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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第1シリーズ:親友の妹はなぜスト子なのか?
17/90

第16話:隠された真実。まさかの展開に驚愕する

 

「……八雲先輩。これはどういう事なんでしょうね?」


 八雲は和奏に迫られていた。

 授業が終わり、家に帰ろうとした八雲は突然に和奏の急襲にあった。

 空き教室に閉じ込められて、女に迫られる状況に笑うこともできない。


――俺の人生、はずかしめを受けてばかりだぜ。


 そして前回同様に腕をつかまれて身動きできず。


――ホントに強いし。こいつの合気道スキル、何とかしてくれ。


 男でも簡単にひねる事が出来る危険なスキルだ。

 彼がこのような屈辱的な目にあわされているのには理由がある。


「確かに、前回は先輩たちの関係の改善を図るために私も協力しましたが。しかし、関係を戻すためではありません! ひどいです」


 嫉妬に身を焦がして、今にも和奏はどうにかなりそうだった。


「先輩はいまだに元恋人の彩萌先輩とは付き合いがあるのでは?」

「あんな百合女と何もあるかい」

「では、昼休憩に渡り廊下で仲睦まじそうに密会されていた件については?」


 そう、先ほどの光景を彼女に見られてしまったのである。


「私も信じたくはありませんでしたが、偶然にもその場を目撃した私の友人がいるんです。言っていませんでしたが、私は友人たちに先輩の顔写真を公開して、先輩を見かけたら些細なことでも情報提供してもらうようにお願いしています」

「お前の無駄に細かい情報源はそれかよ」

「先輩が私の愛情を裏切るような真似をなされるとは思いませんが。万が一にでも、そんな真似をされるというのであれば、いかなる手段も取りましょう」


――そうだった、スト子はヤンデレ気質だったんだ。


 嫌な汗をかきながら八雲は何とかしようと模索する。

 

「お、落ち着け、スト子」

「スト子?」

「いや、和奏。落ち着いて話そう。まずは、俺から離れてくれ」


 話をするために手を放してもらうように説得する。

 彼女はしょうがないと、八雲を自由の身にするが逃がさないとばかりに、


「先に言っておきますが、逃げても無駄ですよ? ここは外側からしか鍵がかけられません。私の友人に頼んで、教室に閉じ込めてもらっているんです」

「自分も閉じ込められてるじゃないか!? しかも、友達が外にいるのか?」

「完全な密室です。私も逃げられず、先輩も逃げられず。とはいえ、友人を待たせるつもりもないので持久戦は取らないでください」

「さっさと友人を返してやってくれ。無駄な放課後を過ごさせるな」

「それならば、真実を簡潔に述べてくださいね?」


 和奏にそう満面の笑顔で言われると、何とも気まずい八雲である。


――女の笑顔って時に恐ろしい。


 乗り切るためには嘘をつかず、真実のみを述べなければいけない。


「彩萌とは偶然に会って話をしてただけだ」

「主に何のお話を?」

「それは……」


 まさかスト子の体験談を聞いていたとは言えず。

 八雲が言いよどんでいると、和奏は笑顔を崩さずに、


「お答えください。ねぇ、先輩?」


 艶っぽい唇を八雲の耳元に近づけて、


「――私、今日は危ない日なんですよぉ?」


 甘ったるい女の香りをさせながら、彼女はそう囁いた。

 ドキッと八雲は心臓が凍りそうな気がした。


――き、危険ってどういう意味で? もちろん、あっちの意味でだろうか。


 脳裏によぎるのは昼休憩に聞いた彩萌の兄の話だ。

 スト子につきまとわれたあげく、人生まで捕まえられた哀れな男。


――ここでの対処を間違えれば、俺は確実に彩萌のお兄さんと同じ目に。


 既成事実を作られて追い込み漁をされるのは非常にマズイ。

 身体が意味もなく震えるのに気づく。


「や、やべぇ、こいつ。ガチで既成事実を作ろうと企んでやがる」

「……今日、押し倒されてしまうときっと可愛い赤ちゃんが私に宿る事でしょうね」

「くっ、来るなぁ」

「私は先輩の事が好きですから、どんな未来でも受け入れるつもりですよ。先輩と結ばれた結果、赤ちゃんができしてまい、その結果“学校中退”などになっても後悔はありません。私の愛は本物ですよ、ふふふ」


 和奏に強引に迫られて八雲は背中に冷や汗をかく。

 今日の彼女はまるで狩りをするオオカミだ。

 逃げようとする相手を自分の狩猟場に追い込んで確実に狩ろうとしている。


――だ、誰か、助けてくれー。


 彼女を怒らせると、どうしようもないバッドエンドが待っていそうだった。


――これ以上はまずい。本気でまずい。


 これまでの経験で和奏には無駄に行動力があるのは思い知っていた。

 彼女は八雲のためならば、自分の身体を差し出すことも平気でするだろう。

 既成事実ですら武器に八雲を完全支配するのもいとわない。


――考えろ、神原八雲。人生の大ピンチになる前に、何か策を……。


 必死に考えて、逃げ道を探そうとする。

 

