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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第2シリーズ:恋を奏でて、愛を信じる
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第19話:救世主になってください


 昼下がり、学校の中庭でいちゃつく恋人たち。

 ベンチに座って人目もはばかることもなく身体を密着させあう。

 傍目から見れば、嫉妬的な意味でけしからん行為である。

 ここにもそんなカップルが一組。


「総ちゃん。シアを愛してるならここでちゅーできる?」

「できるけど、しないぞ。したら、俺が影でひどい目に合うからな」

「そんな周囲の事なんて気にせず、愛を確認しあいましょ」

「無理っす。俺はまだこの学校で普通の扱いでいたいんだ」


 信愛に抱きつかれて困り顔の彼は、


「ところで、さっきからこっちを凝視するあの先輩はお前の知り合いか?」

「どなた?」


 彼女の視線の先には牧子が「リア充がいるわぁ」と嫉妬交じりの表情をしていた。

 先日の恋奏の撮影以来の再会であった。


「あー。マッキー先輩だぁ。こんにちは」

「どうも。ラブラブだとは聞いてたけど、超ラブラブだねぇ」

「いえいえ、この程度はまだまだ序の口なのです。で、どうしたの?」

「ミーナに頼みがあってきたのよ。ちょっとしたお願いがあるんだけどさ」


 どこか言いづらそうに彼女は信愛に頼み込む。

 

「お願い、私たち映像制作部を助けてください!」

「助ける?」

「すっごく大ピンチなの。ピンチ度で言うと、締め切りギリギリで落としかけてる漫画家並みに追いつめられてるわけ。ミーナの力が必要なのよ」

「よく分からないや。一から説明してもらえる?」


 現在、彼女たち、映像制作部は危機を迎えている。

 文化祭まで残り少ない期間なのにもかかわらず、未だに映像が撮れていないのだ。

 

「数日前に撮影していたコイカナの映像の方は順調に編集が進んでいるの。でも、本題は学校案内の方なんだけどね」

「あー、イケメン先輩が出るって言ってたやつ?」

「そう。小林君をメインに撮影する予定が大失敗。実は彼、とんでもない、あがり症であったことが判明しまして。緊張のあまり卒倒寸前。ついには撮影辞退されちゃってさぁ」

「あらら。人って意外な弱点があるんだねぇ」

「そんなのんきに言ってる場合じゃないから。いきなり辞退されて予定はぐちゃぐちゃ。このままじゃ、どうにもならなくて代役を探してるんだけど、頼りのコイカナは『もう嫌だ』の一点張りで助けてくれないの」


 恋奏の言い分とすれば、別のPVに協力したことで友人としての義務は果たしたからだ。

 無理強いもできず、困った牧子は信愛に目を付けたのだ。


「去年の映像を使いまわしたりとかは?」

「一応、毎年映像を作るのが私たちの仕事なわけで。最後まで諦めたくないじゃない。ミーナだって、自分たちで育てた花を見てもらいたいでしょう?」

「そうだねぇ。気持ちはよく分かるかも」


 何事も自分たちが関わってこその価値がある。


「そんなとき、思い出したのがミーナの存在よ。ミーナはあの香月さん相手でも物怖じしないメンタルの強さを持ってるでしょ。その可愛いルックスを含めて、絶対にうまく行くと思うの。どう? お手伝いしてくれない?」


 窮地に陥る映像制作部の救世主。

 いきなり救世主扱いに、さすがの信愛も戸惑いを隠せない。


「んー、どうしようかなぁ?」

「お礼に美味しいものをごちそうするから。お願い、ミーナだけが最後の頼りなの。私たちの救世主になってください!」


 必死の牧子のお願いに信愛は受けるかどうかを悩む。

 そんな彼女を後押ししたのは、話を隣で聞いていた総司だった。

 

