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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第1シリーズ:親友の妹はなぜスト子なのか?
29/90

第28話:スト子包囲網。絶対に逃がしません!

 昼休憩になり、八雲が昼食を食べようとしていると、


『食堂のテラス側の席で待っています』


 と、和奏から連絡があった。


「一緒に食べたいってことなのか?」


 先日、昼食を一緒にしたいと言っていたのを思い出す。


「断るのもアレだし、行くか」


 ぼっち飯を満喫する趣味もない。

 彼は昼食のランチセットを頼むと指定された席をさがす。


「八雲先輩~、こっちですよ」


 手を挙げる和奏の姿を見つけると、そこには彼女だけでなく友人達も一緒にいた。

 和奏を含めた4人の少女、年下の後輩女子に囲まれる。


「なんだ、お前だけじゃないのか」

「あら、ふたりっきりがよかったんですか?」

「そういう意味じゃないよ」


 ただ、見知らぬ相手だとアウェー感があるだけだ。


「彼女らは私の友人達です」

「見ればわかる」

「いいじゃないですか、女の子に囲まれてのお食事ですよ。ぷちハーレム気分を味わえると思えば……あぁ、でも私以外に見惚れたらコロコロ決定です」

「……何もしねぇから。勝手に俺を追い込むな」


 八雲は席に座ると矢継ぎ早に女の子たちに取り囲まれる。


「先輩、このふたりは有紗と陽菜乃です。小学校からの同級生なんですよ」

「話は聞いてますよ、神原先輩。和奏ちゃんってばすごく良い子ですよ。ぜひ、恋人にしてあげてくださいよ。お料理上手だし、かなり尽くすタイプなんです」

「そうそう。和奏は懐けば一途に後ろをついていく、純情タイプなんだからぁ」


 これでもかと和奏を称賛する声多数。


「和奏ちゃんってば、同年代でも胸のサイズも大きい方だし。先輩もスタイルがいい子がいいですよね? 男の子ならばそうに決まってるでしょ」

「先輩の彼女にはぴったりだと思うんだ。ふたり、お似合いだと思うよ」

「……スト子、この子らはお前の仕込みか!?」


 いきなり、ふたりして和奏を推してくるので疑うのも無理はない。


「いえ、悩みを話しているだけで仕込みではありません。私の人望ですね」

「そうかい。友達づきあいは良いようだな」

「ふふっ。友達には恵まれています。あと、こちらの子が静流(しずる)です」


 八雲の前の席に座るのは和やかな雰囲気の美少女。

 黒髪のショートカットが似合う、お淑やかそうな子だった。


「静流は高校で同じクラスになって、仲良くなった子なんです」

「初めまして。先輩の話はよく聞いてます。和奏さんにとっての運命の相手だって。素敵ですよね。私はそういう運命とか感じたことがないので」

「ホント、静流は可愛いのに奥手だもんなぁ。もったいない」

「ずっと小中一貫の女子校育ちだったんだよね」


 彼女は小さく微笑みながら「えぇ、まぁ」と答える。


「女子校。もしかして、それって進学校の小絵女子か? 確かミッション系の小中高がある女子校だろ。それなのに高校は別にしたんだ?」

「小絵女はレベルが高いので、私ではついていくのが限界でして」

「あー、進学校って厳しいからな……って、何でお前はこっちを睨むんだよ、スト子」


 和奏は八雲に恐ろしいほどに冷たい瞳を向ける。

 正直、ホラー映画のようで怖かった。


「だって、静流にはすごく自然体に話しかけてるので。嫉妬しちゃいます」

「するな。普通に話をしてるだけだ。め、飯食べるぞ。腹減ったし」


 こんなことで恨みを買うのは御免こうむる。

 八雲の今日の昼食はラーメン定食。

 期間限定の台湾ラーメンに箸をつける。


「ものすごく真っ赤なラーメンですね?」


 八雲は真っ赤に染まる激辛ラーメンを美味そうに食べる。


「それって台湾ラーメンでしょ、神原先輩。辛いのOKな人?」

「あぁ。名古屋発祥のラーメンだよな。最近、スーパーとかでも見るようになった」

「あー、知ってる。テレビでやってたのを見たことがある」


