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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第2シリーズ:恋を奏でて、愛を信じる
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第2話:運命ってあると思う?

 総司と信愛は夕食は片桐家でとることが多い。

 母親が不在がちというのもあるが、家族同然でもあるからだ。

 キッチンで夕食を作りながら、彼女は包丁で野菜を切っていた。


「んー、ホントに信愛ちゃんは料理上手になったわよねぇ」

「えへへ。おばさんのおかげですよー」

「総司もいいお嫁さん候補がいて、安心だわぁ」


 信愛は総司の母である杏子にとても気に入られている。

 総司には現在、独り暮らしをしている大学生の兄がおり、男兄弟ふたりである。

 そのため、信愛は杏子から実の娘同然の扱いをされているのだ。

 将来の総司の嫁候補としての料理スキルも教えられている。


「そういえば、那智さん。最近、お仕事の方が大変みたいね?」

「お仕事が忙しいんだって言ってました。大きなお仕事を請け負って、夜遅くまで帰れないんだって……。また無理しないといいんですけど」

「そうねぇ。前に一度、倒れちゃったものねぇ」

「でも、今のお仕事はやりがいがあって好きだって言ってました」


 一人娘と過ごせるのも、朝の短い時間のみ。

 母子家庭であるがゆえに、信愛もあまり負担をかけたくない。

 

「そろそろ、ご飯できたかぁ」

「何をのんきな。総司、アンタもちょっとは手伝いなさい」

「はいはい、お皿でも並べてますよ。これでいいのか」

「総ちゃん、今日はビーフシチューだよぉ」


 お鍋をかき混ぜながら信愛はそう言った。

 キッチンにビーフシチューのいい香りが立ち込める。

 

「お前の苦手なクリームシチューじゃないんだな。俺はアレも好きだぞ」

「ぐぬぬ、牛乳嫌いだからって意地悪なことを言わなくても……」

「総司。あんまり意地悪なことを言ってると、ビーフシチューのお肉を抜くわよ」

「母さんの横暴!肉抜きのビーフシチューになんの意味があるのだ」

「だったら、信愛ちゃんをいじめない。こんなに素直で可愛い子はいないのよ」


 杏子は常に信愛の味方であり、総司も「しょうがない」と諦める。


「信愛の料理もだいぶ上手になってきたからなぁ。期待はしてるさ」

「うん、期待していいよぉ。ニンジンはハート形に切っております。可愛いでしょ」

「……そういうところに期待はしないけど」


 総司にとってはニンジンがハートだろうが半月だろうが、どちらでも構わない。


「まぁ、美味しそうなのには違いない」

「美味しいよ。って、言ってる間にできましたぁ。食べて、食べて」


 お皿を並べて、食事を始める。

 信愛の手づくり料理を食べるのは総司も好きだ。

 中学時代はまだまだだった野菜の切り方も今はとても綺麗である。

 味付けの方も料理経験を重ねることで満足するものになってきていた。

 

「あの野菜の形がぐちゃぐちゃだったころに比べればすごい進歩だぜ」

「きゅうりの皮をむくのもできない人に言われてもなぁ」

「……俺は別に料理なんてできなくてもいいんです」

「あら、今どきは男の子も料理ができた方がカッコいいじゃない」

「ですよねぇ。総ちゃんも料理を覚える? 教えてあげるよぉ?」


 彼女の言葉に「いいです」とあっさりと断る。


「俺は食べるのが専門だ。うん、美味しい」

「ありがと。そういえば、総ちゃんって嫌いなものがないんだっけ」

「概ね全般はないな。えっと、ヘビとかカエルの肉とか? ゲテモノはダメだな」

「シアもさすがに無理ですっ」


 信愛は牛乳などの乳製品が苦手気味だ。

 バター程度は風味で大丈夫でも、チーズは苦手である。

 

「お前、牛乳の何がそこまで嫌いなんだよ?」

「後味? あの独特のにおいもダメなのです」

「ふーん。そういうものか」


 苦手意識を子供の頃に持ったものは食わず嫌いで食べられなくなる。

 今はチャレンジする気になれない信愛だった。


「牛乳飲まなかったので大きくならなかったのだな」

「うるさーい。牛乳と身長が伸びることに因果関係はありませーん」


 拗ねた信愛はビーフシチューをスプーンですくいながら、


「総ちゃん。明日は園芸部なので一緒には帰れないからね。寂しがらないで」

「寂しがらないけど、朝はちゃんと起こしに来なさい」

「ぐすっ。おばさん、シアの存在価値が目覚まし時計代わりな件について」

「あとで、しっかりと教育しておくわ」

「お、お前ら、タッグを組んで俺をいじめるのはやめなさい」


 どうにも味方がおらず、立場が弱くなる総司だった。

 

