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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第2シリーズ:恋を奏でて、愛を信じる
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第6話:それぞれの不安

 家に帰るなり、お風呂に入る信愛は湯船につかりながら、


「おのれ、倦怠期。許すまじ! 許せん、許せんぞー」


 と、浴槽で不穏なことを呟いていた。

 ちゃぷんっとお湯をすくいながら、


「総ちゃんも総ちゃんだ。シアに対してあんなにつれなくなるなんて」


 ただ甘えたいだけなのに。

 それすらも拒否られて、信愛は心に小さいながらも傷を負う。

 お湯に身体を温もられながら、ため息しか出てこない。


「はぁ……」


 その後、携帯で倦怠期について調べてみたが、不安になることも書かれていた。


「倦怠期になると浮気されることも多いって。最悪だよぉ」


 総司に現在のところ、信愛以外の女性の影はない。

 元々、彼はさほど女子人気はない。

 悪い意味でではなく、信愛という絶対的な彼女の存在がいるせいだ。

 誰しも総司を恋愛対象にしようなど思うはずもなく。

 恋愛的な好感を抱く女子は限りなく少ないのである。


「だけど、油断大敵! ここで油断すると別れる危機になるかもしれない」


 倦怠期は油断ならぬ存在であり、いろいろと頑張ることにするのだった。

 のぼせる前に、お風呂からあがると、


「あら、信愛。おかえりなさい」

「ママだ。おかえりー。今日は早かったの?」


 夕食を食べながら、缶チューハイを飲む那智がそこにいた。

 美味しそうにチーズをおつまみに、お酒を飲むが、それほど酒に強いわけではない。


「珍しいね。ママがお酒を飲むって」

「仕事の方ががうまくいったので、今日は早めに終わったの」

「大きな仕事だっけ。みんなで頑張ってたんでしょ」

「そうねぇ。でも、まだこれからが本番なんだけどね。明日からまた忙しくなっちゃう。信愛にも迷惑をかけちゃうけど、許してね?」


 那智が今の職場で働いているのは学生時代の先輩に紹介されたのが縁だ。

 妊娠して信愛を生んだのはいいが、その件で実家とは縁を切ることになった。

 信愛を育てていくために生活費を稼がなくてはいけない。

 そんな彼女を助けてくれたのは、学生時代の先輩であった。

 最初こそ仕事にも慣れずに、幼い信愛を育てながら大変だった。

 しかし、今では職場でもかかせない人間のひとりになっている。


「可愛い娘よ、私に抱きついてきなさい」


 少し酔ってるのか、那智は信愛をそう言って抱き寄せた。


――うっ、ま、ママ……少しお酒臭いです。


 ほんのりと香るお酒の匂い。

 だが、愛を求めている信愛はそれでも嫌がらず受け止める。


「信愛ぁ。んー」


 お酒に酔う那智は愛娘をぎゅっと抱きしめると、心配そうに尋ねる。


「なんか暗い顔をしてるじゃない。どうしたの?」

「総ちゃんが倦怠期モードに突入して寂しいの」

「倦怠期? あの倦怠期?」

「そうみたい。信愛のこと、全然、かまってくれないんだよぉ。ひどくない?」


 慰める那智は「喧嘩とかしてるの?」と信愛の言葉を聞く。

 

「……喧嘩じゃないけど。抱きついても、キスしようとしても、気分じゃないって拒否されちゃうの。挙句の果てに、追い出されちゃった」

「あらぁ。それはダメねぇ。総司君、お仕置きかもねぇ」

「はぁ、倦怠期って何であるんだろ。シアには全然、その気持ちが分からない」


 総司に対して一途な恋心を持ってきた。

 ずっと傍にいた男の子であり、初恋の存在でもある。

 信愛が総司を好きになったのは今でもよく覚えている。

 小学3年生の夏休み、信愛にとって忘れられない出来事があった。

 あれらから、月日がどれだけ経っても、付き合ってからも変わることがなく、ひたすら真っすぐに彼だけを思い続けてきた。


――大好きな総ちゃん。シアだけの大切な人だもん。


 これまで倦怠期など微塵も感じたこともない。

 

「信愛はホントに一途な子。その真っすぐすぎる“愛”は誰に似たのかしら」

「え? ママじゃないの?」

「……だと良いわねぇ。あはは」


 なぜか笑って誤魔化す那智だった。


――ママの恋愛って何も知らないからなぁ。


 親子間でも過去の話をほとんどしない。

 それは幼い頃から信愛が、触れてはいけないと思ってきたからだ。


――過去を知りたいけど、話せないこともあるんだよね。


 親と子でも、踏み込めない領域ってのはあるもので。

 信愛も、土足で踏み込む気はなかった。

 ただ、聞いてみたいとは思ったのだ。


「あ、あのね。ママは倦怠期とか感じたことってない?」

「……ないわね」


 微妙な間を置いて彼女はそう言った。


「倦怠期なんて感じた事、人生で一度もないなぁ。悪い意味で」

「……悪い意味で?」

「そこまで関係が続いたことがないってこと。裏切られたり、裏切ったり。お母さんは恋愛で非常に波乱万丈な目にあったのです」


 遠い目をして言うので信愛もそれ以上は触れられなかった。


――なんてことでしょう。ママの恋愛遍歴ってどんなもの?


