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第4話 十年前の約束と残虐皇帝の宣戦布告

 それは十年前のことだった。

 当時八歳だった彼女は屋根裏部屋でただじっと座って時を過ごしていた。


(何か騒がしい……)


 いつも嫌味を言いにくる妹サマナも残飯を届けにくるメイドも来ない。

 何かあったのだろうか、と少女が思ったところで部屋の扉が開いた。


「え……?」

「あ、間違えたか」


 部屋に入ってきた少年はこの国では見ない装いをしている。

 ただ、それでは彼はシンシアから見ても「それなりの身分」があることがわかった。


「あの、どうしてこちらに……」

「いや、俺はヴァーリス帝国の者だ。父上と王宮に招かれたが、ダンスフロアへの帰り道がわからなくなった」


 それを聞いて数日前のサマナの言葉がよぎる。

 彼女は見目麗しい王子様に会えると心躍らせてシンシアに話していた。


「お前、なんでこんなとこに?」

「えっと……私は、えっと……」


 まさか隣国の人間に自分の事情を話すわけにはいかない。

 勝手に話してそれこそ国際問題になってしまうと後からサマナどころか国王や王妃にどんな仕打ちをされるかわからない。

 シンシアはなんとか声を絞り出して、彼にここを去ってもらうよう誘導する。


「たぶん……ダンスフロアはこの下の階です」


 指をさして教える彼女に、彼は怪訝な顔をして問いかける。


「メイドか? それにしてもこんなとこにいさせられてるのは辛くないのか?」

「辛い……わかりません。私はもう五年もここにいますから」

「五年だと?」

「私は災いの子なのだそうです。だから、ここでご迷惑にならないようにただじっとしているのです」


 その言葉を聞いた少年は何か考え事をした後、自らの首にかけてあった真珠のネックレスをシンシアにかけてやる。


「これは……」

「母上の形見。ダンスフロアへの帰り道を教えてくれた礼だ」

「いけません! そんな大事なもの!」

「なら、ここからいつか出た時に返してくれ。俺はお前がなぜここにいるのか知らない。だが、きっと良くないことだと思う。だから、大人になって俺が皇帝になったら──」



 温かいベッドの中でシンシアはだんだん当時の記憶がよみがえってきた。


(あの日の少年は、私に唯一優しくしてくれた彼が……)


 シンシアは少しひんやりとした手でルナリドの手を握る。


「あなた様だったのですね、私を勇気づけてくださったのは……」


 シンシアは十年前のあの出来事があったからこそ、昨日までじっと屋根裏部屋で耐えることができた。

 自尊心を失いかけながらもなんとか生きることができた。


「あの優しいお言葉とあなたの声をずっと大事に生きてきました」

「俺もあの日の記憶が忘れられず、お前を探し続けていた。ようやく会えた……」


 彼はシンシアをゆっくり抱きしめると、優しい声で呟く。


「生きていてよかった」

「はい、私もお会いしたかったです。こんな形でもう一度会えるなんて……」



『俺が皇帝になったら、お前を外に連れ出してやる』

『……では、私をあなたのお嫁さんにしてくださいませんか?』



 あの時の約束をシンシアは思い出す。


「本当にお嫁さんにしてくださったのですね」

「側近からは妻をとれとうるさく言われていたが、私はお前を『お嫁さん』にするために拒否し続けた」

「でも、どうして私だと……」

「王女を娶りたいと言えば、お前を差し出すだろうと思っていた。お前が王女であることはスパイで突き止めていたからな」


(そうだったのね……)


 嬉しさで胸がいっぱいになったところでシンシアは一つあることに気づく。


「あ……ネックレス……」


 そのことについて気づいた彼女は一気に青ざめていく。


「どうした?」

「ネックレスを先日まで大事に持っていたのですが、その……妹に窓から捨てられてしまい……」


 その言葉を聞いて目の色を変える。


「そうか……」

「……はい」


 その言葉を聞いた彼は低い声で呟く。


「では、取り返しに行くか」

「え……?」


 そう言うとルナリドはニヒルな笑みを浮かべた。

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