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銀の城は心の奥に  作者: X


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20/26

20話

 マークは、セーレとビィシャアのそばまで、バイクを徐行させながら近寄った。

 

「とりあえず、どこかで体を休めたいわ」

「それなら、セーレ。私の村へ招待するわ」

 ――ビィシャアが、ぐっと身を寄せてきた。

 

「……村か、ありがたいわね。それなら、あなたに案内をお願いしましょうかしら」

「えーと、ビィシャアさん。バイクは二人乗りなんだが、君の村はここから遠いのか?」

「遠くはないわ。それに、私にも移動手段ならあるわ」

 

 ビィシャアはポーチから石を取り出した。その手が勢いよく振られ、火柱が立ち上る。

 マークは思わず「中二病でも発症したのか」と心配になった。とたんに火は消え、ビィシャアが握っていた手を開く。赤い石が輝いていた。その石を、彼女は上空へ投げた。

 

「何をしたんだ?」

「今からよ。見てなさい」

 

 砕けた石は地面に落ち、触手のように柔らかくなって周囲のオアシスの水、地面の土、草花を吸収していく。

 やがて、石だったものは馬の姿へと変化した。赤い鉱石でできたそれは、ガラス細工のような美しい彫刻にも見えた。

 

「私はこれに乗っていくわ」

「凄いな……これは何なんだ?」

「これはね、このブレスレットのおかげなの」

「そのブレスレットは宝飾や飾りが施されているな。かなり高価なものなのか」

 ――ビィシャアは少し考えてから、返答した。

「高価かどうかは知らないわ。けど、このブレスレットには特殊な魔力が込められているようです」

 

 ビィシャアとマークがブレスレットの話をしている様子を、セーレは黙って静観していた。

 セーレには、そのブレスレットに見覚えがあった。

 かつて、召喚術師を輩出し、戦時下に参加した一族があった。その名は『ネイサン』。

 彼らは鉱石を自在に操るという。

 

「さぁ、セーレ。案内するわ。私の後についてきてね」

 

 ビィシャアがやけに懐いているように見えるのは、気のせいだろうか。

 セーレを「憎む」と口にしていた気持ちは、すでに消えたのか。

 そんな思いとは裏腹に、ビィシャアは足早に村への道を案内していった。

 

◆◇◆◇

 

「何か、薄暗い村だな」

 

 村の入り口には、異様な雰囲気が漂っていた。

 家の外壁はすべて黒。怪しげな薬を売る老婆も黒ローブを着用している。

 子供の姿はあるが、笑い声は聞こえない。

 空気が重い。雨上がりのような、じめじめとした湿気を、マークは肌で感じ取っていた。

 

「私の家はあれよ」

「やっぱり、黒なんだな」

 

 ビィシャアが指さした家は木組みで、外壁はやはり黒だった。もはや、この村のしきたりなのだろう。

 

「ただいま、ママ」

 ――ビィシャアが玄関ドアを開ける。

 

 その先には、四十歳そこらの女性がトマトを包丁で切り、サラダを作っていた。

 ビィシャアは母親に駆け寄り、セーレとマークを紹介する。

 

「お母様、初めまして。私はセーレと申します」

 

 家の中は黒で統一されておらず、ごく普通の住居だった。マークは密かに「黒でなくて良かった」と思った。

 ビィシャアの母親は、料理をする手を止めた。

 二人に近づき、挨拶をする。

 セーレは自己紹介の後、膝をつき、深く頭を下げた。

 

「私は、あなた方ご家族に、許しがたい行いをしてしまいました」

「え……急に、何をなさるんですか」

 ――その行動に、母親は驚いた。

「エドモンド家のご主人は、私たち『言論の自由』の活動メンバーでした。その方は偵察部隊のリーダーで、情報のためなら命を投げ出すことを厭わない、勇敢な人でした」

「知っています。主人は仕事一筋でしたから」

 

 母親は頷き、ゆっくりと口を開く。

 

「私は、自分の弱さと未熟さで、守るべき人たちが殺される姿を、ただ傍観することしかできませんでした。すべて、私が不甲斐ないからです。申し訳ございません」

 ――セーレは、頭を深々と下げた。

 

 歩きながら、ビィシャアの母親はセーレの肩に手を置き、首を左右に振った。

 

「あなただけが悪いわけではありません。私も主人が亡くなって驚きはしましたが、彼も本望だったのだと思います」

「ですが……」

「セーレさん、あなたはお優しいのですね。こうして、一兵士の家族にまで律儀に謝罪してくださる。そのお気持ちだけ、いただいておきます。どうか、ご自分を責めすぎないでください」

 

 セーレの瞳に涙が溢れ、母親の両手を掴んで、再び深々と頭を下げた。

 

「……ありがとう」

 

◆◇◆◇


 ビィシャアの母親は料理に戻り、娘に「この村の紹介をして」と頼んだ。

 セーレとマークは、ビィシャアの案内で村を見て回る。そうしてある場所で足が止まった。

 そこでは、一際大きな歓声が上がっていた。

 

「これは、巨大なモニター?」

「そうよ。凄い技術でしょう。なんでも天才発明家が作ったそうよ」

「あぁ、クライか」

 

 どうやら、どこかの内政放送をライブ配信しているようだった。

 

「この者を処刑する!!」

 

 罪人の顔を見た瞬間、セーレは急に頭を押さえ、苦しみだした。

 何か――記憶の重要なピース。

 だが、記憶に蓋をされたことによる弊害のような感覚が、彼女を襲う。

 その人物を見ると、胸が張り裂けそうに苦しい。

 マークとビィシャアが「どうした」と心配そうに近寄る。モニターの音声は続く。

 

「この者は、不敬にもセーレ様の恋人を名乗った。よって、罪人は死刑との判決を、アーネス様が下された」

 

 モニターには、刑の執行を待つ囚人の前に、王城から一人の男が現れる。

 胸には数々の勲章、白マントを携えていた。

 

「あなたなの……アーネス? どうして……あなたに、何があったの……」

 

 視線は交わらない。

 古き面影に、月は困惑した。

 優しさの奥に潜む影の情報が伝達される。

 理解が及ばないまま、二人の距離は、架空のものとなっていた。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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