「いいじゃん。せっかくの機会だし、やってみたらどうだ?」

「え?」

「こーいうのもいい経験ってやつじゃないの? 青春っぽい」

「青春かぁ。でも、シアは演技とか得意じゃないから」

「……難しいことを考えないで自然体でやってくれたらいいんだよ? そうだ、なんなら彼氏さんも参加しない? ふたり一緒ならいいでしょ?」


 思わぬ牧子の誘いに総司は顔を引きつらせて、


「お、俺はちょっとこーいうんは遠慮したいんですが」

「いいじゃない。総ちゃんも一緒なら楽しそうだもん。それならOKだよ」

「げっ。マジかよ」


 自分が後押しした手前、逃げることもできず。

 なし崩しで、総司も強制参加が決定するのだった。


「やったぁ。ありがとう、ミーナ。すっごく助かる」


 勢いよく牧子に抱擁されて信愛は「ちなみに撮影はいつから?」と尋ねた。


「あ、今日の放課後からでお願いします。撮影期間は二日間。今日と明日の放課後で撮影を終えなきゃ文化祭までに間に合いません」

「ナンデスト!?」

「だから言ってるじゃん。大ピンチなんだって。頼むよ、ミーナと彼氏君?」

「……が、頑張ります」


 こうして、信愛と総司は学校案内の映像制作に参加することになったのだった。






 放課後になり、信愛たちは映像制作部と共に学校案内の動画撮影に入っていた。


「ここが食堂でーす。カフェっぽい雰囲気がとっても素敵でおしゃれでしょう? 女の子なら誰もが気になるダイエット向けの低カロリーメニューもあるので、大丈夫だよ」


 学校案内、各所のPRを速やかに進めていく。

 ノリノリの信愛が進行していくのを総司が合わせる。


「十分に広いスペースがあるので、席を奪い合うこともなく、利用できます」

「お弁当を食べてもOK! 楽しいランチタイムになるのは間違いなし」


 恋人同士のふたり、自然体で息が合っている。

 そのため、撮影は予想以上に順調に進んでいた。


「はい、カット。ちょっとだけ休憩。ミーナ、彼氏君。ジュースだよ、飲んで」

「ありがとー。さすがに疲れてきたの」


 ジュースを飲みながらひと段落つく。

 立て続けの撮影に信愛の顔にも少し疲労が出ていた。


「もうひと踏ん張り、頑張って。それにしても、ミーナってば、すっごく舞台度胸があるっていうか。普通、映像を取られてたら緊張とかするのに」

「総ちゃんと一緒なら大丈夫。いつもと一緒だもん」

「彼氏パワーか。なるほどなぁ。彼氏君も頑張ってくれてるね?」

「こいつの前で失敗したら、恥をかくだけなので。こーみえてもギリギリのところで頑張ってますよ。それよりも、信愛。お前が“私”何て言うと新鮮だな」


 普段は一人称が“シア”な信愛であるが、撮影の時には“私”と使っている。


「言い慣れていないから、わたひって言いそうになる」

「ふふっ。時々、噛むよね。ミーナは昔から名前呼び?」

「そうだよぉ。シアは子供っぽいって言われるけど、直せない癖の一つなのです」

「俺からしても、さっさと直してほしいのだが」

「シアはシアでいいじゃん。何か文句でも?」

「ないけどさぁ」


 昔からの癖であり、中々簡単にはやめられない。

 これ以上、触れると不機嫌になる気がして総司も追及をやめた。


「でも、恋人同士だからすごく自然体なのは良いね。これは私たちも考えてた以上にいい映像が撮れてる。どうしても人って緊張するでしょ。固くなったり、普段らしさが出なかったりね」

「総ちゃんと一緒だもん。シアはいつも通りなのですよ」

「……ホントにミーナは彼氏君を信頼しているんだ」

「大好きな人が傍にいる。いつもの日常だからシアも緊張なんてしないの」

「なるほど。彼氏君、愛されまくっていいわねぇ。……リア充、羨ましい」


 二人の信頼と親密さを改めて感じさせられる牧子であった。

 恋人への憧れだけが強く募る。

 休憩を終えて、再び撮影を始めていく。

 二日間の強行日程ではあったが、無事に撮影は終了。

 何とか映像制作部の危機は救われたのだった。

 しかし、後にこの映像が思わぬ形で信愛にある出会いをもたらせることに――。

 

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