「彩萌にはお前の事を話していた」

「えっ。私との将来のことについて、とかですか? ドキドキ」

「全然違うし。何で彩萌に相談するんだ。女の子が楽しめるデートについての話だ」

「はい?」

「お前とのデートをどこに行くのか悩んでいて、相談していました」


 口から出まかせではあるが、完全な嘘というわけでもない。


「……ホントですかぁ?」

「ホントだって。そもそも、今のアイツは完全に百合モードだ。元恋人だからって、俺に今さら振り向くかよ。こんな悲しい現実を俺に言わせるな」


 心の傷を広げるだけで悲しくなる。

 現実とは世知辛く、冷たいものである。


「なるほど。彩萌先輩は現在、那智(なち)先輩と交際していますし、今さら先輩に振り向く可能性はない、と……それは言えているかもです」

「な、那智!? え? マジで?」

「あら、八雲先輩は誰と付き合ってたのか知らなかったんですかぁ?」


 ネトラレた相手の名前など聞きたくもない情報なので耳に入れないようにしたのだ。


「那智かよ。マジかぁ。中学の同級生じゃねぇか」


 一見すれば、お嬢様風な容姿をしているプライドの高い女子である。

 それほど深い付き合いがあったわけではないが、正体を知りショックを受ける。


「八雲先輩と彩萌先輩の関係を壊した魔性の女ですね」

「はっ、那智はガチであっち方面なやつだったとは。あれ?」

「どうかしましたか?」

「……那智って中学の時、浩太と付き合ってなかったか?」


 その発言に「え?」と素で和奏も驚きを隠さない。

 完全な情報不足。

 兄の恋人など知らないし、知ろうと思ったこともないのだ。


「そうだ、思い出した。あの頃、浩太の野郎は二股をしていてな。それがふたりにバレて揉めに揉めたって修羅場体験の話をしていたような」

「最低ですね、兄。まぁ、あの人の場合はやりそうですが。つまり、男に裏切られた那智先輩はショックのあまり、男を見限り女子に走ったと?」

「それでもって、変な方向に目覚めた那智は彩萌に手を付けやがったわけだ。ちくしょう、俺がとばっちりくらってるじゃないか。なんてやつだ」


 真実とは時にあまりにも残酷で非情なのだ。

 この件に関しての全ての原因は、過去の浩太の浮気が原因であると結論付けられた。

 微妙すぎる空気が教室内に流れる。

 自分の兄の不祥事が遠因で、八雲の恋愛を邪魔したと知った和奏は、


「……不誠実な兄が申し訳ない事をしたようです。まさかそれが遠因になるなんて」

「妹のお前が謝る事じゃないさ。ただし、浩太の奴はあとでぶん殴ることにしよう」

「ご自由に。過去とはいえ、徹底的に成敗してあげてくださいまし。ですが、世の中って狭いものですね。人って面白い繋がりをしているものです」

「人と人の繋がり、縁は異なもの味なものとはよく言ったものだ」


 どこで誰が繋がりあっているのか分からないものである。

 何とも言えないバツの悪さを感じた和奏は冷静さを取り戻して、


「すみません。今日は先輩を解放します」

「……おぅ。そうしてくれ」


 彼女はすぐさま、扉をノックして外にいる友人に合図をした。

 外で待っていた友人に礼を言って鍵を返してきてもらう。


――今の和奏は友人には恵まれているらしい。


 過去のトラウマで人付き合いな苦手というわけではなさそうだ。

 無事に空き教室から脱出できた八雲は、


「この解放感は誘拐犯に捕まっていた人質の解放感そのものだな」

「あ、あの、兄の件については……」

「もういい。この話はしないでくれ。終わったことだし、俺も聞きたくないことだ」

「はい、すみませんでした」


 しょぼんっと肩を落として元気をなくす。


――スト子が落ち込むこともあるんだな?


 意外な光景に、八雲は逆に気にかけてしまう。

 どうにもそういう顔をされると弱い。

 自分の甘さだな、と思いつつも放っておけず。

 

「そんな顔をするな」

「先輩……なら、頭を撫でてください」

「厚かましいにもほどがあるぞ。たった今まで拘束してたくせに」

「いいじゃないですか。朝してもらったのが気持ちよかったんです」


 仕方なしに和奏の髪を撫でてやると子猫のように甘えてくる。


「先輩の優しさはつけ込む隙がありすぎですね。うふふ」


 髪とは性感帯でもあり、撫でられると安心感や心地よさを感じられる。

 それは逆に撫でている方も、相手に優しくしていると実感できるものだ。


――まったく、俺は甘いな。こいつが可愛いからと甘えさせるとは……。


 八雲は和奏の一途な愛の重さにうんざりすることもある。

 だが、それに勝るほどに、可愛らしいと思う瞬間もあるのである――。


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