決して真似しないでください
今回もまた、前回の続きのような内容です。ただし、今回はとても大事なことを書きましたので、是非とも読んでいただきたいです。本当に、こういうのだけはやめていただきたいんですよ……。
実は、前回に登場した作品に私は感想を書きました。とは言っても、あくまでもソフトに「ブラジリアン柔術の経験のない主人公が、デカイ奴を三角絞めでいとも簡単に絞め落とす……いい勉強になりました」という皮肉まじりのものです。実際、いい勉強になりましたから。
すると、返信が来ました。自分は柔道二段であり、あの描写は自身の経験に基づいたものだ……という内容でした。そして最後に、こんな一言で閉められていました。
「ブラジリアン柔術やってなくても、三角絞めやヒールホールドくらいみんなやってますよ」
私は、この言葉を見た瞬間に絶句してしまいました……こういう人もいるんですね。
説明しますと、ヒールホールドとは足にかける関節技です。相手のかかとを脇に挟み捻り上げ、膝を破壊する技です。破壊する、と書きましたが……これは、決して大げさではありません。
上手い人なら、一瞬で膝の靭帯を破壊できます。状況によっては、かけられたことすら理解していないうちに膝を壊されてしまうこともあるのです。
このヒールホールドという技は、ほとんどのアマチュアの試合で禁止されております。ブラジリアン柔術でも、確か黒帯以上の試合でなければ用いてはいけないはずなんですよ。
それは何故かといえば、簡単に膝を壊せる危険な技だからです。膝を壊したら、完治するにはかなりの時間を要します。時には数年がかりの治療が必要なこともあります。
また、膝の状態によっては完治しないこともあります。下手をすると、その後の人生をずっと杖や補助具の世話になりながら生きなくてはならない可能性もあるんですよ。当然ながら、その場合は選手生命を絶たれます。格闘技を続けることなど出来ません。
またアマチュアの試合では、出場にあたって誓約書を書かされます。「この試合でいかなる状態になろうとも、主催者ならびに関係者を訴えたりはしません」といった内容のものです。どんな怪我をしようが、全ては自己責任ですよ……ということなんですよ。
そんな誓約書を書かなければ参加できないような試合ですら、ヒールホールドは禁止となっていたのです。ヒールホールドがいかに危険な技であるか、理解していただけたでしょう。
私もヒールホールドは習いましたが、使ったことはありません。そもそも、私の師匠は「ヒールホールドはスパーリングでは使わないでね。両方の合意がある時だけ使って」と、会員に言っております。
ちなみに昔、私と師匠がスパーリングをした時のことです。もつれ合った状態で、師匠がポンポンと叩いてきました。何かトラブルかと思い、私が手を止めると「赤井さん、今ヒールホールド入ったから」と言われました。
要するに、もつれ合った状態で師匠は私にヒールホールドを極めたのですが、最後の一捻りを加えると私の膝が壊れてしまう……そのため、途中で手を止めてくれたのです。もし、その加減を知らない者が相手だったら、私は膝を壊されていたかもしれません。
ここまで読んでいただいて少しは理解していただけたかと思いますが、ヒールホールドは非常に危険な技なんですよ。それこそ、一生残るような傷害を負わせてしまうかもしれないくらいに。ある程度、寝技の経験のある人なら誰もが知っているはずです。
そんなヒールホールドを「みんなやってますよ」などと軽い口調で語っている時点で、この作者さんの技量がどの程度のものか分かった気がします。まあ、それ以前に柔道に足への関節技はないはずなんですよ。それゆえ、この作者さんがどうやってヒールホールドを練習しているのかは不明ですが……恐らくは、プロレスごっこのようなノリで練習しているのでしょう。あるいは、ネットなどから得た知識のみで語っているのかもしれませんが。
ただし言っておきますが、ヒールホールドをプロレスごっこの技と同レベルに扱われると困るんですよ。ヒールホールドは、非常に危険な技です。正式なジムや道場で、ちゃんとしたトレーナーに指導を受けてから試してください。
プロレスごっこのノリで試したら、相手に怪我を負わせるかもしれないんですよ。下手をすれば、一生ものの傷を負わせる可能性もあります。相手を障害者にしてしまうかもしれないんですよ……絶対に、真似しないでください。
またヒールホールドに限らず、足への関節技は危険です。ヒールホールドほどではないにしろ、アキレス腱固めや膝十字といった関節技で足を故障してしまったら、治るのに非常に時間がかかります。さらに、足を痛めれば日常生活にも支障が出ます。これまた、遊び半分では試さないでください。
最後になりますが、プロの総合格闘技はほとんどがヒールホールドOKのルールでやっています。
ですが、これはディフェンスの方法をきちんと学んでいるから出来ることです。動画などでは、いとも簡単にかけたり、また防いでいるように見えるかもしれません。しかし当の本人たちは、巧みに足をずらしたり体を回転させたりして、極められないようにディフェンスしているんですよ。これは、動画などで見ただけでは絶対に分からない部分です。
さらに言うと、選手たちは怪我をする覚悟も決めた上で試合に挑んでいます。下手をすれば、一生歩けなくなるかもしれない覚悟で闘っているのです。そのことを理解した上で、試合を観てください。動画などを観た印象だけで、判断しないでもらいたいんですよ。
本当に、ヒールホールドをテレビの護身術などに出て来る関節技と同レベルで考えないでいただきたいですね。本物のヒールホールドは、相手に「いててて」などと言う暇を与えません。ディフェンスの仕方を知らない人が相手なら、一瞬で膝を破壊させられるんですよ……相手が痛みを感じる前に膝を破壊できる、それが本物のヒールホールドです。
プロレスごっこの延長で技をかけあうレベルで「ヒールホールドくらい、みんなやってますよ」などと言わないで欲しかったですね。まあ、件の作者さんが本物の経験者であるかどうか……また、どの程度のレベルであるかは、これを読んでいる皆さんの判断に委ねます。
さらにおまけで付け加えますと、ヒールホールドに限らず足への関節技というのは……技をかける側も寝ることになります。したがって、相手が足への関節技を狙ってきたと判断したら、自分は素早く立ち上がり、上から潰しにいく……それが、一番簡単な対処法かと思います。もっとも慣れは必要ですし、上手い人なら一瞬で極められるので無理ですが。