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46.復帰

 エリス姿のアイリーンはウォール侯爵邸から戻ると慌ててエドワードの執務室に行った。

 衛兵がエリス姿のアイリーンを見るとにっこり笑ってすぐに執務室のドアをノックした。


「聖女様がお越しです」


 エリス姿のアイリーンが執務室に入るとアーサーもいた。


「王太子殿下ならびに王子殿下にエリスがご挨拶申し上げます」


「やあ、エリス。どうしたの?」


 アイリーンはアーサーがいてはウォール侯爵夫人のことを話せないのでどうしようかと考えた。

 何か察したらしくエドワードが助け舟を出した。


「エリス殿には改築予定の公爵邸の図案を見てもらおうと呼んでいたんだ。エリス殿が公爵邸の女主人なのだから彼女の意見を取り入れた方がいいだろう」


 エリス姿のアイリーンはアーサーを見た。


「そうなんだよ、エリス。陛下が公爵邸を大公邸に相応しいように改築してもいいって予算出してくれたんだ。図案が僕の執務室にあるから取って来るよ」


 アーサーは急いで出て行った。


「…モントロール家の皆様は出て行かれたのですか?」


「夫人と令嬢たちは夫人の実家に行ったそうだ。使用人たちは残りたいものは残し、辞めたいものは次の屋敷を斡旋しておいた」


「そうなのですね…」


 エドワードはわざと咳払いをして、エリス姿のアイリーンの顔を覗き込んだ。


「わたしに何か用があったのでは?」


「そうでした!見つかったのです、わたくしの身体にいる不明者の身体が!」


 アイリーンは思わずエドワードの手を握った。エドワードも握り返した。


「本当か!存外早く見つかって、良かった!それで、誰だ?」


「ウォール侯爵夫人でした。明日わたくしの身体も連れて行こうと思っています」


 エドワードは少し考えてから言った。


「わたしも一緒に行こう。元に戻るのか気が気じゃない。見届けたい」


 エドワードは心配そうに言った。


「わかりました。お願いします」


 エドワードとエリス姿のアイリーンは手を握ったまま見つめ合った。

 そこへアーサーが図案を持って帰って来た。

 エドワードとアイリーンは慌てて手を離し、何事もなかったかのように振る舞った。

 アーサーは二人の様子を見て首を傾げながら図面をテーブルの上に広げ、嬉しそうにエリス姿のアイリーンに説明した。



 翌朝、エドワードとエリス姿のアイリーンとアイリーン姿の不明者が馬車に乗り、ウォール侯爵邸に向かった。


「エリス殿、大分酷い顔だが大丈夫か?」


 エドワードは心配して言った。


「ええ、なんとか。二日連続徹夜しているので」


 エリス姿のアイリーンはアイリーン姿の不明者に向かって言った。


「アイリーン様は調子いかがですか?」


「…ええ…」


 アイリーン姿の不明者は心ここに在らずといった感じであった。


「……今日カイン様はご公務でいらっしゃらないそうですわ。ウォール侯爵様も残務処理で領地にいるそうです。何かあれば執事にと……」


 エリス姿のアイリーンが言いながら、ふとアイリーン姿の不明者を見た。


「アイリーン様、どうなさったのですか?」


 アイリーン姿の不明者が涙を流していた。


「…カイン…‥ウォール……」


 名前に反応しているようだった。アイリーン姿の不明者は両手で顔を覆い、ぶつぶつ言っていた。

 アイリーンはエドワードに耳打ちした。


「以前第二王子殿下と聞いて胸がざわつくとおっしゃっていましたの。だからてっきりエリス様だと思ったのですが、こうしてカイン様とウォールの名前に反応するということは夫人で間違いないようですわね」


「そうか……アーサーに反応したのはマーガレット嬢と関係しているかもしれないな」


 エドワードが言い終わる前にアイリーン姿の不明者が声を上げて泣き出した。


「…マーガレット…マーガレット…マーガレット!」


 そう言うとアイリーン姿の不明者は気を失ってしまった。


「アイリーン様!」


 馬車が侯爵邸に着いた。

 エドワードは気を失ったままのアイリーン姿の不明者を抱き抱え侯爵邸に入って行った。エリス姿のアイリーンも後に続いた。

 執事が出てきて、慌てた。


「王太子殿下!来られるとは存じ上げませんで…その方はバクルー公爵令嬢様ですね。すぐにお部屋をご用意いたします」


「構わぬ、このまま侯爵夫人の部屋へ案内してくれ」


 執事は戸惑っていた。


「執事様、カイン様からお聞きかと。夫人の治癒に参りました。夫人の部屋へ案内してください」


「……承知いたしました」


 三人は執事の案内のもと、侯爵夫人の部屋に入った。

 エドワードは長椅子にアイリーン姿の不明者を寝かせた。


「執事様。終わりましたらお呼びしますのでそれまでは誰も部屋に通さないでくださいませ」


「…承知いたしました」


 執事は不審そうな顔をしながらも王太子殿下がいるので言う通りにした。


「ではわたくしは眠りますね。すぐにエリス様が出て来ると思いますので」


 そう言ってアイリーンはベッド側の椅子に座り眠りについた。アイリーンは深く眠りについてすぐに目を開けた。


「王太子殿下にエリスがご挨拶申し上げます」


 エドワードは少し混乱していた。


「本物のエリス殿か?」


「はい」


「今日はよろしく頼む」


「はい。アイリーン様をこちらに寝かせていただけますか?」


 エドワードはアイリーンの身体をウォール侯爵夫人の横に寝かせた。


「王太子殿下は部屋の外にいていただけますか。殿下のアイリーン様に対する想いは深いのでなんらかの影響が出る可能性があります」


「わかった」


 エドワードはドアの前に行くと振り返り、三人の様子を確認してから部屋の外に出てドアを閉めた。


 エリスは二人の手を握り、目を閉じて祈った。


「女神フレイヤ様。どうかニ人の意識を元に戻してください」


 エリスの身体から淡い光が放たれはじめた。

 エリスはさらに強く祈った。すると目を開けていられないほどの眩しい光が部屋全体に広がった。

 それはドアの隙間からも漏れてドアが光って見えるほどだった。


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