第3話 温かい心地と不器用なやさしさ
温かい心地がして深く深く眠りについた。
彼女が最初に感じたのは、包まれている心地よさと温かい太陽の日差しだった。
「あっ!」
何が起こったのかわからず、シンシアは目をきょろきょろと動かした。
しばらく瞬きをして頭を起こそうと必死になる。
(今、私何をして……)
ようやくそこに思考がたどり着いた時、彼女は自分が「いつも」と違う環境にいるのだと気づく。
「夢……?」
そう呟いた彼女の言葉に答えたのは、昨日自分の夫となったルナリドだった。
「夢じゃない」
「ルナリド皇帝陛下……」
掠れた声で言葉を紡いだ彼女の傍に座ると、ルナリドは優しい瞳を向けた。
「ルナリドでいい」
「ルナリド……様……」
そこまで話した時にようやく記憶がよみがえってきた。
(そうだ、サマナの身代わりで彼に嫁いで、それで……)
そこまで考えた彼女は自分が眠っていたふかふかのベッドに手を置いてみる。
じっくり沈むほどよい跳ね返りと自分の体温が残っていた。
「あたたかい……」
今まで屋根裏部屋の底冷えする床で寝ていた彼女には驚く様なあたたかさ。
(私、ここで一晩寝させていただいたの……?)
彼女の思考がわかったのか、ルナリドが告げる。
「もう少し寝るか?」
「い、いえっ! その……ありがとうございます」
「構わない。それにこれからはここがお前の部屋だ。好きに使え」
「こんな良いお部屋を……?」
シンシアが15年間暮らしていた部屋とはあまりにも違う。
温かい布団に綺麗に磨かれた姿見、ドレスが何十着も入りそうなクローゼットに大きな本棚。
窓も大きく外には素敵な庭園が広がっているのが見える。
「何か口にできそうか?」
そう言ってルナリドは水を差し出した。
こくりと頷いたシンシアはその水を受け取って、ゆっくりと飲んだ。
「おいしい……」
(お水ってこんなにおいしいの……!?)
水だけは与えてもらっていたシンシアだったが、味がまるで異なることに気づく。
(甘みがあって、まろやかで角が無くて優しい……)
喉を通って胃に入ったことがわかる。
いつもならなぜか刺すような痛みを感じていた水もこの水では感じない。
「こんなにおいしいのですね……」
「うちの国の水があったのならよかった。パンをミルクに浸したものがあるが、食べられそうか?」
「は、はい……」
シンシアは昨日から何も食べていなかった。
ルナリドは温かいミルクでひたひたのパンをスプーンで小さくしてシンシアに差し出す。
「え……?」
「口を開けろ」
「でも、ルナリド様に食べさせていただくわけには……」
「そんな細っこい腕で危なっかしい」
そう言われて自分の腕を見つめてみる。
まともに食べられていなかったこともあり、やせ細って骨ばっている。
さらに寒さからか少し震えていた。
「うちの国はバルジア王国より寒い。特に朝は冷えるから慣れるまで時間がかかるだろう。ほら、口開けろ」
「あ……はい」
そう言って口を開くと、シンシアの口の中に優しい甘さと柔らかい食感が広がる。
「おいしいです」
「そうか」
まだ少量しか食べられないものの、しっかり喉を通っていく。
さらにその食べ物や飲み物たちは新鮮でとてもおいしい。
「ありがとうございます」
「ああ、まずは元気になれ」
「でも、どうして身代わりの私にこんなによくしてくださるのですか?」
ルナリドは少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「十年前の約束だから」
「え……?」
その瞬間、シンシアは気づいた。
ルナリドの面影が屋根裏部屋でいた自分に唯一優しくしてくれた少年の面影と重なることに──。




