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44.報告

 エドワードとエリス姿のアイリーンはラジールに裁判の報告をするために北宮に来ていた。

 ラジールは他国の王子なので裁判に参加できなかった。


「エリスチャン!会いたかったよぉ」


 ラジールがエリス姿のアイリーンに抱きつこうとして、エドワードが腕を出して阻んだ。


「エリス殿はアーサーの婚約者だ。おまえが触れていい相手じゃない」


「ええーっ!マジでぇ!エリスの心に決めた人ってアーサー殿下だったの!?」


 エリス姿のアイリーンはエドワードを上目遣いで見た。エドワードも微笑んだ。


「え、ちょっと待って。何今のアイコンタクトは?なになに、どういうこと?」


 三人はラジールの部屋に移動した。

 エドワードはエリス姿のアイリーンのことをラジールに話した。

 ラジールは驚いたが、面白がっていた。


「おかしいと思ったんだよねぇ。孤児院に一緒に行ったときの様子、二重人格かと思ったよ。なるほどだねー。そんなことってあるんだねぇ」


 その後、エドワードは裁判での詳細を話した。


「良かったね、解決できて。俺も骨を折ったかいがあったよ。エドワードは本当に骨を折っちゃったけどね」


 エドワードは苦笑いをし、エリス姿のアイリーンは俯いて笑った。


「それにしてもマーガレット嬢は卑劣なわりに、キャサリン嬢のことは始末せずになぜ匿っていたんだろう?」


 ラジールは疑問に感じていたことを口にした。

 アイリーンが答えた。


「ウォール侯爵令嬢はアーサー王子殿下しか見えていなかったのですわ。王子殿下と結ばれれば、王妃にならなくとも良かったんです。だから王子殿下が慕うエリス様が邪魔だっただけで、他の人を殺めるつもりはなかったのでしょう」


 エドワードは少し考えながら言った。


「…そうか、令嬢はアーサーへの想いが強すぎたのだな。それゆえに愛情が執着に変わってしまったのか」

 

 ラジールが指で突くようにエドワードを指しながら言った。


「エドワード君も気をつけなよ。君の愛は重そうだからね。相手への思いやりが消えた時点でそれはもはや愛ではなく、エゴだからねぇー」


 ラジールの言葉に二人は真剣な顔をして頷いた。

 人はいつマーガレットのようになるかわからない。彼女のように犯罪を犯さなくても、相手の意思を無視して束縛することを無意識のうちにする可能性もありうる。

 二人はお互い気をつけようと視線を交わした。



 次の日、ラジールは国に帰ることになった。エドワードとエリス姿のアイリーンは王城の門まで見送りをした。


「今回は本当に世話になった。感謝してる」


 エドワードはラジールに深く頭を下げた。

 ラジールはエドワードの下げた頭を撫でて言った。


「次はエドワード君の番だからね。約束は守ってよ。エリスチャン、楽しかったよ。今度会うときは、本当のエリス嬢とアイリーン嬢に会えることを祈っているよ。」


 ラジールはそう言うと、エリス姿のアイリーンの手を取り甲に口付けた。ラジールの顔はほんの少し哀しそうに見えた。


「じゃあ、またね」


 ラジールは馬車に乗り込んで、窓から手だけを出して振った。

 一行は出立した。


「寂しくなりますわね。ラジール殿下には随分救われましたわ」


「そうだな…さて、残す問題はアイリーンの身体の者の正体だな」


 エドワードはエリス姿のアイリーンの顔を覗き込んで言った。アイリーンは頭を両手で抱え込んだ。


「あー、気が遠くなりそうですわ。全く手掛かりがありませんもの。わたくしの処刑の日にいた者全員ですよ。どうすればいいのか……」


「わたしも最善を尽くすよ。早く元に戻ってもらわなければ、君に触れられないし、アーサーに嫉妬ばかりしていないといけない」


 エドワードはおどけた口調でエリス姿のアイリーンを見た。

 アイリーンは少し照れて俯いた。


「今日は今から離宮に行くつもりだ。アイリーン…の身体に会って来る。バクルー公爵から裁判後すぐにアイリーンを返して欲しいとの申し出があったが、記憶喪失のことを話し、見知らぬ場所に行くとパニックになりかねないと言っておいた」


「そうなのですね。お気遣いありがとうございます…彼女も殿下のことをとても心配していましたから早くお顔を見せてあげてください」


 それきり二人は黙ったまま離宮に向かった。


 離宮に着くとエドワードはエリス姿のアイリーンに向かって頷き、一人で階段を昇って行った。

 エリス姿のアイリーンは庭園に出た。


 エドワードはアイリーン姿の不明者の部屋のドアをノックした。

 部屋から小さな声で返答があったので、ドアを開けた。

 アイリーン姿の不明者はベッドで座っていたが、エドワードの顔を見ると、涙を流しながらベッドを降り、入り口で立っているエドワードに駆け寄ってきた。


「エドワード様、よくご無事で…」


 そう言うとアイリーン姿の不明者はエドワードの胸に顔を埋めようとした。

 エドワードは思わず、アイリーン姿の不明者の肩に手を置いて阻んだ。


「エドワード様?」


 エドワードは微笑むことができなかった。


「元気そうで何よりだ。しばらく留守にしていたから、執務がかなり溜まっている。当分はここには来れない。侍女にはしっかり面倒を見るように言っておく。ゆっくり静養してくれ」


 エドワードはそれだけ言うと部屋から出た。

 アイリーン姿の不明者はしばらく立ちすくんでいたが、ベッドに戻りぼーっと宙を見ていた。


 エリス姿のアイリーンは庭園を歩きながら、エドワードと不明者の再会のことを考えていた。

 二人は抱き合って再会を喜んでいるのだろうか、今のエドワードならそんなことはないはずと思いながら、胸が苦しかった。

 エドワードはあと三ヶ月で成人になる。そうなると成人式と一緒に婚約式も行われる。

 それまでには元に戻りたいとアイリーンは強く願った。


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