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28.モントロール公爵家

 ラジールは昨日、隣国の王太子をもてなすという名目で、バグルー公爵家と同等の権威のあるモントロール公爵家に招待されていた。


「ようこそ我がモントロール公爵家へ。歓迎いたしますぞ、ラジール王太子殿下」


 モントロール公爵はラジールを大広間に案内した。側近であるエドワード扮するドーワと騎士一人も大広間に案内された。

 中に入るとビュッフェスタイルで食べ物が置かれ、すでに大勢の貴族が談話していた。

 モントロール公爵がラジールと入るや否や、全員が注目した。


「隣国の王太子ラジール殿下が来られましたぞ」


 みんなが一斉に拍手した。


「王太子殿下、ここにいる貴族は傍系も含め我がモントロール家一同です。後で一人ひとり紹介させてもらいます」


 そこに少し年配の女性と年頃の令嬢が二人近づいてきた。


「王太子殿下、妻と娘です。ほら、挨拶を」


「はじめまして、王太子殿下。モントロール公爵夫人のメアリーですわ。この子は上の娘フリーディア、こちらがカメリア」


「はじめまして王太子殿下。よろしくお願いします」


 フリーディアとカメリアはお互い牽制しあいながら、一歩でもラジールの近くに寄ろうとこぜりあっていた。


 公爵家家族との挨拶が終わると、娘を連れた貴族たちが我先にとラジールの元へやって来て、娘を褒め称えては愛想振りまいた。



「あれは歓迎会という名の妃候補アピール大会だったね」


 ラジールは腕を前で組んで思い出すかのように瞼を閉じて言った。連れてきた婚約者が実は嘘だったと知って、皆自分の娘を紹介したかったのだ。


「モントロール公爵家にはお二人、令嬢がおりましたわね。公爵家は側妃様の生家でもありますわね」


「あーでもね、傍系のご令嬢も全員来ていてね、ハーレム状態だったよ」


「まあ……」


「隣国と繋がりが持てるなら誰でもいいんだろう。何人もいれば一人ぐらいは気に入られるとでも考えたのだろう」


 エドワードは呆れ顔で言った。

 ラジールもため息をついて言った。


「俺のこと馬鹿にしてるよねー。エリスチャンに比べたらみんなカボチャだよ?」


「ちなみにウォール侯爵令嬢も来ていた」


 エドワードは意味ありげに言った。


「ウォール侯爵令嬢と言ったらあの子?終始不機嫌な顔していたよね?父親に連れられて挨拶に来たけど、横向いて一言も喋らなかったんだよ」


 ラジールは呆れ顔で首を窄めて言い、エリス姿のアイリーンに向かって同意を求めるように首を傾げた。

 エドワードは口角を上げて頷きながら言った。


「そう、彼女のおかげで、首謀者を確信したよ」



 エドワードはモントロール公爵が大広間を出て行き、その後を追うようにマーガレットが出ていくのを見た。

 エドワードがこっそり跡をつけると、マーガレットが公爵を呼び止め、近くの部屋に入って行った。

 エドワードはドアの前で二人の会話を聞いた。


「公爵様、いつになったらアーサー様と婚約させてくれるんですの?」


「まあ、待て。側妃が首を縦に振らないのだ」


「そんな、アーサー様の婚約者にしてくれると公爵様がおっしゃるからあんなことまでしたのに……」


「だが、失敗だったではないか。その上実行犯まで知られる羽目になって。あの令嬢は処分したのだろうな?」


「それは……でも大丈夫です。誰にも知られない場所に匿ってもらっていますから」


「どこで綻びが起きるかわからない。早めに処分を。でなければ、おまえの口も塞ぐ羽目になるぞ」


 そう言ってモントロール公爵は部屋から出た。マーガレットは真っ赤な顔をして悔しそうに地団駄を踏んでいた。



「あの話からすれば首謀者はモントロール公爵か、あるいは側妃」


 エドワードが言うとエリス姿のアイリーンが続けて言った。


「実行役にマーガレット嬢を選んだけれど、彼女がキャサリン嬢に頼んでしまったということですわね」


 陽が沈み始め空気が冷たくなってきた。ラジールが離宮を指差して言った。


「ねぇねぇ、暗くなってきたから中で話さない?」


「離宮に入るわけにはいかないから、北宮に行こう。ちょうど夕食の用意もできた頃だろう」


 エドワードが立ち上がり北宮の方に親指を立てて差した。


「エリスも行くよね?まだ話の途中だし?」


 ラジールがエリス姿のアイリーンに請うように訊ねた。


「そうですね…この話もう少し煮詰めたいですわ」


「じゃあ決まり!」


 三人は北宮に移動し、夕食を食べてからラジールの部屋で話の続きを始めた。


「俺はよそ者だからよくわかってないので、ちょっと整理させてもらってもいい?」


 エリス姿のアイリーンとエドワードは黙って頷いた。


「つまり、こういうことだよね?エドワードたちに毒を盛った実行犯はキャサリン嬢。そのキャサリン嬢に頼んだのがマーガレット嬢。そのマーガレット嬢に頼んだのがモントロール公爵。そしてそのモントロール公爵に側妃様が依頼した可能性があると」


 アイリーンは感心した。一度聞いただけで名前を覚えているし、状況も把握できている。日頃お調子者を気取っているが、本当は賢いのだろうと思った。


「依頼というよりは共犯だろう。王妃とわたしがいなくなれば、アーサーが王太子になるし、側妃は王妃になる可能性が出てくる。モントロール公爵は側妃の実兄、アーサーにとっては伯父だ。国の実権を握るのが容易くなる」


「それじゃあ、暗殺者に依頼したのもモントロール公爵で決まり?」


 ラジールはウインクして言った。エドワードは首を振った。


「いや、おそらく違う人物……」


 エドワードがそこまで言うとアイリーンはピンときた。


「ブーリン卿ですわね!」


 エドワードは頷いた。


「ブーリン卿は常に国王と共に行動して一番近くにいる。おまけに近衛兵団隊長だ。この国で知らない者はほとんどいないだろう。それに国境近くでラジールと対談をすることを知っていたのは陛下と宰相と近衛兵団隊長であるブーリン卿だけだった」


 三人は夜中まで話をした。ラジールがウトウトし始めたので、話を切り上げて眠ることになった。エリス姿のアイリーンはラジールの婚約者として来たときに案内された部屋を使った。


(わたくしは明日のために今日は寝ずの番ですわ。エリス様、明日お願いしますわね)


アイリーンは明日、孤児院でエリスと交代するために一睡もしない覚悟だった。


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