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第2話 残虐皇帝との対面と彼の本当の姿

 シンシアは婚姻の儀式の場で「彼」を待っていた。


 すると、儀式の場の扉が勢いよく開かれ、誰かが入ってくる。


(冷たい……)


 彼が一歩一歩、シンシアに近づく度に空気が凍るようにひんやりしていく。


(寒い……)


 ベールの隙間から彼の靴が見えた。

 気配で自分よりずいぶん背が高い人物が来たのだろうとシンシアは思う。


(彼が、ルナリド皇帝なの……?)


 顔をあげずにいた彼女の顎を無理矢理あげ、目を合わせた。

 初めて、シンシアは彼の姿を瞳に映す。


(黒く長い髪……それに氷のような瞳、彼がルナリド皇帝……)



 その瞬間、彼は冷たい視線をシンシアに送って低い声で問う。


「お前は誰だ」

「私は……」 


 それ以上、彼女は言葉を発せなかった。

 唇は震え、足も小刻みに震えている。


(怖い……)


 そう感じた時、彼が無理矢理引っ張って叫ぶ。


「初夜の儀に入る。何人たりとも近づくな!」

「はっ!」


 側近たちや護衛兵の声が響き渡った。

 そして、シンシアはルナリドに連れられて寝室に入ると力強くベッドへ投げられる。


「きゃっ!」


 シンシアに覆いかぶさった彼は、鋭い視線を向けた。


「お前は聖女と言われるサマナではないな?」

「な、そんなことは……わたくしはバルジア王国第二王女、サマナ・バルジアでございます」


 そう口にした瞬間、ルナリドは一瞬ニヒルな笑みを浮かべたが、すぐに鋭い顔つきに戻る。


「バルジア王国では王位継承権の高いものから第一、第二とつけられる。サマナ王女は確か、生まれてまもなく第一王女となったと聞いているが?」


(え……)


 シンシアは自分が第一王女であった時しか王宮の正殿に住んでいない。それゆえ、自分が第二王女と格下げされたことをしらなかった。


(しまった……私は間違えた……)


 自分の口で自らがサマナではないことを告げてしまった。


(ああ……きっとこの残虐皇帝に殺される……)


 目をぎゅっとつぶって痛みが来るのをじっと待った。

 しかし、いくら待ってもその痛みは訪れない。


 彼女がゆっくり目を開くと、なんとも優しい顔つきをした彼がそこにいた。


「殺しはしない。お前がサマナの身代わりできたことも口外しない。安心しろ……」


 その言葉を聞いた瞬間、どうしてか涙が止まらなくなる。


(安心……そんな言葉、久々に聞いた)


 虐げられた15年間を過ごした彼女にとって、諦めた日々の連続でそこには安心も安堵もない。

 何よりもほしかった「それ」が彼の口からもたらされた。

 彼女は嬉しくてたまらなくなる。


「そんな細い体をして、バルジア王国ではよい暮らしをさせてもらえなかったのだろう」

「それは……」

「いい、今は眠れ。ここは安全だ」


 シーツを被せられたシンシアはベッドに座る彼の後ろ姿を眺める。


(彼は残虐皇帝ではないの……? どうしてこんなに……)


 その先の言葉はまどろみの中に消えていった。



◇◆◇



 静かな寝息が聞こえてきたのを確認すると、ルナリドは彼女の髪を優しくすくう。


「間違えるはずがない……。ようやく見つけた。俺の、たった一人の……」


 窓から差し込む月の光が、二人を優しく照らす。


「お前を絶対離さない、二度と」


 シンシアが真実を知るのは、もう少し先のこと──。

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