 信愛の父親との交際も似たようなパターンだったのか。


――聞いてみたいけど、聞く勇気が今のシアにはないや。


 とっても気になるのだが簡単に聞けるわけもなかった。

 那智はお酒の缶を飲みながら「愛の試練だわぁ」と信愛に忠告する。


「いい、信愛? 倦怠期っていうのは私の聞く限りじゃ、浮気される確率がかなりあがるらしいのよ。知り合いの先輩や、バツ2の上司が言ってたことがあるわ」

「……やっぱり?」

「人間の本能的なものらしいんだけどね。大事なのはスキンシップだって。慣れてきた時期だからこそ、デートひとつも丁寧にしてみるとか、改めてちゃんと触れ合ったりしてみて、気持ちを確かめ合うのが大事なんだってさ」


 那智の言葉に信愛は「そーいうものなの?」と言葉を返す。


――スキンシップか。時間が解決してくれるのを待つよりもいいよね?


 彼女は基本的に待つのは嫌いだ。

 運命に身を任せることも、奇跡が起きることをただ待つだけのことも。

 それならば、自分自身で何か行動したいと思ってしまうタイプなのだ。


「シア、この危機を乗り越えてみせます」

「頑張れ、恋する女の子。お母さんは頑張る娘を応援してます」


 やる気に燃える娘を那智は応援するのだった。


「……えいっ。今日はママで我慢するの」

「あらぁ。なぁに、信愛ってば。すごく甘えてくるじゃない」

「えへへ」


 信愛は総司につれなくされた分、那智に抱きついてストレスを発散する。

 倦怠期という厄介な敵と戦う覚悟を持つ信愛だった――。





 同じころ、腰にタオルを巻いて部屋へと逃げ込んだ総司は怒っていた。


「信愛めぇ。ひどいことをしやがって」


 タオルで身体を拭いて、奪われた下着やパジャマを着終える。

 ようやく人心地つくと、部屋をノックする音が聞こえた。


「母さん? どうぞ」

「総司。少しいいかしら?」


 それは総司と信愛の関係を心配した杏子であった。


「いいけど、なに?」

「貴方、信愛ちゃんにひどいことをしてるでしょ?」

「違うって。誤解だ。俺は別に、喧嘩しようと思ってるわけじゃないし」


 総司にとって、これまでの行動は微妙な気持ちが原因なのである。

 触れ合おうとする信愛に対して、鬱陶しいと思ってしまったり。

 愛する気持ちがずれて、すれ違うこともある。

 

「……単刀直入にアドバイスするわ。それ、倦怠期だから」

「はぁ? 倦怠期……って、これが?」

「そう。一緒にいることが少し苦痛に感じたり、面倒だと思ったり。それは総司の本心じゃないの。倦怠期ゆえの行動だから誤解するんじゃないわよ」


 杏子にとって、信愛の存在は愛娘である。

 将来は息子と結婚して家庭をもってもらうのが願いだ。


「信愛ちゃんみたいに純粋な子は他にいないの。分かってるでしょ。もっと大事にしてあげなきゃダメじゃない」

「してるつもりなんだよ。俺、別に信愛に何かしたわけじゃないし」


 今回の騒動で、信愛にひどい真似をした自覚が総司にはない。

 ただ、それこそが倦怠期特有の“悪魔の手”である。

 自覚のない“すれ違い”が“悪意”に変わることもあるのだ。

 

「……だったら自覚しなさい。総司が感じてるもの、それが倦怠期っていう問題であることをね。このまますれ違って、別れるパターンもよくあるのよ」

「マジかよ」

「信愛ちゃん。思い込みの激しい子でもあるから、下手に傷つけると取り返しのつかないことにもなるかもしれないわ」


 二人の関係を心配するがゆえに。

 杏子は総司に対して、ある助言をするのだ。

 

「女の子はね、ちゃんと言葉にしてもらえないと不安になるのよ」

「何を?」

「自分が愛されているか。いつだって愛の証を求めてるの。たまには言葉にしてあげなくちゃ。女の子の気持ち、よーく考えてあげるのよ、この鈍感男め」


 母からのアドバイスに総司はよく分からないままに「気を付ける」と頷いた。

 しかし、事態は彼の思いもしない方へと展開しつつあった。

 

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