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41.裁判前日

 エリス姿のアイリーンは無事キャサリン嬢を見つけ拘束できた事のお礼に西宮に来ていた。


「側妃様、いろいろご尽力ありがとうございました。側妃様のおかげで証拠もそろったし、キャサリン嬢も見つけられました。本当にありがとうございます」


 エリス姿のアイリーンは心から感謝し、深々と頭を下げた。


「エリシア、そんな他人行儀はやめてちょうだい。わたくしたちは血の繋がった家族なのよ……血が繋がっていても道具のようにしか思ってない人もいるけれど…」


 側妃は辛そうな、悲しそうな顔をした。エリス姿のアイリーンは側妃の手をそっと握った。

 側妃も両手で握り返して言った。


「エリシア、あなたも明日裁判で証言するのよね?わたくしも出席しますから、見守っているわ」


「はい、ありがとうございます。しっかり証言してみせますわ」


 エリス姿のアイリーンは側妃に挨拶をして西宮を出て、離宮に戻ろうとしたとき、北宮からドーワ姿のエドワードが出てきた。


「ドーワ様、どちらに?」


「エリス殿」


エドワードはエリス姿のアイリーンに近づき、耳打ちをした。


「キャサリン嬢の様子を見に」


 キャサリンは昨日捕まえてから、ラジールの衛兵が泊まっている宿で拘束していた。


「昨日はラジール殿下が宿にお泊まりになられたのでしたね」


「ああ、事件の詳細を聞き出すと言っていたが、それを聞こうと。それに明日の裁判で証言してもらわなければならないので、その話をしに」


「そうですか……」


 エリス姿のアイリーンはエドワードの声だけでドキドキしてくる感覚に、戸惑いながらも心地よさを感じていた。まだ一緒にいたいとも思った。


「あの、わたしもご一緒してよろしいでしょうか?」


 エドワードは俯いているエリス姿のアイリーンを目を細めて見つめてから、上向き加減で口から小さく息を吐き答えた。


「久しぶりに市井を見て回りながら宿に行くつもりだが、それでも構わないなら」


「構いませんわ。支度をしてくるので少しお待ちくださいますか?」


 アイリーンは離宮に戻り、歩きやすい服装と靴に変えた。エドワードと街を歩くのは初めてだ。アイリーンは高鳴る胸を両手で押さえ微笑んだ。

 エドワードはエリス姿のアイリーンが戻ってくる間、エリスに対しどう接したら良いか考えていた。ついエリスに触れたくなる衝動に戸惑いを感じていたのだ。


 エリス姿のアイリーンが戻ってくるとエドワードはさっさと歩き出した。

 アイリーンはエドワードの態度に少し寂しさを感じながら、後ろをついて行った。

 エドワードは街に出るとまず繁華街を見て回った。

 ときどき店の者と話をして横暴な輩が出入りしていないか、客足はどうかなどの確認をしていた。

 次に路地などに入り、良からぬものがたむろしていないか、こどもが貧困で困っていないかを見て回った。


 アイリーンはエドワードがこのように市井を回っていること初めて知った。

 今はラジールの側近ドーワの姿をしているのに、しばらく来ていなかったので市井が気になって仕方なかったのだろうとアイリーンは思った。


 ラジールのいる宿場町に近い路地裏に入ろうとしたとき、アイリーンは後ろから男に羽交締めにされた。片手で口を押さえられ短剣を突きつけられた。


「おい、この女の命が惜しかったら金目の物を全て置いていけ!」


 男は前を歩いていたエドワードに向かって叫んだ。

 エドワードは振り返り目を見開いた後、怪訝そうな顔をした。

 強盗は二人組だった。もう一人の男がニヤニヤしながらエドワードに近づいた。

 強盗二人がエドワードに気を取られている隙に、アイリーンは両手で、男の短剣を持つ方の手首を押さえながら後頭部を思いっきり男の胸部にぶつけた。男が少しよろけた隙に振り返り、男の急所を思いっきり蹴った。男は倒れて急所を押さえて悶えて苦しんだ。

 その様子を見たエドワードはもう一人の男に剣を突きつけた。男は青ざめて両手を挙げた。

 エリス姿のアイリーンは急いで警ら隊を呼びに行った。強盗二人は警ら隊に連れて行かれた。

 警ら隊がいなくなるとエドワードはエリス姿のアイリーンを抱きしめた。


「すまない、エリス殿……自分の感情を抑える自信がなくて、君から少しでも離れようとして歩いていた。君の安全を考慮していなかった。本当にすまなかった」


「殿下……」


 エドワードは抱きしめていた腕を緩め、エリス姿のアイリーンの肩に手を置いて顔を見ながら言った。


「君といるといつもアイリーンといるような錯覚を起こしてしまう。君が心に決めた人がいると言ったときも、ラジールと仲良くしているときもわたしは嫉妬をしてしまっていた。君はアイリーンではないのに、アイリーンのような気がして感情が抑えられないんだ」


 エドワードの目に苦悩の色が見てとれた。

 アイリーンは自分がアイリーンだと言いたかった。言ってもエドワードは信じてくれるだろうか?それとも気がおかしくなったように思うだろうか?


 アイリーンは決意した。


「殿下、こどもの頃温室の赤いバラをわたくしに折ってくださったのを覚えていますか?あのとき、殿下が棘で怪我をしたことが気になって、バラを受け取ることもお礼を言うこともできなかたのです。今更ですが、ありがとうございます」


 エドワードは目を丸くして驚いていた。


「殿下、わたくしがアイリーンですわ」


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