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よみがえるエトワール  作者: yoshinoya ussie


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第17話「初デート」

 朝から、みらいは落ち着かなかった。


 目が覚めた瞬間から、胸の奥がそわそわしている。

 直人とメッセージのやりとりをするようになって、もう一週間ほど。

 今日、二人の休みがはじめて重なった。


『よかったら、会いませんか』


 直人から送られてきたその一文を、何度も読み返した。

 待ち合わせは14時。場所は大阪駅。


 昨夜から、頭の中は同じところをぐるぐる回っている。

 何を着るか。どんなふうに話すか。

 それから――何か、あるのかな、なんて。


 クローゼットの前で、しばらく立ち尽くす。

 コートを一枚取り出しては戻し、ニットを当ててみては首をかしげる。


 派手すぎるのは違う。

 でも、いつもの服だと、少し気合がなさすぎる気もする。


 淡い色のニット。

 スカートにするか、パンツにするか。

 タイツは黒でいい?

 それともグレー?


 鏡の前で一度袖を通しては、また着替える。

 自分でも可笑しくなるくらい、決まらない。


 ――寒そうじゃないかな。

 ――子どもっぽく見えないかな。


 そんなことを考えながら、ようやく一つに落ち着いた。

 アイボリーのコートに、淡い色のニット。

 足元は歩きやすい靴。

 派手ではないけれど、自分らしい。


 髪を整え、コートを羽織る。

 深呼吸を一つして、玄関を出た。


 いつものバス通り。

 いつもの商店街。

 なのに、今日は少しだけ違って見える。

 看板の色がやけに鮮やかで、人の声が遠く感じた。


 みらい自身、男性とのデートが初めてというわけではなかった。

 高校時代、部活の友達と、なんとなく付き合ったこともある。

 それなりの経験はして、卒業する頃には自然に終わった。

 でも、今回はちょっと違う。


 電車に揺られながら、窓の外をぼんやり眺める。

 待ち合わせの時間が近づくにつれて、不安よりも

 ――楽しみだな、という気持ちのほうが勝っていった。


 大阪駅。

 改札を抜けると、すぐに直人の姿が目に入った。


「あ、みらいさん……」


 少しだけ間を置いて。


「……服、可愛いです」


「ありがとうございます」


 思わず小さく笑ってしまう。


「ちょっと、待ちましたか」


「いや、さっき来たところです」


 二人は並んで歩き出す。

 直人は、いつもより少しだけ言葉が少なかった。


「うめきたのほうに、最近できたカフェがあるんです」

「よかったら、行ってみませんか」


「はい、おまかせします」


 自分のために、いろいろ考えてくれたのだと思うと、それだけで嬉しかった。


 歩きながら、直人がふと尋ねる。


「そういえば……みらいさん」

「何て、呼んだらいいですか」


 その瞬間、気づく。

 直人は、まだ自分の本名を知らない。


「あ、みらいで大丈夫です。本名なので」

「私、佐藤未来って言うんです」


「あ、そうなんですね」

「みらいさん、が慣れてるので。よかったです」


 小さく、ほっとしたように笑う直人。


 カフェは、木目を基調にした落ち着いた内装だった。

 北欧風のシンプルな家具に、やわらかい照明。

 窓からは冬の光が静かに差し込んでいる。

 窓際の席に案内され、二人は向かい合って座った。


「いつもお店で話してるから、こういう感じって……ちょっと緊張しますね」


「そうですね」

「でも、誘ってくれて嬉しかったです」


 みらいは、正直な気持ちをそのまま口にした。


 メッセージでは、短い言葉のやりとりばかりだった。

 でも今日は違う。


 大学のこと。

 授業で大変な課題の話。

 最近気に入っている音楽や、好きなアニメの話。


「私、深夜アニメ大好きで。『契流の刻印」とか」


「あ、僕も見てます。春から第2部ですよね」


「え、嬉しい。そうなんです」


 そんな小さな共通点に、自然と笑顔が増えていく。


 直人の仕事の話も聞いた。

 忙しい時期のこと。

 デザインを考えるときの癖。


「結構、細かいところ考えはじめると没頭しちゃうんです」


「直人さんらしいですね」


 時間は、あっという間に過ぎていた。


 店を出ると、日が少し傾きはじめている。

 夕暮れのうめきたを、二人で並んで歩く。

 駅に向かう階段を上がろうとしたとき、直人が、少しだけ歩幅を緩めた。


「あの、みらいさん」


 少し緊張気味に、話す。


「えっと……これから、お付き合いさせてもらって、いいですか」


 思いがけないほど真面目な一言に、みらいは一瞬だけ驚いた。

 それでも、答えはすぐに出た。


「はい、喜んで」


 歩きながら、そっと肩を寄せる。

 気づけば、自然に手をつないでいた。


 大阪駅に着く。


「それじゃ、今日はここで」

「みらいさん、またメッセージしますね」


「はい、私も」


 改札越しに、手を振って別れる。

 何度か、直人が振り返った。その度に、お互いの笑顔。


 手をつないだだけ。

 それ以上は、何もなかった。


 でも、直人が一歩踏み出してくれたことが、何より嬉しかった。

 みらいは、その余韻を胸に抱いたまま、静かに家路についた。

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