33.側妃のお茶会
アーサーが側妃との謁見の話を持ち出してから数日後、エリス宛に側妃からお茶会の招待状とアーサーからのプレゼントが届いた。
プレゼントには手紙が添えられていた。
「母上にエリスが会いに来ると伝えると喜んでいた。でも個人的に会うと周りの誤解が生じかねないというので、お茶会という形を取ることにしたよ。舞踏会のときの約束が果たせていなかったのでドレス送るね。本当は一緒に出掛けてエリスの似合うドレスを試着しながら選びたかったけど、執務が忙しくて時間が取れそうにないんだ。お茶会楽しみにしている。 アーサー」
プレゼントの箱を開けるとドレスと宝石が入っていた。
ドレスは瑠璃色がベースでベビーピンク色のレースが、胸元周りとAラインのスカート部分にデコレーションされていた。
宝石はアイスブルーダイヤモンドのネックレスとお揃いのイヤリングで、ドレスにとても合っていた。
「シンプルだけど、上品でお茶会にピッタリだわ。エリス様のピンクの髪にも合っていますわね。サイズも大丈夫そうね。さすが王子殿下はエリス様のことをよく把握していますわ」
エリス姿のアイリーンはこのドレスを選ぶときのアーサーの様子を想像して微笑んだ。
お茶会当日。
エリス姿のアイリーンはアーサーからもらったドレスと宝石を身に纏い、西宮に出向いた。
今回の側妃のお茶会は庭園で開いた。オープンにすることで余計な誤解を生まないためだ。
侍従に案内されて庭園に足を踏み入れると、すでに何人かの招待客が来ていた。
エリス姿のアイリーンを見るとみんな集まって来た。
それぞれに挨拶を交わし、席に着いた。
大きなテーブルの上に派手ではないが美味しそうなお菓子が並べられていた。
その周りに椅子が七脚、アイリーンの右隣の席以外は貴族夫人らが座っていた。
貴族夫人らは聖女であるエリスに興味津々だった。誰かがエリス姿のアイリーンに質問をすると、次から次へと質問が飛び交った。
エリス姿のアイリーンが何から答えて良いのか困っていると、側妃が現れた。
みんな一斉に立って挨拶をした。
側妃がエリス姿のアイリーンの隣の席に座ると、一同も座った。
「本日はわたくしのお茶会に来ていただき、感謝いたします」
側妃はそう挨拶するとにっこり笑って言った。
「さあ、皆さん。硬い挨拶はここまでにして、今日は楽しんで下さいね。それと、初めましてエリス……」
側妃はエリスの方を向くなり、驚いた顔をして黙ってしまった。
一同がどうしたものか困惑しはじめた。
エリス姿のアイリーンは場を読みとり感謝の意を述べた。
「側妃様、お茶会にお招きいただきましてありがとうございます。至らぬ言動があるかと思いますが、本日は皆様の恩顧を受けるつもりで参りました。よろしくお願いいたします」
エリス姿のアイリーンの気品溢れる所作に貴族夫人らは見惚れていた。
側妃も我に返り、エリス姿のアイリーンの所作を褒めた。
側妃のいつものお茶会メンバーだったので、お互い気心が知れており、初めての参加のアイリーンも楽しい時間を過ごせた。
そろそろお開きにしようかという時間になってアーサーが現れた。
貴族夫人それぞれがアーサーに挨拶をして帰り支度を始めた。
アーサーは挨拶し終わるとエリス姿のアイリーンのもとに来た。
「今日は一緒に参加されるとばかり思っていましたわ」
「うん、そのつもりで執務頑張ってたんだけど、母上が来なくていいって。でもどうしてもエリスのドレス姿が見たかったんだ。とても似合ってるよ、エリス」
「ありがとうございます、殿下。このような素敵なドレスと宝石、身に余りますわ」
側妃が貴族夫人らとの挨拶が終わり、二人のもとに来た。
「アーサー、なぜ来たのです?今あなたは噂話の渦中にいるのですから、あまり人のいるところには顔を出さないようにと言ったはずです」
「エリスが帰る前に、どうしても僕の送ったドレス姿を見たかったんだ」
側妃はため息をついた。それからエリス姿のアイリーンの方を見て言った。
「これから時間取れるかしら?」
アイリーンは頷いた。
「アーサーは執務に戻りなさい」
側妃にそう言われてアーサーは渋々戻って行った。
エリス姿のアイリーンは側妃に案内されて西宮の応接室に入った。
側妃は人払いをした。
「あなたに確認をしたいことがあるの」
側妃はためらいながらも、真剣な目で言った。
「あなたの背中……腰のあたりを見せて欲しいの」
側妃の申し出にエリス姿のアイリーンは驚いた。
アイリーンが戸惑っていると、側妃が切羽詰まったような声で懇願した。
「このようなお願い驚いてあたり前だと思いますが、でもどうしても確認したいことがあるのです……あなたがある方のこどもではないかと……その証拠が背中にあるのよ、お願い、見せて……」
側妃はエリス姿のアイリーンの足元に崩れ落ちた。
「側妃様!どうかお立ち下さい。背中をお見せしますから」
エリス姿のアイリーンはそう言って側妃に背中を向けた。
側妃は震える手でドレスのボタンを外し、コルセットの紐を緩め、恐る恐るコルセットの裾を持ち上げた。
「ああ、やっぱり……」
側妃はそう言って泣き崩れた。




