14話
セーレとマークは、正面入り口まで到着し、整備士のコーンと再会を果たした。
「おぅ、マーク。バイクを派手に壊したみたいだな」
「すみません、おやっさん」
――スライディング土下座。
「構う事はねぇ、頭上げろ。バイクは壊れるもんだ。壊れたらまた修理すればいい」
「おやっさん!!」
男同士のやり取りを見て、セーレは少しだけ興味を示し、バイクの話に耳を傾けた。
「いいか、バイク乗りに必要なのは心だ」
「はい、勉強になります」
――マークは聞いた内容を日記帳に書き留めていた。
「それでな、バイクは風と一体化することが大事でな」
「それは、自分も体験しました」
「それでよ……」
話の内容は要領を得ず、セーレには理解しきれなかった。結局のところ、好意を持てる話題ではなかった。
「……あのぅ、バイク乗りの心得とか、どうでもいいので。さっさと、私達のバイクの引渡しを済ませてください」
その指摘を受け、コーンはサイドカー付きのバイクを工場から引き出してきた。サーメスとの戦闘で転倒した際についた傷は補修され、表面は丁寧に研磨されている。
「おやっさん、ありがとうございます」
「いいってことよ」
――二人は固く握手を交わした。
その間に、セーレはバイザー付きのヘルメットを被り、立ち止まることなくサイドカーへ乗り込んだ。そして、話し込む二人を眺めながら、頬杖をついた。
「では、お世話になりました」
「マーク、そのバイクを頼んだぜ」
「はい、おやっさん」
バイクのエンジンがかかり、最牡の正面入り口から外へ走り出す。アスファルトの上を走るバイクは、太陽の光を反射し、眩く輝いていた。
◆◇◆◇
しばらく走ると、道はアスファルトから砂漠地帯へと変わった。長距離を走るうちに、道と呼べるものは失われていく。
「さぁ、次は私の神器探しよ」
「セーレ」
マークは以前から気になっていたことを口にした。
「何よ」
「神器探しだが、君の神器はどんな形をしているんだ?」
――彼女は即答する。
「うーん、見た目は槍ね」
「槍?」
「そう。穂は十文字、柄は赤色、石突には獅子がついているわ」
マークの脳裏に、一つの名前が浮かんだ。「アテーナー」だ。
「そうか、わかった。クライさんから貰った探査機に反応はあるかい?」
「全くないわね」
砂漠の道なき道をバイクで進むが、神器の反応は一向に掴めない。気がつけば、辺りは夕刻を迎えていた。
◆◇◆◇
「セーレ、今日はもうこの辺にしよう。そろそろ野営の準備をしよう」
「えぇ、そうね」
バイクを止め、パーキングブレーキをかける。エンジンキーを引き抜くと、セーレはマークの鞄から四角い小箱を取り出した。
「それは何?」
「クライからの貰い物」
箱を地面に置き、蓋を開ける。
――中身は風船のように膨らみ始めた。
やがて四角形となり、二十畳ほどの大きさに成長する。外観は硬化し、石のような強度を持った簡易施設が完成した。
「これは……凄すぎるな。クライさんの発明は何でもありだ」
「さすが天才ね。これなら朝方の炎天下でも快適に寝られるわね」
セーレは施設のドアに手をかけ、中へ入った。
内部には四つの部屋があり、その一つを開けると、固形食料がぎっしりと詰め込まれていた。
「今日は、これを食べたら、さっさと寝ましょう」
セーレは固形食料をマークに手渡す。
袋から取り出した食料はビスケットのような形状だった。一口かじると、苺そのものの味が広がる。
「何だこれ、見た目はビスケットなのに……まるで生の苺だ」
「美味しいわね、気にせずどんどん食べちゃって」
――セーレの食欲は止まらなかった。
「このペースだと、すぐ無くならないか? 節約も考えた方が……」
「大丈夫よ」
セーレは小型の冷蔵庫を持ってきて、中を開けた。そこには袋詰めの固形食料が隙間なく詰まっていた。
「クライのワープ機能で、定期的に送ってもらってるの。これで食料には困らないわ」
「そうだったな……クライさん、大総統でもあった。ワープって、どんな技術なんだ?」
かつて耳元で延々と語られた説明が、マークの脳裏をよぎり、即座に思考から排除された。
「ほら、そんなこと気にせず、明日の活力のために食べな」
セーレはビスケットをマークの口へ投げ入れる。彼女は声を上げて笑った。マークの胸中には、「もう少し、あーん」の可愛げぐらいほしい、とわずかな不満が芽生える。
「じゃあ、私寝るから。アンタもいつまでも起きてるんじゃないわよ」
「あぁ、おやすみ」
簡易施設のノブに手をかけた瞬間、セーレの動きが止まった。周囲には深い霧が立ち込め、不気味な呻き声が響き始める。
「声が聞こえる……誰かしら?」
「セーレ、どこにいるんだ? また優勢思考の連中かもしれない。警戒を!」
マークの声は近くから聞こえるが、霧の中で位置は判別できない。
「ぎぃー……がぁー……」
重苦しい音が周囲を包み込む。
「ふふふ……やっと見つけた」
――若い女性の声だった。
「また優勢思考かしら?」
「いいえ、違うわ」
「なら誰よ!」
霧の中から、黒髪で身なりの乱れた女が姿を現す。剥き出しの殺意を隠そうともしていなかった。
「私はビィシャア=エドモンド! セーレを絶対に許さない。あの戦争でパパを殺した、殺人鬼をこの手で仕留めてやる!」
セーレの表情がわずかに引きつる。
「エドモンド!? まさか、あなたの父親は、私達を補助してくれた……」
「えぇ、そうよ。殺人鬼セーレ。無関係な人間を巻き込んだあなたを、私は絶対に許さない。覚悟しろ!」
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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。




