第19話「写真」
年明け。
Atelier Étoile の店内は、いつもよりも少し華やいだ空気をまとっていた。
入口の横、白い壁に並べられた写真パネル。
水色と赤の振袖。隣り合って笑う二人。
水色は、星野みらい。
赤色は、朝倉ひなた。
店内では、年始の挨拶と一緒に、その写真の話題が飛び交っていた。
「いやー、みらいちゃんお似合いやわ」
テーブル席の向こうで、常連の一人がしみじみ言う。
「ひなたちゃんもめっちゃ可愛いけどな」
「いいペアやわ。なんか安心感ある」
他のキャストも笑いながら頷く。
「バランスええよな。派手すぎへん感じが」
みらいは、少し背筋を伸ばしたまま、
軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
笑顔は作り慣れている。
でも今日は、その奥に少しだけ照れが混ざっていた。
仕事の合間、パネルの前を通るたびに、
みらいは写真を見上げる。
――もうちょっと、首の角度上げたほうがよかったかな。
――ちょっと笑いすぎたかも。
反省は、癖のようなものだ。
けれど同時に、あの日の空気も思い出す。
初めて並んだ振袖姿。
隣に立つ朝倉ひなたは、現場慣れしていて、堂々としていて、
少しだけまぶしかった。
緊張した。
でも、楽しかった。
あの時。
「また一緒にできたらいいですね」
と、小さく言った自分の声も、思い出す。
――ひなたちゃん、流石だな。
パネルに写っている姿を見て、みらいは改めて思った。
「みらい、ちょっとちょっと」
その時、バックヤードから、ひかりの声が飛んだ。
みらいは「すみません、少し失礼します」とテーブルを離れる。
カーテンの向こう、控えめな照明のバックヤード。
ひかりはPCの前に立ち、画面をこちらに向けた。
「振袖のやつ、好評やったみたいでな」
少しだけ口元を上げる。
「また次の仕事きたわ」
「え?」
「事務所の動画配信みたいなんやけど。どやろ」
「ペアはまたひなたちゃんで」
一瞬、胸の奥がきゅっと縮んだ。
――できるかな。
その思考より先に、声が出た。
「え、嬉しいです」
ひかりは、くすっと笑う。
「ひなたちゃんとまた仕事したいって言ってたやろ」
「よかったやん」
「はい」
うなずきながらも、少し視線を落とす。
「……でも、私、お店以外では人前であんまり喋ったことないんで」
「できますかね」
ひかりは腕を組み、
少しだけ顎を上げる。
「みらいやったらいけるいける」
軽い口調。
でも目は、真面目だ。
「向いてると思うで」
言い切る。
その言葉は、背中を押すというより、ただ事実を告げるみたいに静かだった。
みらいは、小さく息を吸う。
「それじゃ、やってみます」
予想していなかった展開。
けれど、どこかで期待していた再会。
振袖の写真の隣に立つ、あの柔らかい笑顔。
店の外で、自分はどんな顔をするだろう。
みらいはバックヤードを出る前に、もう一度だけあの写真を思い浮かべた。
年明けの空気は、まだ少し冷たい。
けれど胸の奥には、静かな熱が灯っていた。