「園芸部って年中やってるんだよな」

「そーだね。今は夏のお花と切り替えて、秋の花が咲くための準備中かな」


 週に二回ほどの園芸部。

 お花好きの信愛にとっては楽しみの一つでもある。


「総ちゃんも部活をやってみたらいいのに」

「例えば?」

「……園芸部とかどう? 力のある男子部員を募集してます」

「やめとく。俺、花とか全然興味ないし。子供の頃に育てた朝顔でさえ枯らしたぞ」

「つーん。フラれちゃった。一緒に入ってくれたらもっと楽しいのに」


 無理強いはできないので、信愛もそれ以上は勧めない。


「でも、何かするのっていいと思うの」

「そーだな。青春っぽくていいな」

「中学の時みたいにバスケ部に入ればいいのに。応援するよ?」

「あれは強制的に入れさせられただけ。俺に競技スポーツは向いてないんだって」


 総司は運動自体は好きだし、時折、部活で汗を流す生徒を見て、やってみたい気持ちにはなる。

 だが、集団行動を得意としないこともあり、高校では何も部活に入らなかった。





 食事を終えて、のんびりとしていた。

 信愛はソファーに寝転んで総司に膝枕されながら携帯で占いをしている。


「明日の運勢、最高。運命の人に出会えるかも? 運命の人かぁ」

「そんな占い信じてるのかよ」

「信じてますよー。総ちゃんは運命を信じますか?」

「運命? そんなもの、結果へのこじつけだろ」

「あー、そういう夢のないことを言うし。運命って響きがいいじゃない」


 運命の人と出会うこと。

 誰もが憧れて望むものだ。


「運命ねぇ? 恋愛と運命をくっけるってのはどうかと」

「総ちゃんはシアとの出会いは運命だって思ってくれてない?」

「……ただのお隣さんですからねぇ」


 そこに運命的なものがあったかと問われればどうだろうか。

 総司の素直すぎる反応に信愛はツンっと不貞腐れる。


――乙女心の分からない鈍い男の子だぁ。


 彼の愛情を疑うことはない。

 だが、付き合い始めて3年目になると愛を確認したくもなる。


「えぇー。そのお隣さんで、可愛い彼女がいるっていうのは偶然にしてはデキ過ぎだとは思いません? それこそ運命でしょう?」

「運命とか乙女チックだな」


 軽く笑い、膝枕をする信愛の頭を子猫のように撫でる。


「ぐぬぬ。総ちゃんは私との出会いに運命を感じてくれてない様子。いいもん、それならシアは自分の運命の人を探します」

「はいはい。百円くらいでコンビニで買えるんじゃないの」

「シアの運命の相手はワンコインですか。ひどっ!?」


 完全に否定されたので信愛は唇を尖らせる。


「シアは明日、占い通りに運命の人に出会うの。その人はぁ、とてもかっこよくて素敵な人なの。彼氏がいるシアの事を好きになってくれるわけ。総ちゃんにとっての恋のライバル登場だね」

「ふーん。で?」

「その人はシアを諦めきれずに、シアを口説きまくるわけ。恋に揺れるシア。三角関係に突入したシアたちの恋の行方は……最後は誰を選ぶでしょうか」


 なんて、よくあるテンプレな展開を言葉にする。


「最後は誰を選ぶんだ?」

「え?」


 しかし、それは総司にとっては“面白くない”展開だったらしい。

 頭を撫でていた手を止める。


「ぽっと出の男を選んだりするのか?」


 信愛は恐る恐る顔を見上げると、見下ろす総司の顔は笑ってない。

 真顔というのはある意味で怖い。


「冗談ですよ? 総ちゃん以外を選ぶわけないじゃん」

「……」

「もうっ。拗ねちゃって。シアの心も身体も総ちゃんのモノだし」


 起き上がった彼女は総司に抱きつく。

 すると信愛を押し倒すように彼は求めてくる。


「ちょっ……ここじゃダメだってば、んっ」

「お仕置きだ」

「やんっ。あとついちゃうし」


 首筋にキスをされて、信愛はくすぐったそうに身をすくめながら、


「もうっ。心配しなくても、シアの運命の相手は総ちゃんだけだよぉ」

「……俺は別に運命なんてどうでもいいんだよ。だがな、他の誰かにお前が振り向くのだけは許さない。冗談でも言うんじゃないぞ」

「はーい。えへへ、総ちゃんも素直じゃないんだからぁ」


 その言葉が彼女にはとても意外だったのだ。


――総ちゃんってば意外にも独占欲が強いんだねぇ。


 愛されているという実感。


――ちゃんと愛されてます。素直じゃないけど、そんな総ちゃんが好き。


 運命の相手なんていちいち言葉にしなくても。

 しっかりと心が繋がる相手がいるのだから。


「あらあら。ふたりとも、いちゃついてくれちゃって。お風呂わいたわよ」


 ふとそんな光景に出くわした総司の母。

 信愛を押し倒す総司を牽制するように、


「もう少し、人前では自重してもらいたいなぁ。我が息子よ」

「……すみません」

「まったく。こんな欲望まみれの息子でごめんね、信愛ちゃん」

「いいんですよ。そーいう総ちゃんも好きですし。ほら、そろそろお風呂はいろぉ」

「あー、引っ張るな、分かったから」


 総司と信愛が一緒にお風呂に入るのも日常の一つである。

 仲良くお風呂場に向かう二人を微笑ましそうに杏子は眺めつつも、


「若夫婦か。ご近所さんの噂通りの関係なのはいいことなのだけど……これでうっかり子供とかできちゃったら、さすがに那智さんに申し訳ないわ」


 苦笑いをするしかできない母だった。

 信愛と総司、半同棲の恋人としての時間。

 それはふたりにとって当たり前の日常であり、ずっと続けてきたもの。

 出会いは運命的ではなくとも、確実な愛がふたりにはある。

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