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プロローグ

 笑っていなきゃ。 

 高校に入学すると同時に僕は引っ越した。僕が物心が付いたときから喧嘩が絶えなかった父さんと母さん。多分、それが原因だとは思うけど。高校生の僕には「離婚」というものがどういうものか、よくわからないかった。それでも、母さんが何でもない顔をしているのことが僕にはすごく辛く感じる。

 真っ白な壁に真っ赤な屋根。子供が描くような単純な色使いのこの家に引っ越してきた。周辺の家と比べると、この家だけが妙に際立っている。この違和感はこの家の色使いのせいだろう。

「母さん、大丈夫? 」

見るからに真新しいそうな家に金銭的な不安を感じた僕は母さんの顔を覗き込む。母子家庭となって、金銭的に余裕のないことは僕にもわかる。僕より十センチくらい背の小さい母さんの顔を覗き込むために膝を曲げる。

「大丈夫よ。(しょう)

そこには、いつもの優しい笑顔があった。その笑顔に思わず肩をすくむ。

「だって、この家、なんでか知らないけど安く貸し出してるから。」

母さんは可愛らしく舌をペロっと出して言った。僕の不安に気づいたのか、それをかき消すように大股で玄関までの階段を上る。小柄な母さんは大きな引っ越しの荷物を引きずるように持ち上げている。

「そう……」

僕は遅れて母さんの言葉に返事をしてから、小さな背中を追う。ふと横目に、黒い表札が見えた。「(おおとり)」。母さんの旧姓を遠くで思い出した。

 玄関の扉を開けると、僕の感じた違和感はますます強くなった。ほんのすぐ前まで誰かがこの家に住んでいたように感じる。いや、まだ誰かが住んでいる。僕は無意識のうちにそう思った。

「母さん」

多分、リビングにするつもりであろうその部屋で荷物を広げ始めた母さんに呼びかける。

「なあに? 」

荷物をどこに片付けるかと、部屋中を大きな目で見まわしながら母さんが答えた。その目じりに見える皺を見ていると、母さんの悲しみが伝わってきそうで思わず目を逸らす。

「この家、前まで誰か住んでた? 」

 玄関に置いてあった大型の荷物を引っ張りながら尋ねる。

「当たり前じゃない。ここは新築じゃあないんだから」

いきなり間近に聞こえた母さんの声。はっと横に顔を向けると呆れたような顔で立っている母さんがいた。

「やめてよ。びっくりするじゃん」

と言った僕に、母さんはぴしゃりと言い放った。もう、意味わかんないこと言ってないで、そこの荷物を上に運んでよ。母さんは荷物を指さしてから、その指を二階にへと向けた。その指につられて僕も二階を向く。

「はい、はい。」

面倒くさいなと伝えるように呟いてから、荷物を持ち上げる。それは、予想以上に重くって、母さんはこれを持っていたのかと思うとなんだか、申し訳ない気持ちになる。

「滑らないようにね」

母さんの注意に相変わらず曖昧な返事を返してから、新築同様のぴかぴかの階段を上っていく。

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