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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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格闘家という人種の特殊な性質

 これは、だいぶ前の話です。

 その日、私はグラップリング(組み技のみしか使わない競技)の試合に出ていました。

 試合中、私は軽く左手を前に突き出しました。この行為には、いろいろな意味があるのですが……その説明は、また別の機会に譲ります。

 その突き出した左手が、相手の顔面に当たりました。それくらいなら、よくある話ではあるのですが……相手は目をつぶり、顔をしかめたのです。

 私は、自分の指が相手の目に当たる……いわゆる「目突き」のような状態になってしまったのかと思いました。で

私は思わず動きを止め──


「大丈夫ですか!?」


 と対戦相手に声をかけていたのです。相手は「大丈夫、大丈夫」とジェスチャーを返してきました。私は「すみませんでした」と頭を下げ、試合は再開しました。ちなみに、この時レフェリーは何も言っていません。「止め」の合図をしたわけではなく、両者が自主的に試合を止めたのです。

 試合の結果はというと、一進一退の攻防の末、私は判定負けしました。この試合、実はトーナメントの決勝であり、ここで勝てれば優勝だったのですが……相手の方が私より上手かったですね。


 それから少しして、この試合を観ていたプロ格闘家と話をしたのですが……彼は、私にこう言いました。


「赤井さん、あの試合は勝ててたよ。相手が目つぶった瞬間にタックルくらわせば、倒せてたよ。そうすりゃ、一本勝ちも狙えたのに」


「いや、でも目に指が入ったのかと思ったんで……反則にならないですか?」


「アクシデントで軽く入ったなら、反則は取られないよ。本当にヤバかったら、相手の方からアピールしてくるから。アレはもったいなかったよ。あの瞬間にタックルいったら勝ててたから。ああいう隙を逃してたら、試合には勝てないよ」


 言われた私は「なるほどな」と思いました。プロとアマチュアとの、決定的な差を知らされましたね。




 プロの格闘家は、当然ながら試合に勝たなくてはなりません。

 しかし、相手もプロです。試合に勝つためハードな練習をし、体を仕上げています。街のチンピラとは違うのです。

 そんな相手に勝つためには、甘いことは言っていられません。殴らなければ、こっちが殴られます。倒せるチャンスを逃せば、こっちが倒されるのです。

 プロの格闘家となる条件のひとつが「試合では非情になれる」ことだと思います。相手の体など、気にしていられません。したがって、相手の顔面を躊躇なく殴れます。さらには、相手に馬乗りになり拳を振り下ろすことも出来ます。

 そこで情をかけ拳を振り下ろさねば、相手が馬乗り体勢から脱出するかもしれません。

 そうなると、今度は自分が攻撃されるのです。相手は一切の容赦なく、殴り蹴り関節技をかけてきます。その相手の技により、こちらが一生残る怪我を負わされるかも知れません。

 だからこそ、試合を終わらせるため渾身の力を込めて殴るのです。

 たまに総合格闘技で、馬乗りからのパンチにより勝敗が決しゴングが鳴っているにもかかわらず、殴るのを止めずレフェリーが体で割って入り制止させることがあります。「うわ、なんだコイツ」と思われるかも知れませんが、試合中に周りの声やゴングの音などが聞こえなくなってしまうタイプの選手がいるのですよ。

 これが興奮のためか、あるいは集中しすぎているためかはわかりませんが、凶暴さゆえに攻撃を止めないわけではない……ということは、知っていただきたいですね。


 前にも書きましたが、関節技はガッチリ極まれば一瞬で体を壊せます。ブラジリアン柔術やサンボのような格闘技をある程度学んできた人は、相手の腕や足を折ることが出来ます。

 もっとも、大半の人は壊すことが出来ません。無論、知識として壊し方は知っています。しかし、それを実行できるかは別問題です。私も、関節技で相手の腕や足を折ることは出来ます。が、やったことはありません。また、したくもありません。

 プロ格闘家は、試合となれば躊躇なく相手の腕や足を折れます。チャンスがあるのに折れなければ、相手に逃げられ反撃される可能性があるからです。チャンスがあれば、きっちりと関節技を極める。相手が降参しなければ、躊躇なく折る。それが出来なくては、プロとして勝ち抜いていけません。




 ここまで読んでいただきましたが……プロの格闘家というのは、特殊な価値観を持っている人たちだということはわかっていただけたかと思います。これは、プロに限りません。格闘技や武術をする人間に大なり小なり共通する部分でしょうね。

 だからといって、その価値観をSNSなどで大っぴらに吹聴するのは……さすがに擁護できません。

 ジムや道場の仲間との飲み会などで「昔さ、試合中に審判の声が聞こえなくて、止めの合図があったのに顔面に蹴り入れた」とか「あいつの腕を折ってやったよ」というような話は聞きます。

 これも、個人的にはウーンと思うところはあります。ただ、これはまだ仲間内での話だから許される部分はあります。

 しかしSNSなどで、プロ選手や武術家たちが笑い話として語るのは、さすがにマズいでしょう。世間一般の方々から「あいつら、頭おかしいんじゃねえか」と思われても仕方ありません。

 ただでさえ、フルコンタクト空手やキックボクシング、総合格闘技といった競技は一般人には引かれがちです。さらに評判を下げるような言動を、SNSに投稿するのは……どうかと思いますね。


 最後に、相手を後ろから攻撃するのは非常に危険です。「見えないパンチは数倍効く」というのは格闘技の常識ですが、後ろからの攻撃はさらに効き目があります。場合によっては、死に繋がることもあります。

 特に後頭部への打撃は、恐ろしい結果をもたらします。ほとんどの格闘技で、危険すぎて禁止技となっております。実際、ボクシングで後頭部を殴られ、脳に生涯癒えることのない障害を負ってしまったケースもあります。絶対にやめてください。

 

 




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― 新着の感想 ―
言いたい事は理解出来るし、時と場合はどうであれ、どんな業界でも非情になるのは必要だと思う。だけど、身体中に刺青を入れた人間が指導者は嫌ですね。私、刺青って生理的に嫌なんですよね……それだけ信用出来ませ…
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