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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第2シリーズ:恋を奏でて、愛を信じる
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第1話:ダリアの花は美しく咲き


 信愛と総司は四六時中、行動を共にしている。

 学校でのクラスも同じのため、昼休憩も当然、一緒にいることが多い。


「ごちそうさまでしたぁ」

 

 教室の片隅、信愛は自分の席で母の手作り弁当を食べ終えた。

 お弁当のサイズも小さいのですぐに終了してしまう。


「相変わらずの少食だな。大きくなりませんぞ」

「シアの体型だとこの程度の食事で十分なのです」

「それしか食べないから大きくなれなかったのでは?」

「牛乳嫌いが響いたのかも、と思うことはあるけど。シアは牛乳が苦手だからなぁ」


 身長は152センチという同年代から見ても小柄な方だ。

 総司は180センチ近くあるので身長差も大きい。

 食も細く、体重もその分軽いために、総司も時々心配にもなる。


「大体さぁ、シアだってもう少し身長は欲しかったわけで」

「そのサイズで身長が止まったのはキツイな」

「うぅ、せめて身長がもう少し高ければ胸のサイズの方も大きくなったはずなのに。このお手頃サイズでも、総ちゃんは満足してくれますか?」


 自分の控えめな胸を手で軽く揉んでがっくりと肩を落とす。

 同級生と比べても、自分の胸には不満が大いにある。


「満足してやるから、自分の胸を揉むな。クラスメイトから微妙な疑惑を抱かれる」

「ロリ疑惑なのは昔からでしょ?」

「お前が言うなぁ、信愛がもう少し大人びていたな」

「そういいつも、こんなシアの身体でも毎日、楽しんでる総ちゃんでした」


 ひそひそと「片桐め。毎日、楽しんでるだと?」と男子から噂話をされる。

 そこには明らかに敵意と殺意が見え隠れしている。


「し、信愛ぁ!」

「ごめん、ごめん。悪気があったわけじゃないってば」

「絶対にウソだ。こいつ、俺の立場を悪くしやがる気だ」


 軽く舌をだして悪びれる様子もなく、胸を揉む手を止めて、


「総ちゃんの持ってるえっちぃ本は胸の大きい人ばかりだから信じられなくて」

「男の趣味に口出しはやめれ。ああいうのは理想だからな。あと、人の部屋を探すのもやめなさい。漁ったあとに机の上に置くとか鬼か。この前、母さんに見つかりそうになった」

「んー。大丈夫だよ、部屋の掃除を兼ねておばさんと一緒に探したからぁ。総司はこういう趣味なのね、とおばさんが嘆いておりました」

「ぜ、全然、大丈夫じゃねぇよ!? ふたりして何しやがる」


 母親と恋人に自分の趣味がバレるとは恥ずかしくて死にそうだ。

 総司の男の尊厳がズタズタに引き裂かれてしまう。

 赤面する総司はがっくりと肩を落としつつ、


「お前ら、やることがひどいんだよ」

「総ちゃんの趣味を知ること。それはシアにとって大事なことだもん」

「無理するな。あんな本の女の子には信愛の体形じゃなれない」

「なんですとー。失礼な、シアも脱げばすごいとよく言われるのに。シアの裸じゃ満足できないとでも言いたそうですね。ぐぬぬ」

「……はいはい。すごい、すごい。なので学校でその話はやめて。俺、ホントにいつか誰かに刺されるかもしれないから」


 周囲からの殺意交じりの視線を向けられて冷や汗をかく総司だった。

 信愛は見た目の可愛さから人気も高い。

 逆に彼女の心を独占している総司には男からの嫉妬も多いのだ。

 信愛のファンからは普通に憎まれているため、悪意を向けられるのも珍しくない。


「総ちゃんはシアだけを見てくれたらいいんだよ? ほかの子に振り向いちゃダメ」

「逆に聞くけど、お前は俺以外に振り向く気はないんだよな」

「当然。シアはお友達でも男の子の連絡先は携帯に入ってません。総ちゃんは?」

「……あー、まぁ、その件はまた今度ということで」


 あからさまに誤魔化す、総司だった。

 信愛と総司は付き合い始めて3年目を迎える。

 幼馴染の関係が恋人に変わったのは中学に入ってすぐのことだった。

 元々、お互いに好きあっていたために、信愛から告白する形で付き合いはじめた。

 相思相愛、将来は結婚すると両親にも宣言済み。 

 周囲からはバカップルと言われるほどに、仲のいい関係なのである。


「そうだ、総ちゃん」


 信愛は総司の制服を軽くつかんで、


「放課後、シアに付き合ってよ。新しいファンシーグッズのショップができたの。前から気になってたんだよ」

「お前、まだぬいぐるみ系を増やす気か。ホント可愛いのが好きなんだな」

「いいじゃない。ほら、もうすぐシアの誕生日だし?」

「……信愛の誕生月になると、何度そのネタでゆすられるのやら」

「ゆするとは失礼な。可愛い彼女のお願いですよ?」

「物は言いよう。俺の財布をストレートにダイレクトアタックしてくるだろうが」


 総司も信愛にねだられると甘いところがある。

 愛しい恋人であり、妹のような存在でもあり、甘えられると断れない。


「ねぇ、お願い~」


 あざと可愛い上目遣い。


「その目はずるい」


 信愛は自分の魅力をよく分かってるために手強い。

 可愛いらしい大きな瞳を向けられると総司も弱いのだ。

 

