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第5話 我が妻を苦しめた罰を受けろ

「いやあ~お二人揃っていらっしゃるとは、急なお申し出でなければもてなしももう少しできましたのに」

「いや、構いません。こちらはご挨拶したかったまでですので」


 バルジア王国の王宮にてそのような会話が交わされる。

 国王と皇帝。

 それぞれ国の代表として挨拶する後ろで、シンシアはドレスを見に纏って夫の傍についた。


 そんな彼女の装いを見て、王妃とサマナはこっそりと話している。


「お母様! 何よ、あれ! どうしてお姉様があんな綺麗なドレス着てるのよ!」

「知らないわよ! お父様から聞いてた残虐皇帝が嫁ぎ先っていうのもなんだか嘘みたい。ほら、あんなに気高くして、それに見目麗しいじゃない!」

「そうなのよ!! あんな麗しいお方だなんて聞いてないわ! それなら私が嫁ぐのに!!」


 母娘はルナリドの噂とは違う雰囲気を感じて口々に文句を言っている。

 しかし、唯一ルナリドと対面したことがある国王はその「違和感」に気づいていた。


「ルナリド皇帝陛下、今日は大変穏やかですな。何かいいことでもあったのですか?」

「いえ、こちらの国に来られたことが嬉しいのです。それに、いい妻に嫁いでもらったので。なあ、サマナ」

「え、ええ……恐縮ですわ」


(これでいいのかしら……?)


 バレていないふりをするためにシンシアとルナリドは一芝居打つ。

 あくまでバルジア国王と王妃の策略にハマっているように振舞っているのだ。


 そうして皆順に席につき、食事を始めた。


 ルナリドはバルジア王国特産の魚を使ったムニエルを口にすると、笑みを零した。


「おいしいですね。このムニエルは昔こちらに来させていただいた際にもいただきました」

「ほお、それは確かお父上と一緒にいらっしゃった友好パーティーの時でしたかな? あれはどれほど前だったか……」

「十年前になります」

「おお! そうでしたか!」


 そんな会話をしている途中で、シンシアはルナリドに声をかける。


「ルナリド様、一体どうやってネックレスを探すのですか?」

「見ていろ」


 そう言ってテーブルの下で誰にもわからないように手を握った。


(手を握られてる……!)


 男性に手を握られた経験がない彼女は頬を染めてしまう。

 これ以上彼女に愛情を向けてしまったら、シンシアの表情でバレてしまうと感じたルナリドは渋々手を離した。


 一方、王妃とサマナはまだルナリドの話題で盛り上がっていた。


「お母様! ちょっと、あんな素敵なお方だなんて聞いていないわよ! 今から私が嫁ぐとかできないの!?」

「無理よっ! どういってごまかせば……」


 そういうとサマナは席を立ち、ルナリドのもとへと向かっていく。


(サマナ……何をするの……?)


 すると、サマナは酒を持ってルナリドのグラスに注いでいく。


「ルナリド様、よかったら私の注いだお酒を飲んでいただけませんか?」

「……ああ」


 そう言って彼は口をつけようとしたその時、手を止めてサマナに告げる。


「シンシア王女殿下、でよかったでしょうか?」

「え、ええ! シンシアですわ」

「よければ、私と外の庭園を見て回りませんか?」

「も、もちろんですわ!!」


(ルナリド様!?)


 突然の誘いにサマナは歓喜の声をあげ、庭園へと案内していく。


「まあ、まあ……お似合いなお二人! ねえ、シンシア?」

「え、ええ……お母様……」


 三人だけになった途端に王妃はシンシアに冷たい視線を送り、名を呼んだ。

 不安がよぎったその時、ルナリドの声が聞こえてくる。


「あそこが屋根裏部屋ですか」

「え……」


 なぜ王宮の屋根裏部屋の存在を知っているのか。

 サマナにはわからなかった。


「懐かしいですね、シンシア。あなたと話した屋根裏部屋」

「え……」

「実は私は十年前にダンスフロアへの道と間違えて、屋根裏部屋に行ってしまったことがあるんですよ」


 その言葉を聞いたサマナはまだ彼が何を言っているのかわかっていない。

 しかし、彼の意図がわかった国王と王妃は顔がどんどん青ざめていく。


「ひ、久しぶりですわね! あの時は楽しかったですわ」

「そうですね。そう言えば、あの日に渡したネックレスは今も持っていますか?」

「ネックレス……?」

「ええ、まさかあの窓から投げ捨てた……そんなことはないですよね?」


 その瞬間、感の悪いサマナもようやく事態の重さと自分が犯した罪を理解し始めた。


「まさか、あのネックレス……」

「どうしました? まさか大事にしていたものをあそこから投げ捨ててはいませんよね?」


 その表情は氷のごとく冷たく、鋭い視線がサマナの心臓を射抜く。


「あ……あ……」


 そのあまりの凄みにへたり込んでしまったサマナは、唇を震わせて両親に助けを求める。


「お、お父様、お母様。たすけ、て……」


 それでもルナリドは問い詰める。


「知っているわけがない。あの日のことを。あなたはあの優しい少女シンシアではない。ダンスフロアへの帰り道を教えてくれた礼に渡した母の形見のネックレスを大事だと言ってくれた」

「母上の……形見……」


 サマナの額から冷や汗が流れ落ちていく。

 汗が地面に落ちた時、夕日もまた地平線の彼方へ沈んだ。


「あなたが窓から投げたネックレスはね、夜に光るんです。さあ、返してもらいますよ。私の妻シンシアと私の大事な想い出を!」

「ひいいいいっ!!!!!!」


 ルナリドはサマナが悲鳴をあげて抜け殻のようになった隣を歩いていき、整備された庭園で光っているネックレスを取った。


「ルナリド様っ!」


 シンシアは急いで彼のもとへ向かっていく。

 彼は愛おしそうにそんな彼女を見つめると、国王と王妃に冷たい視線を向けた。


「私の妻を屋根裏部屋で冷遇していた罪、きっちりと精算していただく」

「ま、待ってくれ! 彼女は確かにシンシアだ。だが、娘をどう扱おうかこちらの勝手じゃないか!」


 その言葉にルナリドの眉はピクリと動き、目を細めた。


「認めましたね。あなたがシンシアを冷遇したことも、シンシアを妹の身代わりとしたことも全て」

「あ……」

「私を謀った。その血で贖う覚悟ができていますね?」

「い、いや、それは……!」


 もう敬意を払う必要もなくなったというようにルナリドは口調を変えて言う。


「貴殿たちへの氷の支援は終わりだ」

「なっ! それでは我々に死ねというようなもの! そ、それに! 国民が暴動を起こします!」

「何を勘違いしている?」

「え……」

「お前たちは聖女のためという名目で氷や水を優先的に使用して国民が苦しもうとも無視し続け、私腹を肥やした。国民へ直接氷や水を供給するルートは我が国で確保している。お前たちの手に不正に渡らぬようにな」

「それじゃあ……」

「ああ、国民は死ぬことはない。お前たち王族はどうか知らないがな」


 冷酷な瞳を向けた後、ルナリドはシンシアの手を取ってその場を去った。



「ちょっとお父様!!!! どうしてくれるのよ!! かき氷食べられなくなったじゃない!!」

「あ、ああ……」


 途方に暮れている国王の横で、サマナが叫ぶ。


「かき氷が食べたいー!!!!」


 その声は帰りの馬車に乗ろうとしたシンシアとルナリドの耳にも届いた。

ついに大事な二人の想い出のネックレスを取り返してきました!

次回は、帰国後の甘々回になります。


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