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40.裁判二日前

 翌朝、ラジールと側近ドーワ、エリス姿のアイリーンは謁見室に行った。

 その後、国王の計らいで、見事なバラが温室で咲いているので見ながらお茶を飲もうということになった。

 温室には四人だけが入り、その他のものは温室の入り口で待つよう命じられた。

 お茶とお菓子が運ばれてきて、一同はまずお茶を堪能した。

 お茶を飲み終えた国王がティーカップを置きながら言った。


「さて、エドワード。事の詳細を説明してもらおう」


 エドワードは頷き、前日にエリス姿のアイリーンに話したことと同じ内容の話を国王にもした。

 話を聞き終わると国王はマーガレットが持ってきた手紙をエドワードに見せた。

 エドワードは黙って手紙を読んだ。予測していたような内容なのでさほど驚きもしなかった。

 エドワードが全ての手紙を見て終わると国王が言った。


「これで証拠は揃い、容疑者も固まった。二日後に裁判を行う。名目はアイリーン・バクルー公爵令嬢の裁判だ…」


「陛下!」


 エドワードは驚いた顔をし、立ち上がった。


「エドワード、最後までよく聞け。アイリーンは犯人と確定されて裁判を受けずに処刑されようとした。改めての裁判をすることに疑う者はおらぬ。その裁判に事件関係者を全員集めて糾弾するつもりだ」


 ラジールが掌を拳で叩いて言った。


「なるほど!はなっから事件関係者の裁判ともなれば、逃げてしまう輩が出るが、アイリーン嬢の裁判と言えば自分が裁かれると思ってないので事件の顛末見たさにやって来るという算段ですね。さすが陛下!」


 国王は頷いた。


「しかし、アイリーンは記憶をなくしてるので裁判に出席するのは……」


 エドワードが心配そうに言った。


「心配いらぬ。裁判の囮に名前を出すだけだ」


 エドワードは安心した顔をして座った。


「上位貴族ならびに首都にいる貴族、王宮役職者、その全ての家族を出席させる。逃げ出すものが出ぬように首都の周りには兵を配置する」


 国王はそう言うと席を立ち、エドワードに頷きかけ温室を出た。


「二日後だって、急だね」


 ラジールがお菓子をつまみながら言った。


「事件関係者に隙を与えないためだろう。陛下の決断力には頭が下がるよ」


 エドワードは感心したような口調で言った。

 エリス姿のアイリーンは少し俯いて考えごとをしていた。


「エリスチャン、どうしたの?」「エリス殿、どうかしたか?」


 ラジールとエドワードは、ほぼ同時にエリス姿のアイリーンに声をかけた。


「実行犯であるキャサリン嬢は裁判に来ないわよね……裁判での噂を聞いたら逃げるかも」


「……そういえば、マーガレット嬢がどこかに匿っている言い方していたな」


 エドワードは思い出したように言った。


「側妃様の出番かしら」


 エリス姿のアイリーンはそう言って二人の王太子に挨拶をすると、温室を出て西宮に向かった。

 西宮の入り口で衛兵に謁見を申し出ると、来客中だと言われた。

 エリス姿のアイリーンは急用なので少しだけ時間を割いて欲しいと伝えるようにお願いすると、衛兵は応接室に行き、側妃と共に戻って来た。


「エリシア、急用って何かあったの?」


 エリス姿のアイリーンは誰にも聞かれないようにホール横にある納戸に二人で入った。

 エリス姿のアイリーンは今日の国王との話を手短にして、マーガレットにキャサリンの居場所を聞いて欲しいと頼んだ。


「今ちょうどマーガレット嬢が来ているわ。困ったことにあれから度々来られるの。手紙を返せと言われても困るから無下にできなくて。今から聞き出してくるので、ここで隠れていてくれるかしら?」


「ありがとうございます」


 アイリーンはエリスに頼りになる叔母様でよかったわねと心の中で言った。

 どのくらい経っただろうか、側妃が戻って来た。


「出ても大丈夫よ。お昼時だからと言って帰っていただいたわ」


 側妃はそう言って自室に案内した。


「キャサリン嬢の居場所だけど、疑惑を持たれないように聞いたから、具体的にはわからないのよ。郊外の修道院にいるとおっしゃっていたわ」


「ありがとうございます。それだけで十分です。裁判までに探し出せますわ」


 エリス姿のアイリーンは側妃に礼を言うと急いで温室に戻った。

 温室にはもう誰もいなかった

 アイリーンは温室を出て北宮に行くと、エドワードとラジールは食堂で昼食を摂っていた。


「エリス、食事は済ませた?一緒に食べない?」


 ラジールが自分の隣の椅子を引いて言った。


「食事は結構です。それよりキャサリン嬢の居場所がわかりましたわ」


 エリス姿のアイリーンはそう言いながら引いてくれた椅子に座った。


「どこにいた?」


 エドワードが持っていたフォークを置いて聞いてきた。


「郊外の修道院ですわ」


「郊外か……どこかの領地に隠れているよりは探しやすいな。郊外に修道院幾つあったかな?」


「ふふ、郊外に修道院は一つしかありませんわ」


「修道院は一つしかなかった?」


 エドワードは不思議そうに言った。


「ええ、修道士たちがいるところは幾つかあるのですが、修道女がいるところは一つですわ」


 エドワードはハッとなり、こめかみに手を置いて笑った。


「キャサリン嬢をお迎えに行かなければならないのですが、ここにいる者は誰もキャサリン嬢の顔を知りませんでしょう?きっと偽名を使っているでしょうし」


「……アーサーか」


「いえ、王子殿下が行かれると警戒して逃げ出す可能性があります。バロー男爵夫人にお願いしようかと思ったのですが、それも夫人がキャサリン嬢を逃してしまう可能性があるので……」


 エドワードとアイリーンが行き詰まっているとラジールが言った。


「ねぇねぇ、エリスチャンがさ、バロー家の侍女になりすましてさ、『バロー家の奥様が亡くなられたからお嬢様を呼んでください!』って修道院の前で大きな声で言ってみたら?慌てて出てきた人がお嬢様でしょ。そこに待ち構えていた衛兵が確保!チャンチャン」


 ラジールは半ば冗談のつもりだったが、エドワードは名案だと思った。


「よし、それでいこう」


 エドワードは立ち上がり、ラジールの肩を叩いて言った。


「衛兵は貸してくれよ」


 三人はすぐに修道院に向かった。


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