表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の城は心の奥に  作者: X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/26

17話

 再びの過去。

 歩兵団は、セーレとヘーゼルを追っていた。両者の距離が縮むことはなかった。むしろ、距離は開く一方だった。歩兵団の将は、彼女たちの運動能力に畏怖していた。

 

「これが、見えざる断罪者セーレと回帰の選定者ヘーゼルの実力か。しかも王城の神器まで持ち出しおって。許さん。必ず二人を討ち取れ。歩兵団の騎馬隊よ、前進せよ!」

 

 歩兵団は山道に足を取られながらも、二人を追い詰めるべく、懸命に足跡を追った。

 

 その頃、セーレとヘーゼルは神器の力に驚いていた。

 セーレは、本気で走ったらどうなるのだろうと胸を躍らせていたが、あくまで歩兵団との程よい距離を保つよう心がけていた。

 

「これが神器の力。身体能力が人間の限界値を超えているわ」

「能力者も身体能力は高いが、さらに高めるとはね」

「ヘーゼル。私、こんなに高く飛んだの初めて」

 

 神器の力は、持ち主の身体能力を底上げしていた。足の速さ、瞬発力、肺活量、握力。そのすべてが常人を超越していた。

 

 その結果、エドモンドが指定した陽動ポイントへ予定より早く到着してしまう。あまりの早さに、ダム監視の別動隊の一人が思わず跳び上がった。

 

「早く着き過ぎちゃったかな」

「暫く待つか」

 

 二人は滝の上で、歩兵団を待ち構えた。

 

 二十分後。

 歩兵団は、二人のいる滝の下まで到達した。

 

「貴様らはここで、必ず仕留める。弓と鉄砲隊、前へ」

 

 ヘーゼルは後方に控える別動隊へ手で合図を送った。

 ダムの杭が破壊された瞬間、勢いよく水が噴き出す。

 同時に、二人は高く跳躍し、木の上の枝に乗った。ヘーゼルが乗った木は細く、枝は折れたが、すぐに太い枝へと飛び移った。

 

「ぐわぁぁぁぁっ!」

 

 歩兵団は、次々と川に巻き込まれていった。

 その光景を目にし、セーレはその場にしゃがみ込み、祈るように涙を流した。

 やがて、水の流れは緩やかになった。

 二人は木の枝から地面へと飛び降りた。木の下にいた別動隊の面々は驚いたが、セーレが作戦終了を告げると、足早に合流ポイントへ向かった。

 

「終わったな。私たちも合流ポイントへ行くぞ」

「えぇ、行きましょう」

 

 二人は合流ポイントへ向かった。

 

◆◇◆◇

 

 山頂に設置された機械式ロープウェイ。

 離脱方法は単純で、十人乗りのゴンドラに乗り込むだけだった。すでに何人かが搭乗し、離脱を完了していた。

 

「後はセーレ様、ヘーゼル様と共に脱出すれば完了です」

「エドモンド、首尾は万全のようね」

「神器はなかったが、王城の隠し通路の見取り図を手に入れたようだね」

 

 作戦完了の敬礼が交わされた。

 

「はい、ヘーゼル様、セーレ様。お褒めの言葉ありがとうございます」

 

 その瞬間、二人の全身が震え上がった。

 桁違いのオーラ。畏怖と緊張が交錯し、足が痙攣する。逃げ出したいという本能的衝動が湧き上がった。

 ――警鐘が鳴る。

 

 静かに、ゆっくりと、大男が姿を現した。

 

 突然の出来事に理解が追いつかない中、セーレとヘーゼルは神器を構え、臨戦体制を取る。

 鋭く、本質を見抜く眼光が二人を威圧した。

 

「それは、神器か? 面白い」

 

 思考の時間は与えられなかった。

 脅威の排除――それだけが目的だった。

 二人は神器で先制攻撃を仕掛けたが、大男は素手でそれを受け止めた。表情には、わずかな落胆すら浮かんでいた。

 

「練度が足らんな。つまらん」

 

 大男は神器を掴んだまま、ヘーゼルとセーレの身体を引き寄せ、その勢いを利用して掌底を腹部に叩き込んだ。

 二人は後方へ吹き飛ばされる。

 大男の瞳には、わずかな驚きと期待が宿っていた。

 

「銀髪の女。面白いぞ。今、ワシの体を操っただろう。そっちの女は防御壁を張ったな。しかし、間に合わなかったようだな」

 

 セーレは洗脳の力によって致命傷を免れていた。

 ヘーゼルは防御壁が間に合わず、意識を失っていた。

 二人は経絡のツボを突かれ、身体がしびれて動けない。

 大男は興味深そうに、銀髪の女――セーレを観察した。

 

「貴様、他人の死を恐れているな。そんなものは戦いには不要だ。どれ、ワシが恐怖を消してやろう」

「……なぜ、そんなことがわかる?」

 

 大男の左手が赤く染まり、右手に持った焼印に熱が溜められる。

 それはセーレの左手へと押し当てられた。

 

「うぐっ……」

 

 気絶しそうな痛みに、セーレは耐えるしかなかった。

 焼印が離されると、左手には赤い蛇の刺青が刻まれていた。

 大男は別の焼印に持ち替え、ヘーゼルの左腕付近に赤い鷹の刺青を彫った。

 

「……あなたは……何者なの?」

 

 巨大な膂力が、それに答えるかのように空気を震わせる。

 

「我が名は、アドモス。その名を刻むといい」

 

 セーレは痛みと恐怖で満身創痍だった。

 そのとき、両膝と背中を突然持ち上げられる。抱え上げたのは、エドモンドだった。

 

「セーレ様、お逃げください。あなた方は、ここで死んでいい御方ではありません」

「無理よ、逃げなさい」

 

 エドモンドは、作戦への絶対服従を誓っていた。

 

「行ってください。神器と共に。あなたの洗脳なら、気絶したヘーゼル様を操ることは可能です」

 

 一瞬の逡巡。

 やがて、エドモンドは深く息を吸い、目を見開いた。

 

「失礼します……いいから、黙って行け! ここは私、偵察部隊のリーダーとしての任務です」

 

 その瞬間、月は雲に隠れ、風が吹いた。

 背中を押されるように、命を賭けた最後の作戦が断行される。

 

「さぁ、“情報セーレとヘーゼル”を、私が命懸けで守ります」

 

 エドモンドはセーレをゴンドラへ乗せた。

 セーレはヘーゼルを操り、二人分の神器を回収させ、ゴンドラに乗り込ませる。

 

(完了、戻ってきて)

 強く催促するが、返事はなかった。

 

 搭乗を確認すると、エドモンドは下降ボタンを押し、外側から扉を閉めた。

 その間にも、アドモスはゆっくりとゴンドラへ近づいてくる。

 エドモンドは決意のナイフを構え、鋼鉄と見紛う腹部へ突き刺した。

 

「わからんな。お前如きが、なぜ立ち向かう?」

「それはな、あの人たちに、我らの意思を託しているからだ」

 

 ナイフは腹筋に阻まれ、無惨に折れ曲がった。

 ゴンドラの窓越しに、セーレは涙ながらに叫ぶ。

 しかし、その名を呼ぶことはできなかった。

 

「……もう良い。さっさと消えよ」

 

 アドモスの手刀が、エドモンドの心臓を貫いた。

 最後の顔には、任務達成の笑みが浮かんでいた。

 

「エドモンド――――――――!!!」

 

 計り知れない衝撃と、名を呼ぶ悲痛な叫びが、夜空に響き渡るのであった。

伝えるや フォローも星 作者へ


読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