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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第1シリーズ:親友の妹はなぜスト子なのか?
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第2話:後輩に押し倒されてしまった、どうすればいい?

「……なぜかどら焼きをもらってしまった」


 美冬から何も言わずに、どら焼きだけを差し出された。

 それが同情か励ましの気持ちかはわからないが、八雲はありがたくもらった。


「同情されたところで心の傷が癒えるわけでもなし。百合なんて嫌いだ」


 軽く腹ごなし程度にどら焼きを食べ終わり、八雲は再び浩太の部屋に戻る。


「そろそろ、浩太の奴も戻ってくるだろう」


 廊下を歩く八雲の視線に、開いたドアが目に入る。

 

「あれ? さっき来た時は、開いてたっけ?」


 浩太の隣の部屋だと気付いたのは、ギリギリまで近づいた時だった。

 何となしにドアの中をのぞいてしまった。


「なっ!?」


 そこにいたのは、今まさに制服を脱ぎかけている少女だった。

 どちらかといえば小柄ながらも、胸元にはボリュームがある。

 ふんわりとした黒髪は長く、大きめの瞳が驚いた顔をしてこちらを見ている。

 

「あっ……」


 着替え中だったためか下着も見え隠れする。

 可愛らしいストライプのピンク色のブラ。

 下着に隠れた胸元に目を向けてしまう。


「ち、違うんだ。その、すまん。着替えを覗くつもりじゃ!」


 八雲は慌てふためく彼女に謝罪をしながら視線をそらした。


――やっちまった。


 ここで叫び声でもあげられたら人生が終わる。

 思わぬアクシデントとはいえ、犯罪行為は犯罪行為だ。

 だが、彼女は八雲の手をつかむと、


「八雲先輩」


 甘ったるい声で八雲の名を囁く。


「え?」


――何でこの子は俺の名前を知ってるんだ?


 ふとそう思った八雲は判断を遅らせた。


「先輩が私に会いに来てくれた」


 嬉しそうに少女は喜ぶ姿を見せた。

 そして、そのまま、少女は彼をベッドに突き飛ばす。


「うぉ!?」


 ベッドに放り出された無防備な八雲に、


「……先輩、先輩、先輩」


 しがみつくように抱きつくと、名前を連呼する。

 むしろ、何か興奮しているようにさえ見える。


「ま、待て。あの、その、着替えを覗いたのは悪かった。謝るから!?」


 彼女は「何を言ってるの?」と言いたそうに不思議そうな顔をする。

 ベッドに突き飛ばされた八雲の上に、半脱ぎの制服姿まま彼女はおおいかぶさった。


「謝らなくてもいいです」

「なんだと?」

「先輩が私の裸を見たいと望むのなら今すぐ脱いでも……」

「脱ぐなぁ!? なんだ、この状況は?」


 さすがに女の子相手で、簡単に押し倒される八雲ではない。

 体格さもあるので、すぐにでも起き上がれるはずだった。


――こ、この女、妙に力が強いというか……起き上がれん!?


 力づくで押さえ込んでいるのではない。

 何かしらの技か何かで、彼女に押さえ込まれてしまっていた。


「……八雲先輩、動かない方がいいですよ」

「くっ、動けん。お前、何しやがった?」

「こうみえて合気道を習ってまして。これはいわゆる暴漢に襲われたときに相手を押さえ込む技ですね。下手に抵抗して動くと、ポキッと折れてしまいますよ?」

「ちょ、超こえぇ!?」


 馬乗りになり、うっとりと恍惚の表情を浮かべる可愛らしい少女。

 合気道とは相手の力を利用するため、女でも技を使えば軽く男をひねることもできる。


――だ、誰だよ、この女ぁ!?


