第15話「目標」
エトワールのメンバーは、5人。
グループの中心に立つのは、白石ひかり。
ダンス、歌唱、MC、どれも安定のハイレベル。
姉御肌で、メンバーからもスタッフからも頼られるリーダー。
メンバーカラーは、パープル。
歌唱力とルックスで1番人気の、天野こころ。
メインボーカルであり、センター。
メンバーカラーは、レッド。
ショートカットに、クールな表情。
通好みのダンスリーダー、水野ほのか。
メンバーカラーは、ブルー。
場の空気を和ませるムードメーカー。
お笑いキャラとして現場で親しまれる、佐伯まゆ。
メンバーカラーは、イエロー。
そして最後に、高橋のぞみ。
派手さはないが、安定した存在感のある和風美人。
サブリーダーとして、ステージとメンバーをまとめる縁の下の力持ち。
メンバーカラーは、グリーン。
オーディションを終え、活動を始めてから、約1年。
ついに、メジャーデビューの話が舞い込んできていた。
デビューシングルのタイトルは、『流星エトワール』。
明日から、全国を回るリリースイベントが始まる。
そんな日の、事務所のレッスン場。
夜も更けた室内で、白石ひかりは床に座り、メモを片手に考え込んでいた。
ドアが開き、のぞみが顔を出す。
「……あれ。なんでおるん」
そう言われて、ひかりは顔を上げる。
「明日、初めて東京やろ」
「何しゃべったらええか、いろいろ考えててな」
メモをぱらりとめくりながら、続ける。
「家で考えよ思ったんやけど、なんか、ここのほうが落ち着くねん」
少し間を置いて。
「……で、あんたは何しに来たん」
のぞみは肩をすくめた。
「いや。明日からイベントや思たら、もうちょっと練習しとこかなって」
軽く足首を回しながら言う。
「振り間違えたら、恥ずかしいやろ」
のぞみは、もともと演技志向で、ダンス経験は他のメンバーほど多くなかった。
オーディションでは、ルックスとミュージカルで鍛えた歌唱力でメンバーに残ったが、そこからは必死だった。
いつも残って何度も練習し、少しずつ、他のメンバーに追いついていった。
ひかりは、そんなのぞみの姿をずっと見ていた。
「……じゃあさ」
ひかりは立ち上がり、微笑む。
「一緒に練習しよか」
二人は並んで、音を流した。
練習を終え、休憩。
床に座り、ペットボトルの水を飲みながら、息を整える。
少し沈黙が続いたあと、
のぞみがぽつりと口を開く。
「なあ、ひかり」
「ん?」
「なんか……うちら、目標とかあるん」
「……なんで?」
「いや、そういうのあったほうが、頑張れるやろ」
ひかりは、少し考える。
「……そうやなあ」
視線を天井に向けて、
「とりあえず、武道館はいきたいな」
のぞみは、思わず吹き出した。
「え、なに。おかしい?」
「いや……普通、もうちょっと刻むやろ」
「で、武道館行って、そのあとはどうするん」
「わからん」
ひかりは、正直に言った。
「でも、行けるとこまで行こ」
二人の視線が合う。
少し間を置いて、のぞみは、静かに言った。
「……わかった」
そして、はっきりと。
「それやったら、私はあんたについていくわ」
ひかりが目を瞬かせる。
「ひかりが、私の目標や」
二人は微笑み合い、
右手で、軽くグータッチをした。
――それから、3年。
エトワールは解散した。
白石ひかりは、マネージャーのもりっちと共に、事務所を去る決断をする。
"目標"を失った高橋のぞみは、本名の「大橋希望」として裏方に転身し、事務所に残る道を選んだ。
希望は、マネジメント部の新人として、新しい仕事を必死に覚えた。
そして、初めて任されたタレントが、事務所に入ったばかりの朝倉ひなただった。
正直、気負いはあった。
今になって思えば、まだ16歳のひなたに、厳しすぎたところもあったかもしれない。
それでも――
今のひなたの成長を見ていると、あれでよかったのかな、とも思う。
『Atelier Étoile』という名前を目にして、希望は、そんなことを思い出した。
けれど、感傷には浸らない。
明日のスケジュールをもう一度確認し、
希望はすぐに顔を上げた。
切り替えは、もう身についている。
彼女は、前を向いていた。




