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43.裁判当日②

 次の証人がドーワと共に入って来た。

 ブーリン卿の冷や汗が滝のように流れた。ブーリン卿は国王に体調が悪いから別の護衛と交代させて欲しいと耳打ちをした。


「ここにいるように。体調が悪いならそこに座っておればいい」


 国王は冷ややかに言った。


 ブーリン卿はその場に頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 証人は北の領地で暗殺集団に襲われたとき、逃げた衛兵だった。

 衛兵はブーリン卿にもらった薬のこと、北の領地で起こったことを全て話した。

 ホールは今まで以上に騒々しくなった。

 宰相が何度も静かにするように制したが、収まらなかった。


 国王が立ち上がった。するとホールは一気に静かになった。


「ブーリン卿、前へ出なさい」


 国王が言った。

 ブーリン卿は動かなかった。

 衛兵がブーリン卿の両腕を持ち、証言台の横に立たせた。

 ブーリン卿は真っ青な顔に汗が流れ落ちていた。


「今の証言に間違いはないか?」


 国王が聞いた。ブーリン卿は頷いた。


「では誰の指示で動いた?」


「……モ、モントロール公爵様です……」


 モントロール公爵が立ち上がった。


「何を言うか!この戯け者め!」


「控えよ!モントロール!この者たちを拘束せよ!」


 国王が衛兵に指示を出し、モントロール公爵とブーリン卿は拘束された。


「はっはっは、わたしを拘束しても、アーサーが王太子になるのは決まったのと同じだ!モントロールの血を引く者がいずれ王になるのだ!後悔はしていない!」


 モントロール公爵は狂ったように高笑いをした。

 国王が大きくため息をついてドーワの方を見た。


「もうよいのではないか?」


 国王はドーワに向かって言った。

 ドーワは頷いて、ゆっくりと髭を取り、ターバンを脱いだ。


「王太子殿下!」


 ホール全体がどよめいた。

 モントロール公爵はエドワードを見て驚き、その後うなだれて動けない様子だった。


 王族殺害未遂並びに謀反を企てた罪により、モントロール公爵並びにブーリン卿は爵位剥奪、死刑確定。領地ならびに財産は没収、モントロール公爵家の領地は側妃の管理下に置くこととなった。

 マーガレットも同じく死刑。ウォール侯爵家は関与こそしていなかったが、令嬢を管理できなかった罪により、向こう十年間領地を取り上げられた。

 キャサリンは毒薬混入事件の実行犯ではあったが、マーガレットの脅迫があったためと、家族は助ける約束で裁判で証言をすることをエドワードと話していたので本人は終身刑、バロー男爵家は首都からの追放を言い渡された。

 アイリーンは当然無罪、バクルー公爵家の外出禁止令と監視も解かれた。


「モントロールに加担した家門は取り調べた後、追って沙汰を言い渡す」


 国王はそう述べると退室した。他の王族も後に続いた。


 側妃は戻る途中、国王に大事な話があると言って王族を本宮の広間に集めてもらった。

 エリス姿のアイリーンも広間に呼ばれた。

 広間に集まった一同はエドワードの側に集まり喜びを分かち合っていた。


「エドワード、無事で…本当に無事で良かった…」


 王妃は涙が止まらなかった。


「兄上……」


 アーサーはエドワードに抱きつき、声を殺して泣いた。


 側妃はエリス姿のアイリーンをそばに呼んだ。そして一同に注目を促した。


「聖女エリスの本当の名前はエリシア。わたくしの乳母ガーレン子爵夫人の娘でありわたくしの親友エミリアの忘れ形見なのです。そして…わたくしの姪にあたります」


 皆一同驚いた。国王が尋ねた。


「そなたの兄弟は一人のはずだが?」


「そうです。先程死刑判決を受けた者の婚外子になります。わたくしは譲り受けたモントロール家の領地と財産をアーサーとエリシアに継いでもらいたいのです」


 エリス姿のアイリーンもアーサーも初耳で驚いた。


「母上、どういうことですか?」


「アーサーが国の後継者になりたくないことは重々承知のこと。わたくしもいらぬ争いを起こしたくないのです。陛下、モントロールの領地を大公領としてアーサーにお譲りいただけませんか?」


 国王はしばらく考えた。


「……うむ、よかろう。アーサーはそれでかまわぬか?」


「はい、ありがたく頂戴いたします。大公として国に尽くしてまいります」


 一同は拍手で賛同した。

 アーサーは側妃に尋ねた。


「母上、エリスにも継いでもらいたいとは?」


「アーサー、あなたの気持ちはよくわかっていますよ…エリシアにもモントロールの財産を受け継ぐ権利はあると思うのですが、二人で仲良くというのはどうかしら、エリシア?」


 エリス姿のアイリーンはどう答えてよいのかわからなかった。


「陛下、まだ結婚には早いので、二人の婚約を認めていただきたいのですが」


 側妃は国王にお願いをした。


「二人が良いのならかまわぬ。アーサーと婚姻を結べば聖女もこの国に一生いることになるのだしな」


 アーサーは喜びを隠せないでいた。

 エドワードは複雑な顔で黙っていた。

 アイリーンは戸惑っていた。


「アーサーは当然かまわないわね」


 側妃がアーサーに向いて聞くとアーサーは満面の笑みで答えた。


「もちろんです。この上なく嬉しい限りです」


「エリシアはどうかしら?」


 エリス姿のアイリーンは戸惑っていたが、おそらくエリスは喜ぶだろうと考えた。


「はい、謹んでお受けいたします」


「エリス!」


 アーサーがエリス姿のアイリーンの両手を取り少し照れながら言った。


「これから婚約者としてよろしくね」


 エリス姿のアイリーンは頷きながらチラリとエドワードを見た。エドワードは壁にもたれ腕を組んで目を閉じていた。


 アイリーンは強盗に襲われた後、全てをエドワードに話していた。

 エドワードは驚いていたが、エリスの以前と違う様相やアイリーンを彷彿とさせる行動に納得せざる得なかった。

 こどもの頃の思い出も二人にしか語れないことだったので、エドワードはアイリーンだと確信を持った。

 エドワードはアイリーンを思いっきり抱きしめたかったが、身体がエリスのうえ、エリスの意識も混在していると聞いたので我慢したのだった。


 今そのアイリーンがアーサーの婚約者になってしまったことにエドワードは複雑な思いでその場にいた。


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