頼り過ぎは……。
最近、私の通うジムに外国の方が入会しました。ノックさん(仮名です)というアメリカ人ですが、日本語を半分くらいしか知りません。そして私は……英語を二十ワードくらいしか知りません。仕方ないので、日本語でなんとか会話してます。某兄弟漫才コンビのお兄さんは、外国人と日本語でコミュニケーションがとれるらしいですが、本当にうらやましいですね。私などは英語でまくし立てられると、「ああ、そうですね……」などと適当に返してます。
さて、このノックさんという方ですが……身長は百九十五センチ、体重は百二十キロ近くあるそうです。大柄な肉厚の体をしており、三時のおやつにハンバーガーを五個くらい平らげそうな雰囲気を醸し出している方です。
そんな彼とスパーリングして感じるのは、やっぱり欧米人は強い……ということですね。まず、手足が長い! 体型が日本人と違うので、かなり勝手の違う闘いになりますね。さらに、力が強いです。体の大きさを活かしたパワーは本当に厄介ですね。彼らとぶつかると、日本人は不利だな……と改めて思います。
さて、私はこのエッセイで力の重要性をずっと書き続けてきました。もちろん、その考えは今も変わりません。格闘において力は絶対に必要ですし、また極めて重要な要素です。そうでなかったら、誰が好き好んで筋肉増強剤に手を出すでしょうか? もし特定の流派の体術を学べば、体格差関係なく相手をぶっ飛ばせるのであるなら……後々の人生をボロボロにしてしまうかもしれない副作用が心配される筋肉増強剤をやる必要はないでしょうね。ただ筋肉増強剤については諸説ありまして……実は、使い続けても大丈夫だという意見の人もいるのです。これは難しい問題ですので、ここではこれ以上触れません。
話を戻します。力は大事です。しかし、力のみに頼ってしまう……これもまた間違いです。
ウエイトトレーニングを続けていけば、筋肉は大きく、筋力は強くなります。そうすれば、巷の者と闘ってもまず負けなくなるでしょう。また、筋肉を大きくすれば、必然的にケンカを売られにくくなります。闘わずして勝つ……というのが護身の理想ですが、その理想に近づくことが可能です。
しかし、それではノックさんには勝てません。どんなに日本人が筋肉を鍛えようとも、サイズの差は歴然としています。いくら私が鍛えようと、百九十五センチで百二十キロ近くのノックさんには力負けしてしまいます。そこで問われるのが、技術、スピード、スタミナ、創意工夫などなど……そういった要素を強化していけば、力の差や体格差を克服することは充分可能です。実際、打撃はキツいですが寝技ならなんとかできます。
そして、ノックさんと手合わせして改めて気づいたこと、それは……今までの自分が力に頼り過ぎていたな、ということでした。私の通うジムには六十キロ台から七十キロ台の人が大半を占めています。したがって、八十五キロの私は打撃も寝技も体格で押せたわけです。しかし、ノックさん相手にはそうもいきません。必然的に、技術で勝負せざるを得なくなります。改めて、技術の重要性を気づかされましたね……。
まあ、弱い人間をボコボコにして俺TUEEEE! 状態を楽しみたいだけだったら、私もただひたすらウエイトトレーニングやって力ずくで小さい人を圧倒していればいいのですが……もう一度試合に出るとなると、ノックさんのような人との練習は必須になるでしょうね。力の差を技術でカバーする闘い方を学ぶためにも……そんなわけで私は、入会してくれたノックさんに感謝してます。
最後に念のため書いておきますが、それでも力は必要です。前にも登場した早田さんは体重が七十キロ近くですが、格闘技のキャリアは二十年を超えます。そんな方でさえ、百キロを超える人と本気で闘ったら、まず勝てないと言っています。寝技のみの勝負ならともかく、打撃もありとなると……早田さん曰く「体格差をはねのけるには、最低八十キロは欲しいな」とのことです。もちろん、鍛え抜かれた八十キロですが。別の方は、体格差をはねのけるには最低七十キロは必要と言っていました。七十キロといっても、鍛え抜かれ、そして余分な脂肪を落とした七十キロです。いずれにせよ、最低限の力がないと、どんな優れた技も活かすことができないのは確かです。