 名古屋のご当地ラーメンで、ひき肉と赤く染まるスープが印象的な一品。

 なお、台湾ラーメンと名乗ってるのが、台湾料理ではない。

 ここ最近、ようやく知名度もあがり、全国にも広がりだしたラーメンである。


「神原先輩、やるねぇ。私の彼氏もそれに挑戦してたけど、すぐにダウンしてたよ」

「真っ赤じゃないですか。見ているだけでも辛そうですね」

「アタシ、辛いのは苦手。和奏もダメだったっけ?」


 友人たちに話をふられて和奏は慌てて否定するように、


「ぜ、全然? 辛いの大好きですよ? むしろ辛くないとダメです」


――嘘つけや。そんな顔をしてないぞ。


 あからさまに辛いのが苦手だと言う顔をしている。

 和奏は普段から、あまり弱点らしい弱点を八雲の前で見せない。

 弱みを他人に見せたがらない、それは彼女らしさとも言える。


――ふむ。こいつの弱点か。初めて知ったかもしれない。


 ふと八雲に悪戯心が芽生えるのも必然か。


「スト子、辛いのはダメか?」

「だから、そうではないと言ってるではありませんか。辛いのは大丈夫な子です」

「ふーん。だったら、このラーメン、一口食べてみる?」

「なっ!? 普段はそんな甘ったるい事を言う人ではないのに。こういう時だけ、無意味に優しくなるなんて……でも、あーんしてくれるなら頑張ります」


 エサをねだるひな鳥みたいに小さな口を開ける。

 そう、彼女は判断を見誤っていた。

 八雲ならばいつものように冗談で済むと思い込んでいたのだ。

 次の瞬間。


「……えいっ」


 八雲は遠慮容赦なく和奏の口にラーメンの汁をスプーンですくって口に入れる。


「――ッ!?」


 すぐさま「そっちかよ!?」と言いたそうな顔をするが口を押えて何も言えない。

 ラーメンの麺ならまだしも、激辛スープを口に入れられたらたまらない。

 舌に走る激痛のような辛さ、痺れるような痛覚を刺激する味だった。


「やっちゃった。アレ、食べなくても匂いだけで鼻に来るレベルなのに」

「わ、和奏ちゃん。顔色が悪いよ? 死んじゃダメ-!」

「とりあえず水を飲んでください、和奏さん。だ、大丈夫ですか?」


 あまりの辛さに悶絶する彼女は涙目で黙り込んでしまった。

 うるうると瞳を涙で潤ませて身体を震えさせる。


「……ひっくっ」


 口元を押さえこみながら八雲を見るその瞳。

 もはや性犯罪に巻き込まれた少女特有のレイプ目状態であった。


――ひどい事をしてしまった感がありありだな。さすがにやりすぎたかもしれない。


「す、すまん。そこまで苦手だとは思わず、つい……」


 素直に謝っておかないといろんな意味で反撃されそうだった。

 彼女が回復するまで、周囲の子たちから攻撃されるはめに。


「神原先輩、ひどいー。ドSプレイですか!?」

「うわぁ、優しそうな顔をして意外と女の子をイジメることに快感を覚えるタイプね」

「ダメですよー。和奏さんが可哀想なのでイジメないであげてください」


 女子から集中攻撃されるので、八雲もいづらい気分だ。


「あー、もう。悪かったって。反省しているからそう責めるな」


 台湾ラーメンをちゅるちゅるとすすりながら、攻撃を甘んじて受け続ける。

 かしましい女子たちに口で勝てるはずもないのだ。


「……八雲先輩」


 ようやくダメージから回復した和奏は水を飲みながら、


「私は先輩を侮っていました。やってくれるじゃないですか」


 ダウン寸前とばかりにフラフラの状態だ。

 辛いのが苦手であるがゆえにダメージは通常の数倍はあったようだ。


「口の中がひりひりします。なので先輩にはちゅーを求めます」

「なんでだ!?」

「……私の心を弄んだ罰ですよ。ちゅーしてください」


 周囲も盛り上げるように「キッス♪」と手拍子で煽る。


――くっ、俺だけアウェーのこの状況。仕組まれていたのはこっちか。


 八雲はようやく悟った。

 この状況は和奏の作り出した包囲網だったのだ、と――。

 

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