表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

3.披露目式と毒薬

 アーサーの言葉とは裏腹に、エドワードとエリスの噂はさらに広がっていった。

 披露目式の直前になると、噂話はエスカレートし、アイリーンとの婚約解消、披露目式でエドワードとエリスの婚約発表とまで囁かれるようになった。

 アイリーンは幾度となくエドワードのもとを訪れ、噂話の真意を探ってみるが、エドワードの答えはいつも、放っておけばいいと言うだけだった。


「殿下、殿下とエリス様の噂話が益々横行していますわ。何もないのはわかっておりますが、このままではお二人の名誉に傷がついてしまいます。もちろんわたくしも。ダンスのレッスンは別の方にお願いしてみてはどうでしょう」


「陛下の命令だから勝手に変えることはできない。君もただの噂話に君も翻弄されることないようにしたまえ」


 エドワードはアイリーンの噂話に関する提案に耳を傾けることがなかった。エドワードのそういった態度がアイリーンとの不仲説に拍車をかけた。


(おかしいわ。根も葉もない噂ならすぐに消えていたでしょうに。殿下とエリスの間には何もないのは間違いないわ。……誰かが何かの目的で意図的に噂を流しているとか……)


 アイリーンは心当たりを考えてみた。


(王家にとってバクルー公爵家との繋がりは必須のはず、聖女の力を欲しても所詮平民、権力には程遠い。王宮に匿ってしまえばそれで済むこと。ならば王家は関係ない。それでは、バクルー公爵家が王家に近くなることを阻止したい家門が流したのかしら?それにしてもこんなお粗末な噂話で縁談が壊れるなんて思う馬鹿な貴族いるかしら。あるいはエリス様自身が……いえ、それはないわね、そんなお方じゃないし、流すならお慕いしていそうな王子殿下とよね)


 披露目式当日。王宮大広間。エリスは純白のドレスに身を包み、エドワードにエスコートされて大勢の貴族が見守る中、国王・王妃両陛下の御前にて忠誠を誓った。


「皆の者、これより聖女エリスは国の宝、何人たりとも聖女を傷つけたり蔑んだりできないと意せよ。聖女を傷つける者は王家への反逆とみなす!」


 エドワードとエリスのダンスを皮切りに宴が始まった。アイリーンは壁際でワインを飲みながらその様子を眺めていた。

 踊っている二人を挟んでアーサーの姿が見えた。アーサーは刹那そうな顔をして二人を見つめていた。

 二人のダンスが終わるとエドワードのもとには令嬢たちが、エリスのもとには紳士たちが一斉に押しかけて、次のダンスの相手を所望した。

 エリスのもとにはアーサーもいた。エリスはアーサーの手を取り踊り始めた。

 アイリーンは変わらず壁際でワインを飲んでいた。


「僕の婚約者殿はつれないな。僕よりワインの方がいいのか?」


 エドワードが大勢の令嬢をかき分けてアイリーンのもとにきた。


「一曲お願いできますか、アイリーン」


「ええ、よろこんで」


 二人のダンスは優美で、しかめっ面をしていた令嬢たちも次第に見惚れていた。アイリーンは踊りながらエドワードに問いかけた。


「聖女様はいかがでしたか?」


「……その質問の意図がよくわからないが?」


 エドワードはアイリーンが噂話のことをまだ気にしいるのかと思い怪訝な顔をした。アイリーンはそれに気づき、言い足した。


「ダンスです。練習時間も少なく、初めてのことでしたでしょうから、かなり緊張なさっていたのでは?」


「緊張はしているようだったが、我が婚約者殿がしっかり基本を叩き込んでくれたおかげでスムーズに踊れた」


「殿下との毎日のレッスンのおかげで息もピッタリになられたのでは?」


「……」


 エドワードは黙り込んだ。分かりにくいがその顔には不快さが見てとれた。エドワードが何か言いかけたところで音楽が鳴り止んだ。アイリーンは一歩下がりお辞儀をした。再び令嬢たちが押しかけてきたが、エドワードは黙って大広間出て行った。


 披露目式は滞りなく終わり、談話室で王妃とエドワードが休息していた。エリスも王妃に呼ばれていたので談話室のノックをしようとした瞬間、後ろから声をかけられた。


「エリス、ちょうど良かった。話があって」


 ティーセットを乗せたワゴンを押しているアーサーに呼び止められた。そこにアイリーンもやって来た。


「まあ、王子殿下がワゴンを押してきたのですか?侍女は何しているのかしら?」


「いや、そこであってついでに僕が運んどくよと言ったんだ。エリスに用があったから」


「ではわたくしが運んでおきますから、殿下はエリス様とお話ししてきてくださいませ」


 アイリーンはそう言うと談話室のドアをノックして中に入って行った。アーサーとエリスは中庭に通じるドアの方へ歩いて行った。

 中に入ったアイリーンはお茶をカップに注ぐと王妃とエドワードの前に置いた。


「侍女はどうしたの?」


 王妃が質問しながらお茶を飲んだ。エドワードも口をつけた。アイリーンが説明しようと自分のカップを手にして座ろうとした時、王妃が苦しみ始めた。続いてエドワードも。

 アイリーンはびっくりして持っていたティーカップを落とした。カップは大きな音を立てて割れ散った。

 その音に近くにいた衛兵が部屋に飛び込んで来た。


「王妃様、殿下!」


次回の投稿は11/1の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