょうがないね。一応生産でも経験値を得る事は出来たらしくて、ステータスを上げる事も出来た。
狩りに出る前にステータスを合計で5上げたけど、ステータスを上げるのがえげつない事になるのを初めて知った。
最初に1上げる時にかかった経験値が100、次に200、その次が300と全ステータス共有で必要経験値が上がっていく、ブレイブ達の話しによると、10回ステータスを上げると、次ぎは200ずつ上がっていくとの事なので、ステータスも考えて上げないと後々大変になりそう。
「まぁ、慣れてるから、それに武器の質も違うし、最初の頃のクラウド達とは楽さが違うと思うよ」
実際に今私が使ってる長柄斧は鋼製の等級☆7なんだから、ある程度楽で当たり前である。
何で等級☆7なのかって? そんなの自分が使う武器なんだから本気を超えた本気でやったら出来ちゃっただけです。他の鍛冶プレイヤーには絶対言うなよって、師匠とブレイブから釘を刺されていたりする。
「確かに、メルの武器に変えてから戦闘がすっごく楽になったもんね!」
「今までの苦労は?ってレベルだもんな」
「ですが、苦労をしたから今があるんですよリリウム、ブレイブ」
クラウドって見た目通り真面目なんだ。そんなんじゃブレイブと一緒に居て疲れないのか心配だなぁ。
「クラウド、お爺ちゃんみたい」
「爺臭い事言うなよ」
「な、爺臭いって……」
ごめんクラウド、私も少し思った、テッタも目を逸らしている事から、同様だろう。
「そ、それよりも、そろそろボスの近くですよ」
あ、露骨に話題を変えにいった。しかし、もうボスなの? 早すぎる気がするけど……
「まぁ、今回はあんまりmobと遭遇してないからなぁ、多分誰かが通った後なんじゃないか?」
「でしょうね。このまま行くとボスのところで鉢合う可能性がありますがどうします?」
「うーん。問題無いんじゃない? 武器の出所聞かれても答えなくちゃいけない訳じゃないし、最悪お店をやる気がないプレイヤーが趣味で作ったって言えば」
「それで引き下がる程ネットゲーマーは聞き分けがよくないと思いますけど」
「えっと、皆はなんの話をしてるの?」
まったく話しについていけてないんだけど。
「ああ、俺達の武器が良いものだから、それを見たら欲しがる奴がいるだろうなぁって話だ」
「メルの作った武器は見た目では普通ですが……」
「中身はトンデモ装備だもんね。見た目じゃ分からなくても、戦闘中に見られたら等級の高い武器ってバレる可能性が高いから」
「出所を聞かれた場合、メルさんの事を言う訳にはいかないので、どうしましょうかって話ですね」
あ、ご迷惑をお掛けします。
「まぁ、最悪、武器じゃなくて、ステータスやスキルのせいでいこうか、スキル構成やステータスを無理に聞き出すのはマナー違反だからな」
「そうしますか」
「さんせ~い」
「それで行きましょう」
ボスのところに行かないって言う選択肢はないんだ。そう言ったら、四人に口を合わせて、ないって言われた。実はテッタも相当なゲーマーなんじゃ……
ボスのところに着くと、ブレイブ達の予想通り先客が居た。
全員で六人のフルパーティーで豚(いや、牙が生えてるから猪かな)を人間の形にした、おそらくオークと呼ばれる類いと戦っている。
先客達の戦いは拮抗しているように見えるが、実際はそうじゃない。
オークが持ってる大剣に当たってしまえば一撃で終わってしまいそうだし、彼等の武器の問題か、もしくはステータスが低いのか、オークに攻撃が弾かれている箇所がある。その分彼等の方が不利だ。
「首や胸はアーツじゃなきゃ無理だ‼」
「取り敢えず少しずつ削っていくぞ!」
お互いに掛け声をかけながら戦っている彼等を見て、ブレイブが呟いた。
「あれは、負けるな」
六人の内二人が連繋とかを気にせず無駄に突っ込み過ぎてるし、何よりそのせいで二人が魔法使いの射線に入ってしまい、魔法使いが魔法を撃てないでいる。盾役がいるんだから、しっかり連繋をとればもう少し安定すると思うけど、ブレイブが負けるって断言するのも頷ける。
あ、一人死んだ。突っ込み過ぎてる二人に邪魔されて盾使いの人が身体を真横に両断された。
目の前で仲間が死んだ事で元からとれてなかった統率が皆無になる。
後は一方的な戦いだった。オークに魔法使いが跳ねられて瀕死になり、回復役かな? 僧侶のような服を着た娘がオークに押し倒される。18禁展開かってブレイブが呟いていたけど、そんな事はなく、大剣を胸に刺されて二人目の死亡者になった。オークが咆哮をあげると、ボスオークより少し小さいオークが五匹現れ、瀕死の魔法使いが止めを刺された。そこで勝てないと踏んだんだろう残った三人が退いてきた。
負けた彼等には悪いけど、負けるべくして負けた感じだね。
そんな事より、この空気の中ボスに挑戦するの? なんと言うか当て付け感があって嫌なんだけど。
一縷の希望を抱いてブレイブに確認する。
「やるの?」
「やるさ」
ですよねー。
「準備出来たか?」
全員が頷く。私達は獲物が逃げて雑魚を戻したオークへと向かって行く。
ああ、後ろから凄く視線を感じる。早めに終わらそう。そのために意識をオークへと向ける。
見ると先程の彼等が与えていた傷がなくなっている。ハイエナ等を防止する為のシステムなのかな?
大剣を肩に担いで木に寄り掛かり座るオーク、あれ? コレは奇襲できるんじゃない?
ある程度近付くとオークのテリトリーに入ったのか、オークが立ち上がろうとする。
それに併せて私は駆け出す。
「先いくね」
リアルの私では出せない速度で駆ける。目測四〇メートルを体感2.5秒弱で駆け抜けた。
この時点でオークはようやく立ち上がった所でその首は余りにも無防備過ぎた。その首目掛けて長柄斧を全力で振る。
「アーツ、【スマッシュ】!!」
ついでなので、使った事のないアーツとやらを使ってみた。
武器のスキルレベルを上げていくと覚えるやつで、ゲームで言うところの技とか、必殺技みたいなものだと思っていい。
アーツが発動すると、身体が勝手に動いていき、狙いを違わずオークへと当たり、その首は宙に舞う事となった。
凄く綺麗に飛んでるね。あはは、ボスって一撃で死ぬんだ。シラナカッタナー。
や、ヤバイデスヨ。後ろを振り返る勇気が、私としてもこんな結果になるなんて思ってもいなかったし、思うわけがないし、
お願いだから、誰か何か言ってください。
「え、えっと、やっつけちゃった……」
なけなしの勇気を振り絞って振り返ると、そこには苦笑いを浮かべる四人と、その後ろで唖然とした三人だった。
「あはは、ボ、ボスって柔いんだね」
こうなったら開き直って私は悪くない作戦で行こう。私の予想より遥かに弱かったあのオークが悪い。
「そんな訳ないだろ、少しは考えような」
く、ブレイブの憐れんだ表情が凄く傷付く。
「はい……」
クラウド達にはメルだからですまされてしまい、怒ってないのが幸いだけど、どうにも居心地が悪い。
その後、第二の街まで戦闘がなくポータルを開放するまで気不味い思いをすることになるとは思ってもいなかった。
次は掲示板の予定です。
今せっせこ書いてます。