表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の城は心の奥に  作者: X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

8話

 謎めいた笹人。

 マークの質問を無視し、セーレは就寝した。やがて彼女は、戦時下の夢の中へと誘われていく。

 

 えっぐ、えっぐ――少女の泣き声が、暗い部屋の中に響いていた。

 

「うるさい、セーレ! 寝られないだろうが、私たちは明日も早いんだよ、早く寝ろ」

 

 怒ったヘーゼルの苦言が飛ぶ。

 

「あなたには人の心はないの? 今日、倒した敵の顔が浮かび上がってくるのよ。寝られる訳ないじゃない。頭まで筋肉に侵されてしまったのね」

 

 白髪頭の少女は、戦争の惨さを知っていた。筋肉隆々なお婆さんも困った様子で、不満を漏らす。

 

「アーネスの奴、新しい仲間だって連れて来て、年長者って理由だけで、私に面倒ごとを押し付けやがって」

「ちょっと、話聞いてるの!!」

 

 少女は激しく抗議した。

 

「うるさいわ、小娘! あんたも同意してアーネスについて来たんだろう? なら覚悟も決まっているんだろう? 覚悟ができていないなら、今すぐ帰んな! それと、あんまりピーピー鳴いていると『泣き虫』セーレって呼ぶぞ」

 

 ヘーゼルは眼で訴えかける。

 

「覚悟ならできているわ」

「なら早く寝な!」

 

 夜の騒ぎはしばらく続き、数時間後には寝静まった。そうして朝を迎え、歩兵団体との戦闘が開始される。

 

「昨日も見たが恐ろしい力だね」

「素晴らしいよ、セーレ。まるで神の裁きだ。名付けるなら、見えざる断罪者だ! ……良い響きだ。君と巡り会えて良かった。さぁ、言論の自由のため、我等と共に進行しよう」

 

 ヘーゼルとアーネスが見つめる先には、敵の返り血を全身に浴びた少女が立っていた。血塗れのセーレは一人で立ち尽くし、涙を流していた。

 

「はぁ、戦時下の夢か。嫌なことを思い出した」

 

 セーレはそう呟き、起き上がった。

 

 下に敷かれていたゴザと枕代わりのものを掴み、とぼとぼと歩いてマークの鞄の中へ押し込む。代わりに、タオルと歯ブラシを取り出した。

 

◆◇◆◇

 

 歯を磨き、川の水でうがいをする。歯ブラシを石の上に置き、やや雑に衣服を脱ぎ捨てた。全裸になったセーレは、自身の体を丁寧に清めていく。

 その様子を、マークは茂みの影に身を潜めて覗き見していた。思わず、やはり良い体つきをしている、と感じてしまう。

 囚人だった頃は痩せていたが、最近は食事量も増えていた。栄養が適切に行き渡ったのか、体型は誰もが羨むほどだった。

 

 五分後、水から上がり、タオルで頭と全身をよく拭く。脱ぎ捨てた衣服を着直し、左手の蛇の刺青に触れて本を召喚した。

 祈りの時間だと察し、マークは気づかれないよう、ゆっくりと後退した。

 

 十分後、祈りを終えたセーレが戻ってくる。マークは慌てて寝たふりをした。

 

「あんた、覗きの趣味もあったのね」

 

 見下ろすような視線を感じる。

 

「それは、男だからな。つい出来心で……」

「ふふふ、私の裸、綺麗だったでしょう?」

 

 マークは反射的に口走ってしまった。

 

「素晴らしかったです! もう感謝しかありません!」

「もー、この覗き魔が!」

 

 セーレはマークを叩いた。その表情は、どこか寂しげにも見えた。

 

 旅立ちの時刻となり、二人は再び目的地へ向かう。

 

「さて、横槍は受けたけど、気を取り直してクライの研究所へ向かうよ。ほら、覗き魔! 先導しなさいよ」

「本当に申し訳御座いませんでした。許してください。セーレさん!」

 

 セーレは少し口元を緩め、罰の内容を考えながら妥協案を出した。

 

「どうしようかな。あそこの売店でアイスを買って来てくれるなら、許してあげるかもよ」

「アイスですね。すぐに買ってきます」

 

 マークは走り出した。

 ミルク味のアイスキャンディーを購入し、戻るとすぐにセーレへ渡す。彼女は棒を掴み、勢いよく完食した。

 

「あぁ、もっと味わって食べないのかよ」

「食べ方は私の勝手でしょう。それに、早く食べなきゃ溶けちゃうじゃない。ほら、食べ終わったから、さっさと先導!」

 

 マークを前に押しやり、歩き出す。道案内役は迷いなく指示を出し、道中では口論も絶えなかった。


◆◇◆◇

 

 半日ほど進むと、大きな構造物が見えてくる。

 

「随分大きな街ね」

「おぉ、こんな街、初めて見た」

 

 二人が崖の上から見下ろしたのは、機械と重機が稼働する要塞都市だった。巨大なドーム状の壁が街全体を覆っている。

 

「この街のどこかに、変人クライがいるのね。はぁー、もう帰りたいわ」

「ここまで来て、何言ってんだよ。早く行こう」

 

 嫌がるセーレの背を押し、正門へ向かう。

 圧倒的な威容だった。

 

「何これ、デカ過ぎるんだけど。はぁー、帰りましょう」

「もう諦めろよ」

 

 そのとき、羽ばたく音と共に何かが近づいてきた。動物ではなく、コウモリ型の機械だった。先端のカメラと内蔵スピーカーから声が流れる。

 

「ザー、ザー、聞こえるかね?」

「はい、聞こえています」

「あなた方が何者か調べる。その場で待機してくれ」

 

 黄色い光が二人の全身をスキャンした。

 監視モニター室では二人の担当者が分析を進めていた。奥には、退屈そうに椅子に座る女性の姿。

 

「何者でしょうか?」

「男は無害そうだが、女は……何だこのオーラ力は……!?」

「セーレ? ふふふ、いいよ。通してあげて。僕が許可する」

 

 奥の女性が即決した。

 

「大総統様、本気なのですか?」

「あぁ、それと彼女達を僕の研究室へ案内して。以上」

 

 女性はスキップするように出て行った。

 

「……通行を許可しよう」

 

 開錠ボタンが押され、門はゆっくりと開き始めた。

 

「ザー、ザー、通行は許可された。旅人よ、このままコウモリナビの後に続いてください」

伝えるや フォローも星 作者へ


読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