「はぁ。分かった、可愛い恋人のために。俺は自分の財布を投げ捨てる気分で、お前のデートに付き合おう。何でもおねだりしてくれたまえ」

「言い方がひどい。そこは恋人の誕生日のためならお金に糸目はつけないよ、と言い直してもらいたいのです」

「なら、それで。まぁ、このために夏に少しアルバイトもしてたわけで」

「もうっ、素直じゃないけど、そんな総ちゃんを許してあげる」


 なんだかんだんで、シアのためにプレゼントを買ってくれるのだから。





 放課後になり、総司はお店で可愛らしい子犬のぬいぐるみを買わされた。

 当然のように荷物持ちまですることになる。


「誕生日プレゼント。ありがとう、総ちゃん」


 繁華街を歩きながらご機嫌の信愛だった。


「……どうせ、プレゼントのひとつ目だろ。今月は俺の財布はお前に搾り取られるな」

「そんなことないよぉ? 総ちゃんの愛が欲しいだけだよ?」

「可愛く言っても、やることは変わらん」

「えへへ。口ではそー言っても優しい総ちゃんが好き」


 そう言われて金髪男子は照れくさそうに視線を逸らす。

 信愛は他のお店に入って、いろいろと眺める。


「これとかいいなぁ。こっちも可愛いなぁ」

「髪型を毎日変えてるお前にはいくつあっても足りないか」

「このヘアピンね。ママが買ってくれたの。その色違いを見つけちゃいました」

「お前がよくつけてるやつな。花の髪留め、似合ってるぞ」


 彼女が身に着けている髪留めの中でもお気に入りの一品だ。


「色違いだけど、こっちも可愛いなぁ。ちらっ」

「……あざとい奴。はいはい、誕生日プレゼントね」

「えー、買ってくれるのぉ? ホントにぃ?」


 口元に手を当てて、信愛はわざとらしく驚いて嬉しそうに笑う。


「その代わり、明日からつけるのならそっちをつけろ」

「あら、意外とママに対抗心が?」

「そっちじゃねぇよ。ただ、買ったからにはつけてもらいたいだけだ」


 せっかく買ったのに、引き出しにしまわれるのが一番悲しい。

 モノは使ってもらってこそ、価値があると総司は思う。


「それに、お前がよくつけてるアレ、似合ってると思うからさ」

「うん。ありがと。この色も素敵だよ。明日からこれをつけます」

「そうしてくれ。ちょっと待ってろ。買ってくるから」


 レジに向かう総司に信愛は心の底から感謝する。


「総ちゃんはホントに優しいなぁ」


 信愛は自分自身でも我が侭な性格をしていると思う。

 だが、誰にでも甘えるわけではない。


「ホントのシアを見せられる、大事な人だもん」


 母親と総司だけにしか信愛は心を許せずにいる。

 それは彼女自身の心の奥底にある、子供時代の苦い記憶が遠因でもある。

 甘えたがりで、わがままを許してくれる大切な存在は貴重なのだ。


「……大好きだよ、総ちゃん」


 愛する恋人にだけは素直に甘える。

 今の関係を崩すような真似はしたくなかった。


「お待たせ。買ってきたぞ」

「ありがと。総ちゃん、大好き」

「……ん。あとは、いつものように花屋か」


 信愛は園芸部であり、綺麗な花を好んでいる。

 馴染みのお店は平日でも人気だ。

 様々な花が置かれており、お店の片隅で花を満足そうに眺める信愛に、


「私は人を笑顔にしてくれる花が大好きなの」

「園芸部にも入ってるくらいだしな。この中じゃどれが好きなんだ?」

「今の季節ならダリアかな。華麗な花、ダリアは9月の誕生花なの」

「へぇ。この花か」


 色も豊富で、プレゼントには最適の花である。

 女子の人気も高いので、この時期のお店にはよく並んでいる。


「ダリアって可愛らしくていいよねぇ。ちらっ」

「その、あざとい上目遣いはやめなさい。買ってほしいなら、素直に求めろ」

「やだなぁ。おねだりは女の子にだけ許された特権でしょ?」

「どこかの王子様のように車をおねだりするよりはマシだけど。これでいいのか?」


 総司はすぐさま店員に頼んで花束を作ってもらうように頼み込む。


「この花を包んでもらえますか? 何種類か色を混ぜてもらえます?」

「分かりました。少々お待ちください。可愛い彼女さんにプレゼントですか?」

「えぇ、この子の誕生日月なので」

「ふふっ。そうですか。ダリアの花言葉には『感謝』って言葉もあるんですよ。大切な人に送るにはとても素敵なプレゼントになります」

 

 店員は微笑みながらそういうと、慣れた手つきで花束を仕上げていく。

 その様子を眺めながら総司は「感謝か」と小さく呟く。

 そして、信愛にだけ聞こえる声で、


「花言葉、いいじゃないか。感謝。俺はお前に感謝してるぞ」

「……え?」

「可愛い恋人がいる人生ってのは満たされてる。同級生からの嫉妬されるのも優越感ともいえる。それ以上に、信愛が俺たちの関係を変えてくれたこと、感謝してるんだ」


 中学時代、彼女が勇気をもって関係を変えるために告白をした。

 幼馴染から恋人へ関係をステップアップさせたのは信愛だ。

 彼女が何も言わなければ、総司たちは未だに恋人でもなく幼馴染のままだった。

 今のように愛し合える関係に変えてくれた、それは感謝という言葉に尽きる。


「そこはさぁ、シンプルに好きだよって言ってくれたらいいんだよ?」

「……これからも、よろしく。好きだぞ、信愛」


 愛しい人に愛を囁く。

 傍にいるのが当たり前の事かもしれないが、時に感謝を言葉にするのも必要だ。

 花束を受け取った信愛は満足そうに「うんっ」と頷くのだった。



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