4.断罪
王宮の地下室でアイリーンは国王陛下の側近である近衛師団隊長のブーリン卿に取り調べを受けていた。
「あなたがお茶に毒を混入したのでしょう?」
ブーリン卿は机を指で叩きながら、頭から犯人がアイリーンであるかのように言い放った。
「わたくしはやっていません。どうして婚約者である王太子殿下をわたくしが殺さなければならないのです?わたくしに何の利があると言うのですか?」
「王太子殿下を聖女様に取られたからではないのですか?仲睦まじい二人に嫉妬した、そうでしょう?」
「嫉妬などしていませんわ。それに、あの場でお茶を飲まなかったわたくしが疑われるのは当たり前、そんな状況を犯人自ら作り出すわけないでしょう?」
「あなたはお二人が毒を飲むのを見届けたらすぐあの部屋から逃げるつもりだったのでしょう?ところが誤ってカップを落としてしまい、すぐに衛兵が駆けつけ逃げられなかった。違いますか?」
「違います!わたくしはただ、第二王子殿下が運んで来たお茶を入れただけです」
「では第二王子殿下が毒を入れたとでも?何のために?第二王子殿下は次期国王に全く興味がない。殺す理由などないでしょう」
「わたくしにだってありません!」
「あなたは王太子殿下を聖女様に取られ、婚約解消が囁かれ、次期王妃の座が怪しくなってきた。最近第二王子殿下と親しいそうですね?王太子殿下を亡き者にして、第二王子殿下に鞍替えするつもりだったのでは?」
「あんな根も葉もない噂、信じているのですか?」
「火のないところに煙は立たないと言いますからねぇ。あなたは信じてしまったのではないですか?その証拠に何度も王太子殿下の執務室に訪れて詰め寄っていたと聞いていますよ」
「確かに何度か聞きに行きましたわ。でもそれは嫉妬とかではなく、ただ噂の真相が知りたかっただけです。ですから、わたくしはやっていません」
「とにかく現場の状況といい、犯行動機といい、あなた以外には考えられないんですよ!」
「でも本当にわたくしはやっていない!」
「もう諦めてください。犯人はあなたと決まっているんですよ。上からのお達しもあるのでね」
(決まっている……?上から……?どういうこと?ではあの噂は王太子殺害計画のために仕組まれていたってこと?犯人をわたくしにする為に?王妃と王太子が亡くなって得するのは誰?……もしかして)
「王太子殿下は、王太子殿下と王妃様はどうなりましたか!?」
「幸い聖女様の力のおかげで命は取り留めましたが、まだ意識不明だそうですよ。どちらにしろ、王族に手をかけたのですから死刑は免れません」
(良かった、まだ生きているのね……でも安心できない、生きているのなら必ずまた命を狙うはず)
「父に、バクルー公爵に会わせてください」
「無理ですね。公爵ならびに家族、臣下全員拘束されていますよ」
(ああ、お父様、お母様……)
◇◇◇
城内の大広場。今にも雨が降りそうな曇天の中、アイリーンの斬首刑が始まろうとしていた。
「王妃ならび王太子に毒を盛り殺そうとした罪により、今よりバクルー公爵令嬢アイリーンの刑を執行する!」
衛兵の死刑執行の声が大広場に響き、その直後、集まった観衆の怒涛の声が無表情のアイリーンに向けて矢のように放たれた。
(わたくしはやっていない……)
取り調べ中、何度も叫んだ言葉をアイリーンは心の中で呟やいた。衛兵に首を抑えられ断頭台に頭を乗せたアイリーンは、何かを言いたくて言えず苦しんでいるような顔をして立っている聖女と目が合った。そして最後の力を振り絞り叫んだ。
「わたくしは、わたくしはやっていない!」
その瞬間、曇天を切り裂くように稲妻がはしり、目を開けられないほどの眩しい光が辺り一面覆った。一瞬の出来事だった。人々が我に返り処刑台に目を向けると断頭台が真っ二つに折れ、処刑台に刺さったギロチン刃のすぐ横にアイリーンが倒れていた。
眩しい光に目が眩み、倒れた込んだアイリーンはそっと目を開け周りを見渡した。処刑台を見た時、アイリーンは目を疑った。
(どういうこと……)
アイリーンは自分の身体に目をやった。
(この服はわたくしが最後に見たエリスが着ていたもの……髪、髪は、ピンク色!)
アイリーンはしばらく混乱していたが、とにかく自分の身体を助けなければと叫んだ。
「アイリーンの死刑は取りやめにしてください。これは無実の罪で罰せられようとしていたので神がお怒りになられたのです!」
観衆はエリスの姿をしたアイリーンの言葉に耳を傾けた。日頃からエリスには世話になっているので、口々に聖女様のいう言葉が正しいと叫び、アイリーンを処刑台から下ろそうとし始めた。
衛兵が止めようとしたとき、エドワードが側近に支えられて現れた。
「今すぐアイリーンをわたしの私室に運ぶように!」
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