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よみがえるエトワール  作者: yoshinoya ussie


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第26話「ひかりと希望(のぞみ)」

 Atelier Étoileに、TVの取材が入る日。

 まだ店は営業前の静かな時間。


 店内にはすでにTV局のスタッフが入り、照明や機材の準備が進められていた。

 いつもより明るい照明に照らされ、店の雰囲気も少し違って見える。


 みらいはカウンターの横で、台本を何度も見返していた。


 段取りの確認。

 言うことの順番。

 紹介する場所。


 ページをめくる指が、少しだけ硬い。


「まあ緊張もほどほどやで」


 声をかけたのは、ひかりだった。


「言うたやろ。いつも通りのみらいでええって」


「はい……」


 みらいは小さく頷く。


 その時、入口のほうが少し騒がしくなった。


「あ、来たみたいやな」


 扉が開く。


 最初に入ってきたのは、大橋希望だった。

 グレーのスーツに、黒縁のメガネ。いつもと変わらない落ち着いた姿である。


「お疲れ様です」


 店に入って、軽く頭を下げる。

 その瞬間、ひかりと一瞬だけ目が合った。


 続いて、瀬川翔太。

 そして朝倉ひなたが店に入ってくる。


 三人は、店内奥に並んでいたひかりとみらいのほうへ歩いてきた。


「今日はよろしくお願いします」


 希望が言うと、 ひかりが答えた。


「チーフキャストの白石ひかりです。よろしくお願いします」


 三人は挨拶する。

 その後、ひなたがみらいに駆け寄った。


「今日はよろしく。緊張しすぎてやばいけど」


「わたしも」


 みらいは苦笑いする。


「二人で頑張ろ」


「うん」


 一方で、希望はひかりに近づき、声をかける。


「久しぶり」


 静かな声。

 ひかりは少し笑って答える。


「ほんまに。久しぶり」


 希望は店内を見回す。


「……ええ店やな」


「なんとか、ここまで来たわ。じゃ、今日はよろしくお願いします」


「まあ、あの二人次第やね」


 希望は、みらいとひなたのほうへ視線を向けた。


 少し離れた場所でその様子を見ていた翔太。

 話が終わり、歩いてきた希望に聞いた。


「……チーフさん、知り合いなんですか?」


「はい」

「彼女、以前うちの事務所にいたので」


 希望は短く答える。


「なるほど……」


 翔太は少しだけ首をかしげた。

 二人の様子を見ると、それだけではない感じがする。

 まだまだ謎が多いな。と思いつつも、それ以上は聞かなかった。


 しばらくして、メイクが終わったみらいとひなたがバックヤードから出てくる。


 収録準備が整った。


 みらいは店内で待機。

 ADに促され、ひなたとカメラマンが店の外へ向かう。

 最初は、店から少し離れた場所からのカットだった。


「こんにちは!」


 カメラが回る。


「今回ゲストリポーターを務めます、朝倉ひなたです!」

「今日は、日本橋で話題のコンカフェ、『Atelier Étoile』さんにお邪魔します!」


 ひなたはカメラの前で、いつもの笑顔を見せる。

 少し歩いて、店の前に到着する。


「路地裏にあるんですけど、入り口からもう世界観がすごくて……」

「ちょっとドキドキします」


 ひなたが扉を開けると、店内でみらいが迎えた。


「いらっしゃいませ」


「わぁ……!」


 ひなたが店内を見回す。


「中、すごく可愛いです!」


「ありがとうございます」

「当店は、“アトリエ”をテーマにしたお店なんです」


「昼はカフェ感覚で、

 夜はコンセプトをより楽しんでいただける雰囲気になっています」


「昼と夜で、空気が変わるんですね」


「はい」

「お客さまの過ごし方も、ちょっと変わります」


 少し離れたところで、ひかりと希望が並んでいた。

 収録の様子を静かに見守っている。


「……ええ感じやな」


 ひかりが言う。


「そやな」


 希望が頷く。


「あの二人、それぞれいいところ出し合えてると思う」


「ひなたちゃん、あんたのとこで鍛えられてる感じやな」


 ひかりが言うと、希望はわずかに笑った。


「みらいちゃんも、見てたらあんたの姿思い出したわ」


 ひかりは小さく肩をすくめる。


「元気でやってるん」


「まあね」

「この仕事も悪くない」


 再び、二人は収録を見守る。

 店内では、みらいがギャラリーを紹介していた。


「あ、このスペース……可愛い……」


 ひなたが壁際の棚を見上げる。


「ここは“星のギャラリー”と言って」

「お店のコンセプトの“アトリエ”に合わせて、作品を展示できる場所なんです」


「これ、どなたが描いたものなんですか?」


 ひなたが静物画を指差す。

 みらいは少し照れたように笑う。


「私なんです」


「えー、すごい」


 ひなたが素直に驚く。


「めっちゃ上手いですね」


「ありがとうございます」


 そして、収録は最後のカットへ。


「初めて来たのに、なんだか落ち着く空間でした」


「ゆっくり過ごしてもらえたら嬉しいです」


「日本橋・オタロード近く、Atelier Étoileさんでした!」

「気になる方は、ぜひ足を運んでみてください!」


 「……カット!」


 スタッフの声が店内に響く。

 みらいとひなたが、同時に大きく息を吐いた。


「……終わったぁ」


「……ほんと、疲れたね」


 ひなたが笑う。


「ひなたちゃん、きっちり喋れてたよ」


「みらいちゃんも。やっぱすごいね」


「ありがとう」


 そこへ、ひかりと希望が歩いてくる。


「おつかれさん」


「お疲れ様です」


 ひかりは二人を見て頷いた。


「二人とも、しっかりやれてたわ。さすが相性バッチリやな」


 希望も微笑む。


「お二人とも、お疲れ様でした」


 そして、みらいに向かって言う。


「星野さん。おかげさまでいい収録になりました」

「また次回もよろしくお願いします」


「ありがとうございます」


 みらいは、ひなたのほうを見る。

 ひなたも、みらいを見る。

 そして二人とも、思わず笑った。


 緊張が解けたあとには、やりきった静かな充実感が残っていた。

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