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銀の城は心の奥に  作者: X


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3/7

2話

 燃え盛る監獄を背に、銀髪が美しく輝き、深紅の瞳は吸い込まれそうなほど妖しく光っていた。

 

「さようなら」

「おい、待ってくれ!」

「……あなたは誰だったかしら?」

 

 引き留めたのは、看守服を脱ぎ捨て、白Tシャツとジーンズ姿になった青年だった。

 

「俺はマークだ。あんたの監視と世話を任されていた……が、職場も焼け落ちて無職になった」

「そうなの。無職さん、頑張ってね。バイバイ」

「おい、待ってくれ! 行くな!」

「話すことは何もないわ。あなたは檻から解き放たれ、自由になった……私は自由になった豚には興味がないの」

 

 セーレは興味を失ったように、その場を立ち去ろうとした。しかし、マークはなおも食い下がる。

 

「待ってくれ。絶対に得する話があるんだ」

「あなただけで得しなさい。バイバイ」

「どこへ行くつもりだ? 三年の間に、この世界は大きく変わった。一人で目的地までたどり着けるのか?」

「しつこい男ね……私の勝手でしょう。もう時間がないの。バイバイ」

「いや、頼む! 行かないでくれ!」

 

 マークは思わず強引に彼女の腕を掴んだ。しかし――止まらない。むしろ、引きずられるような強い力を感じた。三年間牢にいたとは思えない力だった。看守として鍛えてきた自分よりも、明らかに強い。

 焦りを覚えたその瞬間、セーレが声を荒げた。

 

「いい加減にしなさい! なら、また私に従わせてあげる――」

 

 そのとき――夜空の月が雲に隠れた。

 同時に、セーレの体がふらつき、その場に倒れ込む。

 彼女の銀髪が、白髪へと戻っていった。

 

「もん、もん……あなたのせいで、時間切れになっちゃったじゃない……何てことしてくれるのよ、もー、もー」

 

 手足をばたつかせ、子牛のように鳴いていた。

 

「……いや、ごめんって……え、セーレ?」

 

 彼女はぐったりと気を失っていた。よく見ると、両足には拷問の傷が無数に刻まれ、さらに火傷まで負っている。

 

「……こんな状態で歩いていたのか。正気の沙汰じゃない……」

 

 マークは唾を飲み込んだ。

 今すぐ通報すれば、自分の立場は守れる。だが、迷いの末――彼は彼女を背負った。

 

「軽いな……」

 

 ぼろぼろの体を抱えながら歩き出す。胸に伝わる感触に、思わず視線を逸らしつつ、夜空を見上げると、星が静かに瞬いていた。

 

◆◇◆◇

 

 ――コンコン、タタタタ。

 セーレは、微かな物音を感じ取り、ゆっくりと目を覚ました。

 視界に入ったのは、汚れた木製のベッド。

 三畳ほどの狭い部屋には物が散乱し、足の踏み場もない。

 

「……ここは?」

「おはよう、セーレ」

 

 声の主はマークだった。

 

「どちら様? ……ああ、しつこい男か」

「マークだ」

「そう……それで、ここはどこ?」

「俺の家だ。倒れた上に傷だらけだったから、連れてきた」

「別に頼んでないわ……イタッ……」

 

 起き上がろうとした瞬間、火傷の痛みが走り、再び身を引く。

 

「その傷じゃ歩くのも難しいだろうな。それに、君の髪……銀髪から白髪に戻ってる」

「あなたが邪魔しなければ、目的地に辿り着けたのに……」

「目的地はどこなんだ?」

「関係ないでしょ」

「関係ないけどさ……利用するだけ利用してポイ捨ては、ちょっと酷くないか?」

「地図はある?」

「ああ、持ってくる」

 

 マークは部屋を出た。

 セーレは横になったまま、左手の掌を見つめる。

 そこには、赤い蛇の刺青が刻まれていた。

 

「はぁ、全身痛い……」

 

◆◇◆◇

 

 マークの補助を受け、セーレは車椅子に乗り、二人で目的地へ向かうことになった。

 最初の目的地は、山の麓に住むヘーゼルという女性のもと。治療のエキスパートだという。

 麓に近づくにつれ、深い霧が立ち込めていった。コンパスと地図を頼りにしても、道を見失いそうになる。

 

「本当にこっちで合ってるのか?」

「あそこよ」

 

 セーレが指差した先には、山小屋のような家が建っていた。

 だが――煙突から異常な量の煙が噴き出している。

 まるで、霧を生み出しているかのようだった。

 セーレは声を張り上げる。

 

「ヘーゼル! 私よ、セーレ! 三年ぶりね!」

「……その声は、セーレなのかい?」

「そうよ! 久々なんだから、顔くらい見せてほしいな! それと、歯と足の治療をお願い!」

「セーレ!!」

 

 扉が開いた。

 そこに立っていたのは――筋肉隆々の女性だった。

 マークは言葉を失う。年老いた女性とは思えない体躯だった。

 だが、それ以上に衝撃的だったのは、彼女が斧を構えたことだ。

 

「帰んな!! この裏切り者の馬鹿小娘が!」

「え……酷くない? かつては一緒に言論の自由を勝ち取るために戦った仲じゃない!」

「うるさい!! 面倒ごとを持ち込むんじゃないよ!!」

「困るなぁ。見てよ、この歯と足。あなたの力で治してくれないと、どうにもならないの」

「お断りだよ!」

 

 ――バタンッ!!

 扉は乱暴に閉められた。

 

「てめぇ、このババア……! 三年も牢に入れられたのは、あんたのせいだろうが!!」

「小娘が! 本性を晒したね……」

「ふふ……ええ、そうよ。だから、やってもらうわ……力ずくでね!」

 

 その瞬間――三人の暗殺者が、影の中から姿を現した。

 

「――って、違う! 私じゃない! 相手するのはそっち!」

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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