表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/50

26.晩餐会

 エリス姿のアイリーンは国王との謁見の後、離宮に行った。


「まあ、聖女様。お久しぶりでございます。少しの間留守にすると申していたのに、一ヶ月近く帰って来られないので、皆心配していたのですよ」


 侍女が寄って来て言った。


「いろいろありましたの。アイリーン様はお元気かしら?」


 侍女は少し目線を下げた。


「それが……王太子殿下も聖女様もいなくなってしまわれて、ほとんど部屋から出て来ないのです。食事も毎回残しています」


「そう……」


 エリス姿のアイリーンは、アイリーンの姿をした誰ともわからない者の部屋を訪れた。ドアをノックしたが返事がなかった。そっとドアを開けるとアイリーン姿の正体不明者はベッドで眠っていた。

 アイリーンは傍の椅子に腰掛けた。

 

(あなたは一体どなたなの?)


 アイリーンは大きくため息をついた。ふと見ると、アイリーン姿の不明者の右小指の爪が傷んでいた。


(そういえば、離宮に来た頃爪をよく噛んでいたわね。元気になってから見かけなくはなっていましたけど……不安になると噛んでしまわれるのね。わたくしの爪なんですから、もっと大事に扱って欲しいですわ)


 エリス姿のアイリーンがアイリーン姿の不明者を眺めながら考えていると、目を覚ました。


「まあ!エリス様!お帰りなさい!」


 そう言いながらアイリーン姿の不明者は起き上がった。


「ただいま戻りました」


「良かったです。エリス様もエドワード様のように戻らないかと不安でした…」


 そう言ってアイリーン姿の不明者は涙ぐんだ。


「心配おかけしました」


 エリス姿のアイリーンはそう言うと、アイリーン姿の不明者に耳打ちした。


「王太子殿下も無事です。事情があり療養中のままですが、元気にしておられます」


「エドワード様が!」


 アイリーン姿の不明者は喜びで涙が溢れて止まらなかった。


「誰にもおっしゃらないでください。そのうち会いに来てくださると思います。だからしっかりと食べて元気出してくださいませ」


 アイリーン姿の不明者は涙を流しながら、何度も頷いた。


 エリス姿のアイリーンは北宮に行き、自分の荷物を離宮に運ぶように侍従に頼んでいると、ラジールが現れた。


「なに、なに、エリスチャン移動するの?誰にも邪魔されず、まったりとエリスチャンと夜を過ごそうと楽しみにしてたのに」


「もう婚約者のフリしなくてもよくなったのですから、わたしがここにいる理由はありませんわ。それにエドワード様はまだ側近としてこちらで過ごされるのでは?」


「えーそうなのぉ?エドワードこそ自室に帰ればいいのに。じゃあさ、俺がエリスチャンのところへ行くよ」


 ラジールはそう言ってウィンクした。そこへ部屋で荷物の整理をしていた側近姿のエドワードが来た。


「誰が誰のところへ行くって?」


「やあ、側近君。何も言ってないよ」


 エドワードは何か考えているらしく、髭を触りながら視線を泳がせていた。


「側近君?どうした?髭が歪んじゃうよ?」


「…その側近の名前だが、ドーワと呼んでくれ」


 ラジールとエリス姿のアイリーンは目を合わせて声を出さずに笑った。


「いやぁ、ドーワ君ねぇ。安易な発想だねぇ」


「おまえがここにいる間は側近として過ごすから、わたしを呼ぶのに名前が必要だろう」


「了解。ではドーワ、さっそくお仕事です。俺の荷物も片付けて?」


「そんなこと、侍女に頼め!」


 エドワードはラジールを睨みつけた。それからエリス姿のアイリーンの方に向いて微笑んだ。


「離宮に戻るのか?」


「はい」


「そうか…わたしもアイリーンに会いに行きたいのだが、アイリーンは軟禁の身だ。他国の者の姿で会いに行くわけにはいかない。事件が解決するまでアイリーンをお願いする」


「承知いたしました」



 ラジールとエリス姿のアイリーンは晩餐会に出席した。他には王妃とアーサーと宰相が出席していた。

 側近であるエドワードにはもちろん席がない。ラジールの席の近くの壁際に立ち様子を伺っていた。

 側妃の席もあるが欠席している。ブーリン卿も国王の席の近くに立っていた。

 国王はワイングラスを持ち、


「ラジール王太子、今日はエドワードのためにご足労していただいたこと、心より感謝する。我が国と隣国の栄光に乾杯!」


 国王はグラスを掲げた。ついで他の者も倣った。


「エリス、久しくお会いしなかったけれど、変わりはない?」


 王妃がエリス姿のアイリーンに声をかけた。


「はい、王妃様。健やかに過ごしております」


「そういえば、エリスはラジール王太子の婚約者と聞いていたが、まさか本当ではないな?」


 国王が重々しい声で聞いた。


「はい。エリス殿も狙われているとお聞きしたもので、敵の目を欺くための手段です。わたしとしてはこのまま真実に転換しても良いと考えていますが?」


 ラジールはしれっと言い放った。国王の顔が歪んだのを見てエリス姿のアイリーンがすかさず弁明した。


「陛下、ラジール王太子殿下はいつもこのような調子で冗談を申しますの」


「そうか、エリスは隣国に嫁ぐ気はないのだな?」


「もちろんでございます」


「ということだ。諦めて帰ってくれ、ラジール王太子」


 国王は先ほどとは違い笑いながら軽口で言った。


「はは、実はもう何度も振られておりますから」


 ラジールも場を明るくするように言った。

 エリス姿のアイリーンは、アーサーのことを時々見ていた。

 エリスがラジールの婚約者とは本当か国王が聞いたとき、アーサーの顔は驚きと困惑が混ざった表情をした。アイリーンが弁明をすると安堵の表情になり、ラジールの最後の言葉には怒っているようだった。

 そんなアーサーが可愛く、愛しく感じてずっと見ていたい気持ちになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