第18話「クリスマス」
12月も、もう後半に入っていた。
Atelier Étoileは、明日からのクリスマスイベントの準備のため、臨時休業。
ひと通り飾り付けを終えたあとの、少しだけ落ち着いた空気が残っていた。
テーブルのまわりに集まっているのは、ひかり、直人、みらい。
直人は、みらいが提案したギャラリーの図面を持ってきている。
みらいは今日は休みだったが、図面が仕上がったと聞いて、大学終わりに少しだけ立ち寄っていた。
テーブルの上に、直人が図面を広げる。
「……わぁ」
思わず、声がこぼれた。
そこには、みらいが何枚も描いて渡していたラフスケッチが、きちんとした設計図として形になっていた。棚の配置、導線、細部の意匠まで——。
「すごい……イメージ通りです」
みらいがそう言うと、直人は少し照れたように頷いた。
「よかったです」
みらいが考えたテーマは、『星のギャラリー』だった。
写真やオブジェ、絵画を並べるための棚やフレームの中に、さりげなく星を思わせるモチーフが散りばめられている。
「みらいさんのデザインが良かったので。こちらも、頑張りました」
「ありがとうございます……」
そのやり取りを、ひかりは一歩離れたところから見守りながら、静かに頷いていた。
——ほんま、お似合いやな。
心の中で、そう思う。
「じゃあ、みらいもイメージ通りみたいなので、この感じでお願いします」
「わかりました」
直人は図面と資料を丁寧にまとめ、帰り支度を始める。
「あ、みらいももうええで」
「休みのところ、わざわざおつかれさんでした」
ひかりが声をかけた。
「え、でも、店閉めるの手伝いますよ」
「ええねんええねん。やっとくから、はよ帰り」
「明日から忙しくなるしな」
そう言って、ひかりは柔らかく笑う。
みらいは少し迷ったあと、直人と目を合わせて、頷いた。
二人はひかりに挨拶をして、並んで店を出る。
外は、ちょうど夕暮れに差しかかる時間だった。
少し歩いたところで、自然に二人は手をつなぐ。
「ギャラリー……ありがとうございます。ほんと、イメージ通りで、すごく嬉しくて」
「こちらこそ。みらいさんに喜んでもらえたらと思って」
直人の言葉は、飾り気がなくて、まっすぐだった。
その分、胸の奥が少しだけ強く跳ねる。
「このあと、どうしましょうか。みらいさん、時間あります?」
「はい。大丈夫です」
みらいは、少し考えてから、ふっと思い出したように言った。
「あ、そういえば……」
「クリスマスマーケット、行きませんか。梅田の」
「ああ、やってますね。行きましょうか」
「じゃあ、行きましょう」
二人は電車に乗って、梅田へ向かった。
梅田スカイビルのクリスマスマーケットは、すでにたくさんの人で賑わっていた。
屋台の明かり、大きなクリスマスツリー、行き交う人の声。
「ここ、高校のとき、友達とは何度も来たことあるんですけど……」
みらいは、少しだけ言葉を選びながら続ける。
「……彼と、一緒に来てみたいなって。ずっと思ってて」
一瞬、間が空く。
「夢が、叶いました」
最後は、少しだけ照れたように笑った。
直人は、隣で穏やかに微笑む。
「みらいさんの夢が叶って、よかったです」
「これからも、いろいろ叶っていくといいですね」
みらいは、そっと肩を寄せた。
二人はマーケットをゆっくりと歩く。
食べ物を選んだり、飾りを眺めたり。
その途中、みらいの視線が、ある店の前で止まった。
星のモチーフがあしらわれた、レザーの手作りストラップ。
「これ……」
「いいですね」
直人が、みらいの視線を追って言う。
「それじゃ、二人でお揃いで持ちませんか」
「え……嬉しいです」
直人は迷いなく、二つ分を会計すると、ひとつをみらいに手渡した。
「わぁ……ありがとうございます」
「これ持ってたら、みらいさんが、いつも近くにいる感じがするかな、と思います」
「……私も、です」
そのあとは、食べ歩きをして、ツリーの前で写真を撮って。
特別なことはしなくても、ただ一緒にいる時間が、心地よかった。
帰り道。みらいは直人に微笑みながら話す。
「今日、一緒にいられると思ってなかったので、ほんと嬉しかったです」
「クリスマスは、ずっとお店なんで……会えないかな、って思ってたので」
「僕も、今日一緒に過ごせて嬉しかったです」
駅に着き、改札の前で立ち止まる。
お互い手を振りながら、別れた。
さっきまでつないでいた右手が、まだあたたかい。
少しずつ、確かに近づいている二人の気持ちを感じながら。
みらいは、静かな幸せを胸に抱いて帰路についた。




