第27話「変わらぬ二人」
収録が終わり、店内は少しずついつもの空気を取り戻しつつあった。
さっきまで強い光を落としていた照明が外され、TV局のスタッフたちが慣れた手つきで機材を片づけていた。
床の上をケーブルがするすると回収され、三脚が折り畳まれる。
その間を、ひかりが歩いていた。
出勤したキャストに声をかけ、テーブルの配置を整え、開店の準備を進めていく。
帰り支度をしながら、ひなたはその様子をぼんやりと見ていた。
店の中心にいる、ひかり。
忙しく動いているのに、どこか落ち着いている。
背筋の伸びた立ち姿。
声をかけるタイミングや、視線の向け方。
なんとなく、目が離せなかった。
「どうしたの?」
横から声をかけたのは、みらいだった。
「あ……」
ひなたは少しだけ視線をそらして、言う。
「あの、チーフの人。ひかりさんだっけ」
「なんか……雰囲気というか。立ち姿というか。すごいなって」
その言葉に、みらいは少しだけ驚いた。
けれど、同時にどこか嬉しくもなる。
「あ、ひかりさん」
少し照れくさそうに、みらいは続けた。
「元アイドルなんだ。エトワールっていうグループで、リーダーやってて」
「Auroraにいたの。解散してから、このお店はじめたみたい」
ひなたは、へえ、と小さく頷いた。
みらいは、少し言葉を探すようにしてから言う。
「で、私の……憧れの人……かな」
口にしてから、みらい自身が少し驚いた。
その言葉が、思ったよりも自然に出てきたからだ。
「あ、やっぱり」
「普通の人じゃないと思ってたんだよね」
ひなたはそう言って、もう一度ひかりの方を見る。
「私の先輩なんだ……」
二人が遠くからその様子を見ているときだった。
ひかりが、希望に声をかける。
「ちょっとええかな。仕事の話」
二人はそのまま、バックヤードへ入っていった。
小さな事務スペース。
デスクの上には、書類やタブレットが整然と並んでいる。
ひかりは、画面に配信のスケジュールを出しながら、椅子の背に軽く手を置いて言った。
「今日の収録もええ感じやったしな」
「事務所でやってる配信、ここの店でもやってみるのどうやろ。ステージもあるし」
希望は腕を組んで、少し考える。
「ええかもな」
「ちょっとうちの中でも話してみるわ」
ふと、その時だった。
希望の視線が、デスクの上に止まる。
小さなフォトフレーム。
「これ……」
中に入っていたのは、古い写真だった。
レッスン着のまま並んでいる五人の女の子。
その横に、少し若いもりっち。
オーディションが終わり、メンバーが決まった日の、集合写真。
「ああ、それな」
ひかりは少しだけ笑う。
「原点やしな」
「忘れへんように、ずっと飾ってる」
希望はしばらく写真を見ていたが、やがて視線を外した。
少し間があって、ぽつりと言う。
「ひかり……」
「あんた、ほんま変われへんな」
ひかりが、ん?と顔を上げる。
「なんか……今でも輝いてる、っていうか」
ひかりは一瞬きょとんとして、
それから少し照れくさそうに言った。
「何言うてんねん」
「あんたも、変わってないで」
「え?」
希望は、少し驚いた顔をした。
「まだまだ輝けるやろ」
「役者の道とか、いろいろあるんちゃうん。惜しいと思うけどな」
希望は少しだけ目を細めた。
「……そうかもな」
少しの間。それから、静かに言う。
「でも、私は今は……」
「人を輝かせるのが仕事や」
ひかりは、ふっと笑う。
「そっか」
希望は軽く頷いた。
「んじゃ、引き続きみらいのこともよろしくお願いしますわ」
ひかりは腕を組んで、微笑みながら言った。
相変わらず頑固な人やな、と思いながら。
「まかしといて」
二人はバックヤードを出た。
店内では、帰り支度を終えたひなたと翔太が待っていた。
「それでは、今日はありがとうございました」
翔太が丁寧に頭を下げる。
「こちらこそ」
ひかりも軽く会釈を返した。
三人は店を出ていく。
ドアの前で、ひなたはふと振り返った。
店の奥で、ひかりがキャストに何か指示を出している。
元アイドル。
そして、事務所の先輩。
憧れと呼ぶほどでは、まだない。
けれど――
少しだけ、気になる存在になっていた。




