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38.容疑固まる

 側妃がマーガレットに会って五日後の夕方、エリス姿のアイリーンは側妃に呼び出された。

 マーガレットが手紙を側妃のところへ持ってきたのだ。

 側妃は手紙を受け取ると、居座ろうとしたマーガレットを早々に帰らせた。

 マーガレットには事件解決までアーサーとの婚約のことは内密にすることと、側妃が指示出すまでエリスに危害を加えないことをしっかりと約束させた。


 エリス姿のアイリーンが側妃の部屋を訪れると、すぐ手紙をアイリーンに見せた。先に読んでいた側妃はかなり憤慨していた。


「人の命をなんだと思っているのでしょうか?あの方たちにとって自分以外は物なんでしょうね!」


 エリス姿のアイリーンはソファに座り手紙を読んだ。

 手紙は三通あった。側妃が読んで古い順に並べていた。

 一通目の手紙はマーガレットがモントロール公爵に送った手紙の返事だった。

 アーサーとの婚姻を推しても良いが、その代わりにやってもらいたいことがある、後日連絡すると言う内容だった。


「マーガレット嬢はアーサーの伯父にあたるモントロール公爵にアーサーの婚約者に推薦してもらうため手紙を送ったようね」


 側妃は呆れ顔で言った。


「行動力がありますわ、さすがウォール侯爵令嬢」


 エリス姿のアイリーンは含み笑いをしながら言った。


「厚顔無恥の間違いではなくて?」


 側妃は顔をしかめながらため息をついた。


 アイリーンは二通目の手紙読んだ。

 聖女を殺害してもよいが、王妃、王太子が優先事項、渡した毒薬をいつ、どこで使うかは任せるといった内容だった。

 この手紙の前に王妃、王太子殺害計画はどこかで話し合われ、マーガレットはそのときに公爵から毒薬を受け取ったようだ。


「エリシアはもともと公爵の眼中にはなかったようね。マーガレット嬢があなたを殺したいほどの怨みってなんですの?」


 エリス姿のアイリーンはため息をついてから微笑んだ。


「嫉妬……でしょう」


 エリス姿のアイリーンはそう言いながら三通目を広げた。

 王太子と聖女の噂が思いのほか広がったのでアイリーンを利用するように書かれていた。四人をうまく絡ませて殺害すれば、あとは仲間が犯人はアイリーンで処理をすると。


「アイリーン様が一緒に亡くなれば、無理心中で処理されたのでしょうね……なるほど、決まっているとはこういうことでしたのね」


 アイリーンは取り調べでブーリン卿が「犯人はあなたと決まっている」と言ったことを思い出した。

 側妃は他にも手紙を出してきた。マーガレットが一緒に隠して欲しいと持ってきたものだ。

 その手紙はキャサリンからの手紙だった。

 エリス姿のアイリーンは十通以上はありそうな手紙全てに目を通した。

 マーガレットとキャサリンは家同士の利害関係がそのまま主従関係になっていたようだ。

 キャサリンが実行犯であることは間違いないが、手紙にはやりたくないという思いが表れていた。考え直すようマーガレットを説得している文章も何度かあった。

 おそらくマーガレットはウォール侯爵家がバロー男爵に融資していることを利用して脅していたのだろう。

 マーガレットは誰かに見られないよう、キャサリンとの接触は避けていたようだ。

 カインを通して手紙のやり取りをしていたのが手紙の内容でわかる。

 カインは側妃の護衛が任務なので、キャサリンは側妃の護衛に手紙をカインに渡すように頼んでいたのだ。

 手紙の内容からしてウォール侯爵家は関与していないことが明らかだった。


 全てが繋がったとアイリーンは思った。


「ではこれを持って陛下のところへ行ってください」


 側妃の言葉にエリス姿のアイリーンはゆっくり頷いた。


 

 アイリーンはあらかじめ王妃との謁見をお願いしていた。

 王妃との謁見中に温室を見に行こうという話になって二人は温室に行った。

 そこへ国王が偶然、温室の花を見に来た。

 ここまではアイリーンが立て、陛下にお願いした筋書きだ。

 陛下の側近、特にブーリン卿に怪しまれないためだ。


「陛下にエリスがご挨拶申し上げます。陛下申し訳ありません。陛下に足を運んでいただくことになってしまいましてお詫び申し上げます」


 エリス姿のアイリーンは深々と頭を下げた。


「誰にも知られてはならぬ話があったのだろう?」


 国王は王妃に向かって軽く頷いた。王妃も頷き離れて行った。


「はい、陛下。重大な事でございます。まずはこれをご覧ください」


 そう言ってエリス姿のアイリーンは手紙を渡した。

 国王は頷いて手紙を読んだ。黙って読んでいたが、読み進めるごとに顔が険しくなっていった。

 三通目の手紙を読むと思わず声が出ていた。


「これは……なんと!」


 国王は手紙を読み終わるとエリス姿のアイリーンの方を向いて頷いた。


「陛下、三通目に書かれている仲間とはおそらくブーリン卿のことでございます。王太子殿下を北の領地で襲った暗殺者もブーリン卿が手配したものと思われます。しかしながら、名前が書かれていないので証拠がありません」


「うむ……実はエドワードがラジール王太子と隣国に行ったのは訳があってな。どうもブーリンに関係あるらしい。エドワードも隣国を出たとの知らせがあった。二、三日もすれば戻るだろう。エドワードが帰ってきたらそのことも含めて、モントロール公爵とその一派を裁判にかけるつもりだ」


 アイリーンはエドワードが帰って来ると聞いて胸が高鳴った。

 会いたい、会いたいという思いが頭の中を占めていった。


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