二口女の中学生だけど、不便すぎて凹む
中学2年の麗美は朝母親に髪を縛ってもらいながらため息をついた。
「ショートにしたい…」
呟いた言葉に2つ上の姉の優美が大笑いした。優美はショートカットだ。
「またバカ言って。」
麗美は優美を睨んだ。
「お姉ちゃんには分かんないわよ。」
麗美はもう一度ため息をついた。父親はチラリと2人を見て言った。
「遅刻するぞ。早くしなさい。」
麗美の髪は美しく結い上げられていた。母親が笑った。
「言ってもしょうがないけど、その気持ちわかる〜。お母さんも茶髪ショートとかしてみたかったし。」
気楽そうに言う母親を麗美は軽く睨んで、カフェオレでパンを流し込むと、時計を見た。
「ヤバ。遅刻する。」
優美も時計を見て慌ててカフェオレを一気飲みして席を立った。
夕方、傾いた日が差し込むリビングで、麗美はビーズクッションに沈みながら漫画を読んでいた。
優美がポテチの袋を片手に麗美の傍に座った。
「これ、使わないからあげる。」
優美の手には青いシュシュが握られていた。麗美は受け取りながら言った。視線は優美の髪に向いた。
「いいなぁ…」
優美は軽く笑った。
「アンタだってレアでいいじゃん。二口女なんて絶滅危惧種。」
麗美がじっとりした目で優美を見た。
「どこがいいのよ。」
優美はちょっと考えた。
「電話しながらご飯食べれるとこ?」
「ま、そこは便利。」
麗美が優美の頭の後ろにポテチを近づけると麗美の長い髪が開いて大きな口が現れた。
優美はその口にポテチを数枚入れた。口が閉じてバリバリとポテチが砕ける音がする。
「あとはでかい口で一気食べが出来る。ステーキだってひとくちじゃん。」
麗美が優美を睨んだ。
「それ、意味ある?髪の毛にソースつくしさ、美味しいものって味わって食べたくない?」
優美が考えた。
「いっぱい食べれる、とか?」
麗美がため息をついた。
「太るんですけど…」
優美がポンと手を打った。
「口内炎の時に便利。後ろの口って口内炎ならないでしょ。」
麗美が漫画を閉じた。
「人生で食べられないほど重症の口内炎を経験することってあんまないと思うけど…」
優美が笑った。
「溶連菌で喉が痛くても食べられるじゃん。」
「お姉ちゃんは体調不良の時に食べたい?」
麗美がビーズクッションの上で猫のようにうーんと伸びをした。
「私ってなんて不幸なんだろ。後ろの口ってしょっちゅう髪の毛一緒に食べちゃうし、そもそも食べにくいじゃん。おにぎりとかサンドイッチくらいしかムリだよ。」
麗美はごろっと横になり、後ろの口を大きく開いた。優美は笑いながらポテチを放り込んでやった。
「歯磨きだって難しいしさ…。」
「お母さんにまだ磨いてもらってるもんね。」
「サイダー欲しい。」
「はいはい。」
優美は笑って台所からサイダーを取ってきてやった。麗美はビーズクッションに顔を埋めて後ろの口を大きく開けていた。
優美は麗美の口にとくとくとサイダーを注いでやった。麗美は口を閉じるとゴクンと飲んでげぷっと息を吐いた。
「現代妖怪は辛いよね…」
くぐもった声が聞こえた。優美は残ったサイダーのペットボトルに口をつけた。
「そこはね…同情する。」
優美はサイダーを一口飲んだ。
「けど、人間とあんま変わんない二口女で良かったじゃん。お母さんだって人間と結婚してるし。
ろくろ首と二口女は勝ちだと思うよ。河童とか傘おばけなんてつらいっしょ。」
麗美はごろりと上を向いて少し笑った。
「言えてる…」
麗美はニヤリと笑った。
「人間は知らないもんね…どれだけ二口女やろくろ首が人間の中で暮らしてるか…」
優美が笑った。
「意外と多いっしょ。実際うちに2人もいるんだしさ。」




