出会い。
二階には部屋が三つあるみたいだ。トイレをいれると四つだけど。階段を上り終えた僕は部屋を見回した。右は母さん、左には僕の部屋がある。それぞれのベッドがあるから多分そうだ。真正面の部屋は何の部屋にするんだろう。家には父さんはいないからな。父さんのことを考えても仕方がないってわかってるのに、考えてしまう僕はまだまだ子供なんだろうな。
「母さん、この荷物なに? 」
どこに運ぶ荷物かと、僕は一階にいる母さんに尋ねる。母さんの声は聞こえない。代わりに荷物のガサガサという音が聞こえる。整理に夢中なんだ。
「開けるよ」
聞こえていないとは思うけど一応そう叫んでおく。段ボールに張り付いているガムテープをはがしていく。段ボールが破れないように慎重にはがすほど僕は几帳面ではない。所々段ボールが破れてしまったが気にしないようにしよう。どうせ、明日のごみ収集の日に出すだろうし。段ボールを全部開けなくても中身はわかった。僕の高校の教科書だ。教科書の表紙は日に当たって光っている。もともと僕は勉強が得意じゃない。高校もぎりぎりで試験に受かった。いや、問題がラッキーだったんだ。猛勉強したところがそのまんま出たから。中学の担任からは諦めも肝心だとよく言って聞かされた。でも、離婚ということもあって母さんに迷惑はかけたくなかった。合格発表の日、母さんは一緒に喜んでくれた。僕以上に喜んでくれたかも。母さんの人の喜びを自分の喜びにしてくれるところが僕は大好きだ。少々子供っぽいところは目をつぶっているけれど。
「ええっと、僕の部屋はこっちだよな……」
再び重い荷物、僕の教科書たちを持ち上げる。中身が教科書だと知ったからだろうか。さっきよりも重く感じるのは僕の勉強に対する思いも含まれているからなのかな。
僕の部屋も他の部屋と変わらない真っ白な壁だった。まあ、シンプルイズベストということで。母さんの口癖が僕に移ってしまったみたいだ。部屋に入って右側にベッドがあり、その横に大きな窓があった。朝日で良い目覚めができそうだ、朝の苦手な僕は思った。頬が引きつるのは気のせいではない。
「ん? なんだこれ? 」
ベッドの向かい側の壁に鏡が立てかけてある。僕の身長が百六十センチだから、それより少し高いこの鏡は百七十センチくらいかな。やや痩せ形の僕がちょうど収まる幅だ。鏡の真正面に立つ。なんだろう、この鏡。確かに年頃だとはしても、この鏡はさすがに。女子みたいだ。鏡に映る僕は迷惑そうな、気恥ずかしそうな笑みを浮かべている。まあ、この歳になっても女の子と間違えれる僕だけど。高校では彼女とかも作りたいな、なんて思ったり思わなかったり。
「えっ!? 」
鏡には僕と僕のベッドに腰かけている誰か。真っ白なワンピースを着た女の子。波打った黒髪を高い位置で一つにしている。疲れてるのかもしれない。瞬きをする。目をこする。深呼吸をする。それでも僕の視界に入ってくる鏡の中の少女は鏡の中の僕に微笑んでいる。
「うっ、うわああ! 」




