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銀の城は心の奥に  作者: X


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7/8

7話

 セーレと旅をして、一週間が経った。

 マークは「彼女のこと」が少しだけわかってきた気がしていた。この日記は、見つかれば燃やされそうだと判断し、こっそりと書かれている。ここには、彼女の「特徴」が記されていた。

 

 その一、道に迷うことが多い。

「方向音痴の度合い」が異常だ。昨日など、「あっちよ」と指差した先が崖だった、ということも普通にあった。

 ――マークがいなければ、どうなっていたのか分からない。

 

 その二、名前を覚えてくれない。

 出会って一週間と少し。未だに名前ではなく「こいつ」や「あんた」と呼ばれている。これも呪いの制約なのかと疑っている。

 ――怪しい。もしかすると、相当な天然なのかもしれない。

 

 その三、食べ物や着る服に無頓着。

 女性らしい振る舞いや所作が皆無で、本人もまったく気にするそぶりを見せない。美人でも許されないことはある。

 ――髪の色が変わると、性格も変わればいいのに、とマークは思っていた。

 

 その四、彼女の能力は精神に干渉するもの。

 これは推測だが、「洗脳の類」だと思われる。相手を意のままに操る力だ。

 ――ちなみに、手を前に出す英語の詠唱は、ただの演出らしい。

 

 その五、彼女の力の源流は月と深く関係している。

 月光を浴びて力を蓄積し、それを少しずつ使っているようだ。ストレス解消にもなっているらしい。

 ――充電式の狼女か、とマークは内心で突っ込んだ。

 

 その六、彼女はどこか優しい。

 死者を蔑ろにせず、操った相手にも最低限の敬意を払う。根は素直で、祈る姿に嘘がない。

 ――決して、絶対的に強い女性ではないのだろう。

 

「ちょっと、あんた。いつまで起きてんの」

「何だ起きてたのか」

 

 セーレは薄暗い中、目を凝らして文章を読もうとした。

 

「ん……何それ……」

「あ、これ……えっと……そう、献立表を書いていたんだよ。料理もバリエーションが多い方がいいと思って」

 

 マークは左手で日記を包み隠した。

 

「そう、明日も早いんだから、早く寝るのよ」

 

 日記は鞄の中へしまわれた。その鞄は、旅の途中で皿洗いや宅配の日雇いをして購入したものだった。

 何をしているのだろう、とマークは思った。

 

 後先を考えず、セーレの旅に同行してしまった。彼女は元囚人で、金銭的余裕などない。街に着けば日雇いをし、野宿が当たり前の生活だ。

 広い部屋や、虫の少ない場所で眠りたい。今戻れば――しかし、あの町はもう捨てた場所だった。

 そう自分に言い聞かせ、マークは眠りについた。

  

◆◇◆◇

 

「ハハハ……」

「こんな、満月の日に来るなんて、ずいぶん運の悪い人達ね」

 

 笑い声が聞こえた。

 夢と現実の区別がつかないまま、マークは体を起こす。そこには、訪問者と歪み合う綺麗な女性の姿があった。

 

「何だ、もう朝か……!? こいつ等、何なんだよ!!」

 

 マークは完全に覚醒した。

 十五人以上の黒衣装の集団が、二人を取り囲んでいた。

 

「さぁ、お迎いに上がりましたよ。我が洗脳の女王セーレ様」

 

 白髪頭の七三分けの男が、蛇のような目でセーレを見据えていた。

 

「誰なのよ? 私は、あなた達のことなんか、知らないのだけど」

「そうですね。偉大なる力を持つ貴方様が、下々の信者を知るはずも御座いません。我らは、セーレ様を崇拝する見えざる優勢思考です」

 

 セーレは思考を巡らせ、やがて思い当たった。

 

「優勢思考? まさか……あなた達は笹人か。なら手加減は一切できないわね」

 

 白髪は銀へと変わり、臨戦体制に入る。

 

「冷静になって下さい。我等が仕掛けた四人の使徒がお気に召さなかったのですか?」

「そう。彼等はあなたの差金だったのね」

 

 紅の瞳に、軽蔑と嫌悪が宿る。

 

「貴方様の願いは、首だけになって、我らと共に祈り続けること」

「そんなこと望んでないわ」

 

 七三の男が手を翳す。

 

「動きを止めよ。Freeze!」

 

 体の自由が奪われた。

 

「素晴らしい拘束力……ですが、なぜ呼吸を止めないのですか?」

 

 不愉快だと、セーレは思った。

 

「記憶を読んであげるわ……えっ……!?」

「読めませんねぇ。我等には加護があります」

 

 跳ね返されるように拘束は解かれた。マーク驚くもセーレは動じなかった。

 

「そんな。月が出てる時の力を……」

「さぁ、導きを与えてあげるわ」

 

 拳が天に突き上げられる。

 

「神罰を与えてあげる! Punishment of sin」

 

 信者達は次々と爆散し、残ったのは五人だけだった。

 

「まだやるの?」

「いえ、今宵は引きましょう」

 

 去り際、七三男は言い残した。

 

「あぁ、また貴方様の顔が見られて幸せで御座います」

 

 その言葉を最後に、笹人達は夜の闇へ消えていった。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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