 見知らぬ女にベッドへ押し倒されている現状に八雲は驚きしかなかった。


「うふふっ、先輩が私の事を襲ってくれるなんて……」

「襲われてるのは、こっちの方がだ!?」

「でも、こうされるのは私の本望です。貴方になら抱かれてもいい」

「誰が好き好んで知らない女と関係を持つか!?」


 多少は女性経験がある八雲だが、こんな風に迫られて興奮できるほどの上級者でもない。

 そもそも、彼女は誰なのか。


「先輩ってば、案外、恥ずかしがり屋さんなんですね」

「どこをどう聞けばそうなる」

「……先輩は私を襲うために部屋に来たのでは?」

「違うからな!? そんなことしてないし。俺はただ、浩太の部屋に……」


 そこでようやく彼は気づいた。

 この半裸姿の少女が何者かということを。


「まさか……お前、浩太の妹か?」

「お久しぶりです。大倉和奏(おおくら わかな)です」


 可愛らしく微笑む彼女の名前を八雲は思い出した。


――そうだ、和奏……確かそんな名前の妹が浩太にはいたはずだ。


 年齢は一つ下だったので、高校に入ったくらいだろう。

 見た目は美少女と呼べるほどに可愛らしいのだが……。


「この状況で自己紹介すな。とりあえず、どいてくれ」

「嫌ですよ。せっかくつかんだチャンス。逃すつもりはありません」


 八雲の両腕をつかんで身動きできないようにされてしまっている。


――小学生の時に何度か会ったような記憶がある。


 それほど親しくもなく、顔も忘れていた。

 最後に会ったのがいつなのかすらも覚えていない。


――大倉和奏か。とんでもねぇ妹が浩太にいたものだぜ。


 女性に押し倒されて何もできない現状がとてつもなく情けない。

 かっこ悪すぎて泣きたいくらいだった。


「わ、分かった。落ち着け。話をしよう」

「この状況でもできますよ?」

「まともな話ができるか!」

「では、言葉ではなく行為をもって愛を語り合いましょう」


――全然、会話になってねぇ!?


 困惑する八雲は、何とか冷静さを取り戻そうとする。。


――これはあれか、頭がメルヘンなのか。


 つくづく、自分という男は女に対してまともな縁がない。

 自分の不運を嘆き悲しんでいると、


「お、おい……お前、何をしようとしてる」


 彼女は片手を離して、八雲のズボンに手をかけようとする。


「ちょっと待て。何しやがる?」

「女の私に言わせたいんですか?」


 気恥ずかしそうに顔を赤らめながら和奏は、


「ストレートに言いましょう。先輩と関係を持ちたいんです。ありていに言えばエッチがしたい。貴方のものにされたいんです」

「ストレートに言われても困るわ! やめろー」


 和奏に好き放題にされている。

 無駄な抵抗ではあったが、手をばたつかせていると、


「あんまり動かないでください。怪我をさせてしまうかもしれません」

「すでに痛いわ。ちくしょう」

「……無駄な抵抗をせず、欲望に忠実になってください。男の方なら性欲に負けてしまうことはよくあることでしょう?」

「こんな状況で何をしろっていうんだよ」


 楽しそうに和奏は八雲に唇を迫らせる。

 薄桃色の綺麗な唇だった。


「では最初にキスでもしましょうか?」

「……やだ」

「あら、可愛い反応。何でしょう、この胸の高鳴りは……。まるでえっちぃ漫画でよくある展開のような。最初は誰もが嫌がるんです。ですが、体に嘘はつけません」

「普通は男女が逆な展開だろ、それは!?」


 暴走する和奏は「どんなに嫌がっても身体は反応してしまうもの」と意地悪く言う。


「そのセリフはヒロインを捕まえた悪役の男のセリフだぜ」

「ふふふ、すぐに気持ちよくさせてあげますからね」

「やめてくれ!?」


 生きた心地がしないというのはこういうことなのだろうか。


「八雲先輩のこと、ずっと前から好きでした。好きで、好きで、好きで……どうしようもなく好きで、どうにかしてしまいたいくらいに」


 愛の告白が狂気に包まれている気がした。

 普通に恐怖を抱く八雲は、その歪んだ愛情を向ける瞳を見つめた。


――こいつの目、どこかで見た覚えが……?


 この顔には見覚えがあるような気がする。

 それを思い出そうとしていると、


「ふふ~ん♪」


 開けっ放しにされていた扉の向こうから鼻歌が聞こえた。

 ちょうど飲み物を買い終えた浩太が帰ってきたのだ。


――こ、浩太、助けてくれ。お前の妹に襲われているんだ!


 扉の前を通り過ぎようとする浩太がようやく八雲に気付いた。


「浩太!」


 親友が妹に押し倒されている光景を見た彼は「……」と唖然とした表情をする。

 何とも言えない顔だった。

 だが、二人を見比べて、現状を理解したのか。


「……ごゆっくりどうぞ」

「なんでだよ!? 馬鹿野郎、助けやがれ!? あー」


 しかも、浩太に部屋の扉を閉められてしまった。


――浩太の野郎、見捨てやがった!?


 目の前で微笑む少女は八雲に甘えた声で、


「先輩……たっぷりと愛し合いましょうね?」


 自らの衣服に手をかける和奏に八雲は「やめろぉ!?」と叫ぶ事しかできなかった。

 


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