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銀の城は心の奥に  作者: X


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18/26

18話

 セーレは、ゴンドラの窓からエドモンドが倒れる一部始終を瞳に写し、記憶した。そして、彼を殺害したアドモスの顔も脳裏に焼き付けた。セーレの髪が風に(なび)き、銀髪から白髪へと戻っていく。視界がぼやける中、一点を注視する。

 

「アドモス、私はあなたを許さない」

 

 大男は興味を失ったのか、エドモンドを放置し、その場を立ち去った。

 恐怖の権化と化した背中は、深淵を覗くべからず。

 ゴンドラも意志に反して、目的地へと向かった。

 敗者であるセーレとヘーゼルを乗せ、山頂から下流へと進んでいく。その間に、セーレの意識は徐々に薄れていった。

 

(もう限界……)

 

 目的地に着いたのか、ゴンドラががたがたと揺れる。扉が開き、複数人の話し声や歩き回る音が微かに聞こえたが、限界を迎え、セーレは気絶した。

 

◆◇◆◇

 

「おや、お目覚めだね。セーレ」

「アーネス……」

 

 セーレはキャンプの簡易ベッドで目を覚ました。横目を動かすと、隣のベッドは空いている。先程まで誰かがいたようだった。

 

「ヘーゼルは?」

「隣のベッドにいたが、君の治療をしたあと、食糧庫へ向かったよ」

「そう……大事がなくて良かったわ」

 

 アーネスは椅子から立ち上がり、セーレに対し暫く休暇を取るよう笑顔で伝えると、その場を後にした。セーレが休もうと再びベッドに横たわったところ、偵察部隊の一人がお見舞いに訪れた。

 

「セーレ様、任務お疲れ様でした」

「偵察部隊の方々も、援助と密偵調査、お疲れ様でした」

 

 部隊と副隊長を名乗る年配の男性が、敬礼する。

 

「お褒めの言葉、僭越至極(せんえつしごく)であります」

 

 あまりに大げさな忠誠心に、セーレは驚愕した。

 

「はは……それで、あなた方の部隊長であるエドモンドなんだけど」

「はい。その件はセーレ様もご存知かもしれませんが、エドモンド隊長は戦死されました」

 

 報告を聞き、セーレの胸に胸騒ぎが走る。エドモンドは「戦死」として片付けられてしまったのか。セーレは納得することができなかった。

 

「いえ、あなた方の隊長が戦死したのは……」

「セーレ!」

 

 キャンプテントの入り口を開けたのは、ヘーゼルだった。

 

「お前が何を言おうと、事実は変わらんし、慰めにもならん」

「でも……私たちがもっと強ければ、エドモンドは助かったかもしれない」

「お優しいですね、セーレ様。我が部隊のエドモンド隊長も、良い導き手に恵まれ、誉れだったと思います。それでは」

 

 副隊長はそう言い残し、立ち去った。

 セーレは自身の不甲斐なさと弱さを嘆くしかなかった。

 月の破片が欠けるような想い。自分の力は三日月ほどしかないと嘆く。不甲斐なさを並べても、見え方は変わらない。讃賞ではなく、軽罵(けいふ)を渇望していた。


 そして過去の話を終え、現実のセーレはビィシャアと向き合っていた。

 

「……以上よ」

「そんな……」

 

 暗い表情のまま語り終えたセーレに対し、ビィシャアは話を信じるべきか困惑していた。自分の「行動に意味があったのか」、それとも「無駄だったのか」。頭の中で整理できず、答えの出ない苛立ちに唇を噛む。

 

「いや、セーレ。お前がしっかりしていれば、パパが死ぬことなんてなかった」

「その通りよ。私がもっと泣き虫ではなく、アドモスより強ければ、エドモンドを守れたかもしれない」

 

 責められながらも、セーレは握り拳を固くするしかなかった。

 

「何よ、開き直るの? それが分かっているなら、どうにかできたはずでしょう!」

「無理よ」

 

 ビィシャアが激しく非難するのも無理はなかった。虚しさを隠し通せるはずもない。

 

「あなたには分からないかもしれないけど、私の感情は、あの戦争で壊れているの」

 

 涙を流しても、過去には戻れない。それは、戦争を経験した者にしか分からない現実だった。

 

「私だって、本当は人殺しなんてしたくない」

「なら、そんなの辞めればいいじゃない」

 

 理解されるはずがない。それでもセーレは諦めず、顔を上げた。

 

「辞めればいいなんて、そんな簡単なことはできないの。誰一人止まらないし、辞めてくれない。皆、敵意を剥き出しにして私を見る」

「わからないわ……」

 

 ビィシャアは頭を押さえながらも、セーレの後悔を聞き続けた。

 

「私には、戦争を起こした責任がある。もう一生、償っていかなければならない十字架なの」

 

 ビィシャアはさらに苛立ち、唇を噛む力を強めた。血が滲み出る。その様子を見て、セーレは自分にできることを悟った。

 

「あなたの拘束を解くわ」

 

 力の行使が終わり、セーレの髪の色は銀髪から白髪へと変わる。拘束を解かれたビィシャアは、左手に短剣を握ったまま立ち上がった。白髪となったセーレは涙を流し、その場に座り込む。左手を上げかけては下ろし、短剣は地面に落ちた。

 

「そうか……パパはセーレのために。私のやったことって、無駄だったのかな。はぁ、生きる意味、なくなっちゃった」

 

 その言葉を聞き、セーレは立ち上がる。ビィシャアの瞳が、慕い寄る子のように、彼女の瞳の奥へ飛び込んできた。

 

「いざとなったら、死ぬ覚悟で情報を守れ。王城の捕虜になるな。奴らの情報を奪い取れ――あなたのパパは、そう言ったわ」

 

 セーレの言葉に、ビィシャアの涙は止まらなかった。

 

「娘のあなたも、死んで諦めるつもり? そうじゃないでしょう! エドモンドは間違っているわ。死者の魂と向き合って、父親の良い意思を引き継ぎなさい。情報なんて……死と釣り合うわけないじゃない」

 

 セーレはビィシャアの両肩を力強く掴み、視線を合わせた。

 

「意思を引き継ぐなんて、そんなもの無意味よ!」

「無意味なんて言わせない。エドモンドはあなたを残した。そこに意味を問う必要はない。あなたは生きていなきゃだめなのよ!」

 

 セーレの叫びは、確かにビィシャアの心へ届いた。

 セーレはそのまま、優しく抱擁する。

 

「……本当はね。パパに生きていてほしかった」

「そうよね。つらいわよね」

「私は、あなたが憎い」

「憎み続ければいい。それで、あなたの心が少しでも晴れるなら」

 

 月の彼方へと恨みを託す。

 数えきれない意思を背負った城は、崩れることを知らない。

 深い信念と自由を求め、掬い取った負の感情を、セーレは確かに受け止めていた。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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