第6話 罪の意識
ブクマしてくださった方、ありがとうございます!!
気づいた瞬間、小躍りしました!
ブクマされても作者の方には通知がいかないのですね。
初めて知りました。
これからも更新を頑張ります!
意識が……ここは、なんだ……
視界が掠れている。目の前にいるのは……ゼロだ。
体を動かそうとすると、鎖が擦れる音が聞こえた。そうか。俺は体を縛られているのか。
「起きたか。ここは、私の精神世界だ」
「精神世界……」
周りを見回す。木の床、壁は赤のステンドグラス。ドアも窓もない。
「君の過去を見た。強い後悔と……激しい憤怒に呑まれた人生だ」
ゼロが背を向けて歩き出す。あれは、天秤か。ゼロは巨大な天秤の前に行った。右側の皿には四角い茶色の岩が乗っている。左側の皿には赤い涙の雫の形をした何かが乗っており、皿は傾いていた。
「これは君の、負の感情の結晶だ」
ゼロは赤い雫をつまんでいる。手のひらくらいの大きさだ。
「君の負の感情が伝わってくる。」
ゼロは俺の方へ歩いてきた。
「君は邪神様を憎むことで、自分の罪から目を背けているのだろう?」
「っ……」
何も言えなかった。反論しようとした口からは、何も出てこなかった。
「同時に、そんな自分に対して怒りを感じている」
「君は不安定で危うい……」
ゼロは俺から視線を外さない。目を逸らそうとした。だが、ゼロは俺の顎を掴んだ。強引に引き寄せられた。冷たい眼差しに、責められている気がした。
「罪の意識からは逃れられない。負の感情を消さない限りは」
「俺は……」
ゼロの手が俺の頬をなぞる。首元を滑っていき、胸元に軽く触れられた。
そして――
ゼロは俺の心臓を抉り出した。
俺の口から血の塊が出た。血の塊は床へ落ちて、円を描くように広がっていく。体が横にふらりと倒れる。
「罪は消えない。だが、苦しみからは解放される」
ゼロは俺の耳元で囁く。
「君は逃げてもいいんだ」
この苦しみから逃れられるのか。俺は逃げても良いのか。
本当に?
それで本当に良いのか。逃げて、レオンへの後悔を忘れて、それで俺は満足なのか。
ずっと苦しかった。逃げたかった。
だが、
俺はこの苦しみも含めて、レオンとの記憶を守りたい。
ゼロが俺の心臓を、本の中へ入れようとしている。
使うしかない。今、ここで……俺は使う。
ゆっくりと立ち上がる。風が吹く。強い風が、俺の殺意が、この空間を支配する。
「なんだ……まさかっ」
眼帯がめくれた。俺の右目が晒される。
瞳から一筋の血の涙が頬を伝う。体に巻きついた鎖を引きちぎった。
「さあ、俺も本気を出すか」
血の涙が頬から落ちる。
涙は剣に姿を変えた。紅の剣。分厚い刀身の両手剣だ。
全てを切り裂く、邪神の剣。
心臓の剣。
「精神世界ごと、お前を斬る」
風が剣にまとわりつく。ゆっくりと息を吐き出す。俺の口から赤い煙が出ていった。
「死を思え」
俺の一太刀がゼロと世界を切り裂く。
目眩に襲われた。
目を開くと、元の教会に戻っていた。あの巨大な天秤は消えている。ゼロが少し離れた所に倒れていた。
心臓の剣が右手から消えていった。
ゼロへ近づいていく。
腰に刺した剣を抜く。剣を振り上げた。
「待て!!」
教会の入口に、ウォルテに支えられたフォゼが立っている。彼女はよろめきながら、こちらへ向かってくる。ウォルテの肩から手を離し、倒れるゼロにしがみついた。
「ゼロ様っ」
「フォゼか……」
フォゼは涙を浮かべている。彼女が俺の方を向いた。
「お願いだ! ゼロ様を殺さないでくれ!」
フォゼの瞳から涙が零れた。一筋の涙が頬を伝っていく。
「頼む。お願いだ……」
フォゼは俺の腰にしがみついた。俺の服を掴む彼女の手は震えている。
「殺さないで……」
心が痛まない訳ではない。だが、ここでゼロを見逃せば、また俺を狙ってくるだろう。
「悪いな」
「っ……」
フォゼの目が見開かれた。彼女はふらふらと立ち上がり、俺に剣を向けてきた。
「ゼロ様は私が守る。絶対に殺させない」
「フォゼ、その体じゃ……」
ウォルテがフォゼに手を伸ばす。フォゼはウォルテの手を叩き落とした。フォゼの胸元からは、血が流れている。彼女は口から血を吐き出した。
「ゲホッ」
フォゼがしゃがみ込む。剣を床に刺して、立ち上がろうとしている。何度も足をもつれさせながら、それでも立ち上がろうとしていた。
「守るんだ……私が、ゼロ様を……」
「フォゼ、もうやめなさい」
ゼロがフォゼを止めようとする。だが、彼女は諦めない。ウォルテがフォゼに手を伸ばした。
その瞬間――
ゼロが短剣で自分の喉を刺した。
「か、はっ」
「ゼロ様っ!!」
ゼロはフォゼに手を伸ばした。彼女の頬をそっと撫でる。
「ノクスくんを恨まないでくれ……」
「ゼロ様っ! ゼロ様っ!」
「君だけは、どうか、負の感情、に……の、まれ……」
ゼロの手が床に落ちた。彼はゆっくりと目を閉じた。フォゼはゼロの頭を抱き寄せた。
「ああ、ああああああ」
フォゼの絶叫が辺りに響き渡った。
胸が痛む。誰かの叫び声を聞いて、こんなにも苦しくなったのは、初めてかもしれない。
また、罪の意識が重くなった。




